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業界人の《ことば》から 第416回

NECに22年ぶり文系出身社長誕生、異例と考えられる背景は?

2020年12月03日 16時30分更新

文● 大河原克行 編集●ASCII

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「NECの実力として、営業利益率5%が見えてきたが、これは世界的にみれば、普通の会社になったということ。これからは、世界に伍していける会社を目指す」

(NECの森田隆之次期社長兼CEO)

 NECは、2021年4月1日付で、森田隆之副社長兼CFOが、代表取締役執行役員社長兼CEOに就任すると発表した。新野隆社長兼CEOは、代表取締役副会長に就く。また、遠藤信博会長は、そのまま取締役会長の職に留まる。

 NECとしては、22年ぶりの文系出身社長の就任、15年ぶりの副会長職の復活という異例のトップ人事ともいえる。

新野現社長と握手を交わす森田氏

 森田次期社長は、「現在遂行している2020中期経営計画は、収益構造の改革を起点に大きく前進をした3年間であり、収益構造の改革、成長の実現、実行力の改革の3つのテーマで成果があがっている。新社長として期待されているのは、この流れを止めることなく、これまでの経験を活かし、さらなる高見を目指すために、NECをリードしていくことであると認識している」と発言。「次期中期経営計画では、NECが持つグローバルレベルのR&D、技術力を、事業収益につなげる事業開発力を強化することで重要であり、成長を起点にして収益構造のレベルアップを図りたい」と抱負を述べた。

文系出身でM&Aで業績を上げる

 森田次期社長は、1960年2月、大阪府出身。1983年3月に東京大学法学部卒業後、同年4月、NECに入社した。海外部門での経験が長く、また、NECのM&A戦略にも深く関わってきた。

 「1990年の米国駐在時に、NECとしては初の本格的M&Aである独シーメンスの私設交換機事業の買収に関わったことが、その後も、数々のM&Aに携わるきっかけになった」と振り返り、PC事業におけるレノボとの合弁、半導体事業のルネサステクノロジとの合弁、アビームコンサルティングへの出資、米ネットクラッカーの買収、海底ケーブルのOCCの買収なども手掛けてきたことに触れた。

 2011年のレノボグループとのPC事業の合弁では、「当時、NECのPC事業は国内ナンバーワンのシェアを持っていたが、利益は厳しい状態だった。まだ、日本の会社のなかには、マイノテリィでジョイントベンチャーを考える会社はなかったが、結果は、NECにとっていい形でPC事業を継続でき、工場もそのまま活用し、いまでも日本のモノづくり力を生かしている。レノボグループにとっても、グローバルの生産拠点として活用され、日本のPC事業の収益性は高いものとなっている。Win-Win-Winの形ができたと思っている」と振り返る。

 そして、「M&Aは特殊なものではなく、ひとつの手段である。NECの強い領域を、いち早く立ち上げるためのマーケットアクセス、カスタマーリーチであり、その領域におけるナレッジを獲得できる。スピードを買うという意味でもメリットがある。適切なところで、適切な形で、M&Aをやっていくことが大切である」とする。

 だが、この20年間のM&Aを含む構造改革の結果、2000年度には5兆4000億円だった売上高は、2019年度実績で3兆円となっており、45%も減少した。

 これに対して、森田次期社長は、「M&Aを通じて学んだのは、長期的視点での収益の最大化である。そうした視点で、物事を組み立てる訓練をしてきた。立場が違えば、物事が違って見えるということも理解した」と前置きし、「2019年度は過去最高の最終利益になっており、ネットキャッシュでもプラスに転じつつある。成長し、長期的な価値を高めるには、グローバルで勝ち抜くための投資余力を持ちながら戦う必要がある。単純な足し算としての売上高ではなく、フォーカスした領域における売上高、利益の最大化が最も重要である」とする。

 これが森田次期社長の経営に対する基本的な考え方だといっていいだろう。

絶対に踏み外さないを前提とした守りの経理と財務

 森田次期社長は、2006年4月に執行役員に就任。2011年に執行役員常務に就任し、赤字事業の改善やセーファー事業の立ち上げ、海外事業の立て直しにも関わってきた。また、2016年からはCGO(チーフ・グローバル・オフィサー)を兼務。成長のためのM&A戦略の立案、投資実行のための体制強化に着手している。2018年4月に代表取締役 執行役員副社長に就任したのち、2018年6月からはCFOを兼務した。

 このとき、海外事業を引き継いだのが、GEジャパン元社長である熊谷昭彦副社長だ。NECには「前例がない」と言われた外部からのトップ人材の登用として、対外的には大きな注目を集めたが、実は、その裏で、もうひとつの「前例がない」人事が社内的には話題となっていた。それは、約120年の歴史を持つNECにおいて、経理畑の経験がない初のCFOの誕生という、森田次期社長の人事であった。

 それまでのNECの経理・財務部門の基本姿勢は、「絶対に踏み外さない、絶対にこけないことを前提とした守りの経理、財務」であったが、新野社長兼CEOは、「NECが変わり、攻めていき、グローバルに出ていくときに、経営のノウハウを持ち、打って出るマインドを持った人材が、経理・財務部門には必要」として、森田氏を抜擢した。

 新野社長は、2018年に「NEC 119年目の大変革」を打ち出したが、人事面では、外部からの人材登用とともに、経理畑の経験がないCFOの誕生が、大改革を支える重要な一手であった。

 NECでは、ここ数年で、海外企業に関する3つの大型M&Aを実施して、4500億円の投資を実行。デジタルガバメントやデジタルファイナンスの領域において、世界的ポジションを高めるといった成果があがっている。これも、前例がない人事の成果だといえるだろう。

技術はあっても事業につながらなければ意味がない

 文系出身の森田次期社長が、強調しているのが、NECの技術力の高さだ。

 「NECは、年間1100億円をR&Dに投資し、グローバルにみても、ユニークで、一流の技術を持っている。AIやネットワーク、バイオメトリスといった得意な技術領域があり、AIでは、世界トップ10に入っている。そのなかで、エンタープライズ系の会社は、NECとIBMだけである。NECは、技術的に優位な領域を持っており、そこでグローバルの強みを発揮したい」とし、「日本を含めたグローバルにおいて、競争力がある領域で事業をするのがあるべき姿。だが、価値が利益に表われないとすれば、価値として認められているとは言えない。価値を価格に転換して、顧客に喜んでもらう。これが、NECが強化する部分である。中核にある技術のベースは、NECは十分持っている」とした。

 ここでは、「事業開発力」という言葉を使う。

 「R&Dの力やエンジニアリング力を、稼ぐ力に変えていくための『事業開発力』の強化を進める。エンジニアリング力は品質や信頼性、そして、どんなことがあっても最後までやり切る力のことを指す。そして、事業開発力は、エンジニリアリング力を、顧客の価値に翻訳して示していくことである」とする。

 事業開発力の強化によって、持っている技術を、いかに収益に変えるかが課題になるというわけだ。

 「NECの実力として、営業利益率5%が見えてきたが、これは世界的にみれば、普通の会社になったということ。これからは、世界に伍していける会社を目指す。注力領域に特化して世界で戦い、日本ではDXのリーディングカンパニーを目指す」と意気込む。

挑戦し、最後までやり切るカルチャーへの抜本的改革

 新野社長兼CEOは、社会ソリューション事業を軸に、NECを成長軌道に回帰させることを目指してきた、これまでの経営を振り返り、「2020中期経営計画では、収益構造の改革、成長の実現、実行力の改革の3つのテーマに注力し、SGA(人件費、経費削減)の削減、不採算事業の見直し、生産拠点の再編など、やると決めたことはやり切った。グローバルで戦うために必要な営業利益率5%以上という実力はほぼついてきた。また、グローバルで成長するための核はできた。社員自らが考えて、挑戦し、最後までやり切るカルチャーへの抜本的改革に向けて、社員の意識も、ここ数年で着実に変化してきた」と自己評価する。  こうした実績をもとに、森田次期社長は、来年度からスタートする中期経営計画に取り組む。

 森田次期社長は、「次期中期経営計画では、NECが持つグローバルレベルのR&D、技術力を、事業収益につなげる事業開発力を強化することで重要であり、成長を起点にして収益構造のレベルアップを図りたい。デジタルガバメント、デジタルファイナンス、5G、AIといった領域で、グローバルレベルで革新をリードする会社になり、日本全体のデジタル化に貢献したい」と述べ、「改革をリードするのは、人である。人に投資し、社員が生き生きと活躍できる場をつくり、挑戦を求める社員に相応しい会社になる。そうした組織に変えるために、私自身も変革を続けたい」と語った。

 そして、「それを実現するには、3年では短い。5年の中期経営計画のなかで取り組んでいくことになる」とし、これまでの3カ年から5カ年へと期間を変更し、「中期経営計画2025」の名称で現在、策定していることを示した。

 ここでは、長年の懸念材料である海外事業比率の拡大が鍵になる。

 現在、約25%の海外売上高比率については、「日本がオリジンである会社が持つ、ひとつの目線としては、半分を海外事業にすることが、健全な形である。ただ、比率にはこだわりはない。今後は、国内成長と海外成長を両立していく」と述べた。

 海外事業とM&Aで多くの経験を持つ森田次期社長の手腕がどう発揮されるのかに注目が集まる。

 新野社長兼CEOは、「次期中期経営計画においては、成長の実現に向けた実行力が重要になり、豊富な経験と、戦略性や牽引力に長けた森田副社長こそが、これを実行するのに最も相応しい人材であると判断した」とし、「これまで付き合ってきた人のなかで、一番頭のいい人である。考え方が論理的であり、スピーディーに結論を出す。そして、最近では、人の話をよく聞くようになってきた。CFOに就任してからは、攻めのCFOとして、周りを巻き込んで実行していく力が素晴らしい。新社長が社内に新たな風を吹き込んでくれると期待している」と述べる。

 森田次期社長は、「『2025中期経営計画』の策定が佳境に入るなかで、その実行を、責任を持ってやる立場になることについては、意義を感じる。目標の実現に向けて全力で向けてやっていく」と意気込む。

 「趣味らしい趣味はないが、あげるとすれば乱読」とする一方、現在も、NECの将棋部の部長を務めているという。

 「将棋は、たしなむ程度にはやっている。いまは見る方が多い」とするが、経営の次の一手は、局面を打開した段階からの「攻めの一手」となりそうだ。

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