このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

Ryzen 5000シリーズの性能をさらに引き上げる「Precision Boost Overdrive 2」は12月に登場

2020年11月28日 10時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラ ハッチ/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 先日、Ryzen 5000シリーズのレビュアー向けにAMDから新しい情報が寄せられた。これによると、AMDはRyzen 5000シリーズのパフォーマンスを引き上げる「Precision Boost Overdrive 2(PBO2)」を提供する準備をしているという。

 PBO2の前身である「Precision Boost Overdrive(PBO)」とは、Ryzen 2000シリーズと最新の5000シリーズで使える(Ryzen 3 3200Gは除く)“自動オーバークロック(OC)機能”のことだ(参考記事:https://amd-heroes.jp/article/2018/08/41/)。

 PBO2の前提にある技術がCPUのクロックをCPUの保証範囲内でブーストする「Precision Boost 2(PB2)」であり、PBOはこの保証範囲を超えてブーストする機能として、X470マザーボードの目玉として実装された。PBOは後にB450やX570、B550にも拡大したが、Ryzen 5000シリーズではPB2はそのままだが、PBOがPB2にグレードアップした、という話になる。

 PBO2を利用する条件は「Ryzen 5000シリーズ」「AMD 400/500シリーズチップセット」そして「AGESA 1.1.8.0以降のBIOS」の3つだ。AMDによれば、AGESA 1.1.8.0を採り入れたBIOSは12月リリースに見込み(現在βテスト中)ということだが、原稿執筆時点で筆者の元に肝心のBIOSがないので試すことはできない。そこで今回はPBO2は何が変わったのか、資料から分かる範囲で解説しておきたい。

AMDのPBO2解説資料より抜粋。PBO2を使うにはハード(Ryzen 5000シリーズと400/500シリーズチップセット)の他に、AGESA 1.1.8.0以降のBIOSが必要になる。そしてそのBIOSは12月(もう目前だが)に投入される見込み

PB2はデフォルトで有効になっているCPUクロックのブースト機能だ。CPUソケットの消費電力(SoC Power、所謂PPT)と、VRMに流れる電力(TDC/EDC)、そしてCPU温度の3要素の制限内に収まるように制御される。中央の赤い三角形が今のブーストだとすれば、外側の大きな三角形に触れた時点でブーストされなくなる、というイメージだ(続く)

(続き)さらにPB2の制御はブーストしている時間等の要素を加味し、クロックやコア電圧を1ms(ミリ秒)単位で制御することで実現する。上図右側のグラフはスレッド数(横軸)とブーストクロック(縦軸)の関係を示しており、スレッド数が増えるに従い徐々にブーストが抑制されると謳っている

Ryzenのクロックや電圧制御は1ms単位で制御されるが、Windows上では250msごとにしかデータを拾えない。「HWiNFO」等のツールはもちろん、「Ryzen Master」でもこの制約内で動いているので、安易に監視ツールの数値だけ見るのは危険、という話

PBOはSoC Powerの上限をマザーボードのVRMの上限まで引き上げることを可能にする。ただCPU温度に関しては上限はあるので(ジャンクション温度があるので当然だが)、そこで制約はかかる

 PBO2はPBOの延長線上に存在する技術だが、新しい機能が追加された。一番重要なのは「Undervolt」、つまりコア電圧を下げる機能を付けたという点だ。CPUのOCでは、ある程度クロックを上げたい場合、コア電圧も上げないと失敗する。基本的にOCとコア電圧下げとは相反する要素だ。

 さらに、コア電圧下げは単純なようで実装は難しい。OCと同じようにCPUの個体差に依存するし、CPU負荷の高低により下げ幅の限界も変わってくる。ゆえにBIOS等でコア電圧を“50mV下げ”のように一律幅で下げる手法には限界がある。

 コア電圧を下げて負荷をかけて通らなかったら下げ幅を少し減らしてテスト……というサイクルを経て最適値を割り出すことになるが、そこで得られた“安定動作が得られるコア電圧下げ設定”は、検証に使った負荷テストだけに通じる値でしかない。そこでAMDはPBO2に「Curve Optimizer」という機能を追加した。

 Curve Optimizerは、ある負荷の状況下において、どれだけコア電圧下げの余力が存在するかシステム(CPUの制御機能)にリアルタイムで知らせることができる。その結果を元に負荷の軽いコアは電圧をガッツリと下げ、その結果生まれる電力や熱の余力を高負荷のコアに回すことで、負荷の重い軽いに関係なく最適な形でCPUのパワーを絞り出せる。ここがPBO2の賢いところだ。

PBOとPBO2のデザインの違い。PBO2はPBOの機能を全て継承しつつ、シングルスレッド性能やワットパフォーマンスを向上させ、さらにRyzen 5000シリーズではコア電圧下げという新機能を盛り込んだ。そして(恐らく同じ作業をさせた時に)CPU温度を抑制する効果もあるという

PBO2で登場する用語解説。一番下以外の項目はPBOと共通。PBO2のコア電圧下げに関連して、適応型コア電圧下げ機能ともいえる「Curve Optimizer」という機能が追加された。上図のPPT~Boost Overrideまでの項目と連携して動作する

CPUのV/f(Voltage-Frequency)カーブを単純に示すとこんな感じになる。高クロックになるほど電圧も高くする必要がある。ここにCPU温度が絡んでくるので、実際のV/fカーブは3次元グラフになる。このグラフはあくまで単純化したものだ

CPUのクロックが低ければ(負荷が軽ければ)ガッツリとコア電圧を下げられるが、高クロック(高負荷)ならばコア電圧を下げる余力はほとんどない。この余裕をコア単位で調整することでCPU全体の処理効率を上げるのだ

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ