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「第3回メドテックグランプリ神戸」レポート

透析治療を変えるスマートポリマー技術活用の血液透析デバイス

2020年12月03日 09時00分更新

文● 野々下裕子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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 神戸医療産業都市推進機構とリバネスが運営する医療分野のビジネスプランコンテスト「メドテックグランプリ KOBE」第3回目のデモデイが2020年10月10日に神戸大学先端融合研究環統合研究拠点コンベンションホールで開催された。本コンテストは通常のビジネスコンテストとは異なり、大学や研究機関、企業の研究所では科学技術の「種」をビジネスまで芽吹かせることを目的としている。個人、チーム、法人設立前のいずれでも参加でき、法人の場合も設立年数に制限を設けていない。

 前年と同じく書類審査で選ばれたファイナリスト12チームが事業内容を発表し、パートナー企業らで構成された12名の審査員が審査を行なった。ここでは企業賞に選ばれた10社と最優秀賞1社を中心に紹介する。

「メドテックグランプリ KOBE」の第3回デモデイが2020年10月10日神戸市で開催された

高度インフラに依存しない血液透析デバイスをつくる
スマートポリマー【最優秀賞】

 最優秀賞は、インフラが不十分な場所でも血液透析治療が可能になる血液透析デバイスの開発を発表したチーム、スマートポリマーが受賞した。透析治療は利用者が多いのに約1世紀もの間進化しておらず、長時間の治療に大量の水が必要で費用も高い。そこで目指しているのが、吸着と吸水に向いたスマートポリマーを用いて、どこでも利用できる簡易型透析装置の開発だ。

 物質・材料研究機構(NIMS)でスマートポリマーを研究する荏原充宏氏は、医療分野は素人ながら研究者らしい発想で既存の透析システムを変革させる方法を検討し、デバイスの前に尿毒素を選択的・効率的に吸着する材料の開発を進めようとしている。透析患者は世界中にいることから、ディープテックで世界を変える技術として評価された。

非けいれん性てんかん発作からこどもの脳と心を守る
protect kid’s brain

 小児科医の永瀬裕朗氏が担当する兵庫県立こども病院の神経救急は、けいれんや意識障害を認める症例が3分の1を占めるが、発作があっても見た目で判断が難しく、重い後遺症に至るケースも少なくない。

 問題解決のために症状を感度良くリアルタイムで検出・警告するプログラムを開発し、さらに既存の医療機器に使える形で導入できるよう研究開発を行っている。プログラムの開発には深層学習が用いられ、80%の感度で診断することを目指している。1日も早く子どもたちを救いたいという思いと、完成すれば子どもだけでなく高齢者にも使用できる可能性といったことが受賞につながった。

小型睡眠脳波計を用いた精神疾患診断プログラム開発
スリープウェル株式会社

 スリープウェルは自宅でも使用できる小型の睡眠脳波計を開発し、睡眠を正しく判断することでストレスチェックや睡眠薬の減薬などを実現している。さらに収集された脳波のデータを分析し、うつ病の診断につながる補助プログラムの開発を目指す。睡眠脳波は定期的に計測できるため分析角度が多彩で、さまざまな疾患の病態を把握できるという。

 ほとんどの疾患は睡眠と関連しているため、各種治験や臨床試験のスクリーニングツールとして用いられる可能性もある。すでに4万5000例以上の健常者のデータを保有しており、それらを分析したうつ病診断プログラムでも特許を保有している。睡眠を様々な病気の診断につなげるというアプローチが評価された。

痛みの客観的評価により患者のQOLを向上させる
PaMeLa株式会社

 PaMeLaは人が持つ感覚の中でも最も不快な傷みの評価を、脳波の解析によってこれまでの主観評価から客観的な数値として評価できる医療機器開発を進めている。傷みを測定する方法として、AIを用いて人工的に傷みをラベリングする「傷みスコア」で数値化し、可視化することで客観的で均一な診断を可能にし、将来的には痛みを治療する世界標準の実現を目指す。

 現在の研究では、注射の際の傷みを顔と足とでそれぞれ区別できているという。評価されにくい技術のため資金調達に苦労しているということであったが、事業化されれば傷みに対する評価そのものを変える可能性があることが評価された。

モバイル胎児モニターで安心・安全な出産を届ける!
メロディ・インターナショナル株式会社

 妊婦の腹部にあてて胎児心拍データをリアルタイムで診断できるIoTデバイス「胎児モニターiCTG」を開発するメロディ・インターナショナルは、胎児の健康状態をいつでもどこでもモニタリングできるソリューションを併せて開発している。すでに国内ではクラス2の薬機認証を取得し、保険適用されている。また海外ではタイのチェンマイで1500人の妊婦に使われた実績があり、すべての公立病院に導入されている。

 今後は9000以上の収集データをAIで分析して妊婦の状態を自動で判定したり、どこでも妊婦健診が受けられる周産期遠隔医療プラットフォームの実現を目指している。将来的にはメンタルヘルスとの関連性についても調べたいとしており、世界を対象に将来性の拡がりある取り組みが評価された。

人工脂肪を活用した乳房再建の実現
乳房再建用人工脂肪

 乳房の再建や豊胸手術に使用する世界初の人工脂肪の実用化を目指すチームが受賞。乳房を再建する方法は、女優のアンジェリーナ・ジョリーが行なった自身の脂肪を利用する手術やシリコンインプラントを使用する方法があるが、いずれも装着感や安全性で課題がある。

 一方で人工脂肪は乳房に埋入するだけで脂肪が再建でき、価格も他の方法より抑えられる。研究開発にはグンゼも関わっており、現在は数年経っても問題ないか大型動物での検証を進めている。実用化にはまだ時間が必要だが、人工脂肪は豊胸手術にも使用でき、女性の生き方を応援するという意味でも価値が高いという点が評価された。

再生医療を細胞から薬へ
株式会社プロジェニサイトジャパン

 神経幹細胞に注目した20年以上にわたる研究で、脳の神経幹細胞の増加を促す経口薬候補を発見したプロジェニサイトジャパンが、医療系スタートアップを支援する神戸医療産業都市賞を受賞した。

 神経幹細胞リソースの入手が困難、細胞培養に時間がかかるといった脳神経の再生医療が抱える課題を解決する画期的な技術で、ダウン症や自閉症などの疾患への応用も期待されている。

 コンテストでは会場参加者による投票も行われ、1位 protect kid’s brain、2位 株式会社プロジェニサイトジャパン、3位 スマートポリマーという結果になった。このほか、最終審査には以下の5社が選ばれている。

・予防薬の経鼻投与で認知症を根絶する/株式会社メディラボRFP
・iPS細胞由来の血球細胞で感染症研究を促進する/マイキャン・テクノロジーズ株式会社
・細胞の見える化技術」が拓く創薬・再生医療のイノベーション/株式会社フロンティアファーマ
・造血系細胞の分化を制御するエピジェネティクス創薬/Red White Therapeutics
・カテーテル関連尿路感染症予防デバイスの開発/SiB2018 Team-IJ

 最終審査に選ばれたテーマは全体的に対象が幅広く、社会課題に近い病気を対象にしているものが多い印象であった。審査員長のリバネス代表取締役副社長CTOの井上浄氏は「発表したチームはいずれも、世界の課題を解決するために長期的な取り組みを続けるという熱い思いを持っている。ここからがスタートで、神戸市も全力でサポートしてくれる。それぞれが持つ技術をこれからもさらに尖らせてほしい」と言い、コンテストを締め括った。

リバネス代表取締役副社長CTOの井上浄氏

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