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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第43回

高インピーダンスドライバーを、独立アンプで駆動

ワイヤレスは音が悪いという常識を刷新する、HIFIMANの「TWS800」

2020年10月26日 14時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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 ワイヤレスイヤホンは音が良くないと言われがちだが、個人的にいうとこれはワイヤレスイヤホンにメーカーが音質を重視せずに利便性にのみ眼を向けてきたからであり、ユーザーもそう思い込むという悪循環があったと思う。例えばOriolus 1795のように本格的な回路設計が為されていればワイヤレスでもオーディオマニアが納得できるような音質は確保できる。

 完全ワイヤレスイヤホンも最近は音質を重視したいというユーザー向けの選択肢も増えてきた。しかし、その要求が高級イヤホンを使いこなすオーディオマニアを満足させるレベルとなるとそこまで突き抜けたものはこれまでにはあまりなかった。オーディオマニア向けのブランド「HIFIMAN」が開発した新製品「TWS800」はそうした製品となりえるかもしれない。

 HIFIMANは少し前にTWS600という完全ワイヤレスイヤホンを出しているが、通信距離という点では見るべきものがあっても音質という点では今一つであった。このTWS800はブランドらしいマニアックな音質重視の製品となっている。

 TWS800は高インピーダンスのドライバーを内蔵ヘッドホンアンプで駆動する、というコンセプトの製品であり、高級イヤホンとしてもユニークだ。TWS800は電子機器と一体型の完全ワイヤレスを逆手にとって、プラス思考で考えた製品でもある。

 筐体も大柄。いわゆるユニバーサルイヤホン(カスタムイヤホンの一般向け製品)を完全ワイヤレス化したようなデザインもユニークだ。これにはHIFIMANが以前手がけたRE1000カスタムイヤホンの知見が活かされているという。このサイズの大きさを利用してTWS800には専用のヘッドホンアンプが内蔵されている。たいていの完全ワイヤレスの電子回路部分はSoCのチップ内蔵機能を流用しているだけの寂しいものだが、TWS800では本格的なアンプ回路をSoCとは別に持っている。

 150Ωという高いインピーダンスは鳴らしにくいが、そのぶん高性能が期待できる。開発者に聞くと、高いインピーダンスを採用した理由はアンプと組み合わせた際に、低域と音場において高い性能を発揮できるからだという。TWS800は高インピーダンスのイヤホンを内蔵アンプでぐいぐいとドライブするわけだ。TWS800の単体での再生時間は4.5時間と最新のトレンドからすると短いが、それだけ電力を音質の方に回しているのだろう。(ケースと併用すると31.5時間)

 またドライバーの要である振動板にも、HIFIMANの上級機であるRE2000が採用しているナノ技術を活かしたトポロジー振動板が採用されている。これは異なるナノ素材は物性も異なるという点から振動板にナノ素材のパターンを描き、振動板の伝搬をコントロールするというものだ。これにより高音域特性などの向上が見込め、音が滑らかになるという効果があるという。RE2000は国内では高価だが人気のある機種で、その技術を譲り受けたというわけだ。

トポロジー振動板

 また充電機能付きのケースは大柄なものだが、これは最大のイヤーピースを装着してもそのまま格納できる余裕のある大きさにしたという。いままでの完全ワイヤレスでは大きなイヤーピースをつけると格納できないこともあったのでこれもマニア視点と言えるだろう。

 国内でも近日発売予定で、価格も内容からするとUS$299とそれほど高価なわけではない。完全ワイヤレスは便利だけども、高級イヤホンに比べると、と導入をためらっていた人には朗報と言えるだろう。またワイヤレスイヤホンは音が良くないのが当たり前という風潮を覆すことができるかも楽しみな製品だ。

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