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秋の味覚を楽しむために、知っておきたい「キノコの不思議」

2020年10月15日 06時00分更新

文● 川口友万(ダイヤモンド・オンライン

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サルマタに生える「サルマタケ」ことコプリヌス(筆者が撮影)

秋はキノコの季節だ。新物の松茸を楽しみにしていた人もいるだろう。最近は店先に見慣れないキノコが並ぶ。大黒しめじ、たもぎ茸、ブナピー、シロマイタケなど、どれも昔は目にすることはなかった。ちなみに10月15日はキノコの日。知っているようで知らないキノコの不思議とは。(サイエンスライター 川口友万)

洗濯物にも生える
サルマタケは美味

 昔から「香りマツタケ、味シメジ」とよく言われる。

 だがスーパーで売られているシメジを食べて、「味シメジというほどか?」と疑った人は正しい。

 昔から山で採っていたホンシメジはハラタケ目キシメジ科シメジ属ホンシメジ。

 一方、スーパーで売られているシメジはハラタケ目シメジ科シロタモギタケ属ブナシメジ。科と属が違う、別種のキノコだ。

 スーパーに並ぶキノコ類は基本的に人工栽培だ。キノコの人工栽培技術は年々進歩している。

 ホンシメジは人工栽培が難しかったが、2013年に京都の瑞穂農林が人工栽培に成功、どっしりと大きな大黒ホンシメジがスーパーで買えるようになった。

 また、「幻のきのこ」とも言われたたもぎ茸は北海道のスリービーが、ブナピー=白いブナシメジはホクトが人工栽培に成功した。

 キノコといえば、マンガ『男おいどん』(作・松本零士)に出てきた「サルマタケ」を思い出す人もいるかもしれない。

 主人公が極貧生活を送る下宿部屋の押し入れには、男性用下着のサルマタが山ほど詰め込まれている。そして洗濯もろくにしないのでキノコが生えてくる。主人公はそのキノコをサルマタケと名付けるのだ。

 サルマタからキノコなんてあり得ないと思う人もいるかもしれない。

 だが、このサルマタケ、実際に作者の松本零士氏が貧乏だった時代に洗濯物から生えてきたのだそうだ。

 果たしてサルマタケの正体は何か?

『万有ビンボー漫画大系―四畳半という楽園』(祥伝社)によれば湿気がこもった押し入れに生えるキノコはヒトヨタケの可能性が高く、形状も松本零士氏が描くサルマタケにそっくりなのだ。

 ヒトヨタケは傘が開くとすぐに液化してとけてしまう(キノコは枯れるのではなくとけるタイプがある)ため、開く前に摘むと食べられる。

 サルマタケと聞くと食べられない気がするが、食材としてはコプリヌスという名前で、ヨーロッパでは普通の食材。日本でもたまに自然食品店で売られている。

 コプリヌスは買うと高いが、松林の湿ったところによく生えている。

 筆者は以前、近所の公園に小指から親指ほどの大きさのコプリヌスが何本も生えていたので、摘んできてバター焼きにして食べたことがある。小ぶりながら歯ごたえがあり、香ばしい香りがする。味は濃いが、アクはない。サルマタケはおいしいのだ。

雷が落ちた場所に
キノコが生えやすい訳

 雷が落ちるとそこにキノコが生えるという。キノコの専門家である九州大学名誉教授の大賀祥治氏がチベットにキノコ採集に行った時、現地の人にそう聞いたそうだ。

 実際、雷の後はキノコがよく生えているように思えたことから、帰国後、九州電力の実験室にシイタケの原木を持ち込んだ。

 この実験室は送電塔への落雷の影響を調べる施設で、高電圧で発生させた人工の雷が四六時中飛び交っている。そこに原木を置いたところ、シイタケ発生率が有意に高かったことから本格的な研究を開始。メーカーと協力して高電圧発生装置を開発、原木に高圧電流を流したところ、通常の2~3倍のキノコが生えてきたという。

 ちなみに、キノコの収穫量を上げることと外からの刺激には関連性があるともいわれ、雷のような電気刺激の他、原木をハンマーでたたいても発生率が上がるという話もある。

死体に生える
キノコはあるのか

 死体が分解されて土中にアンモニアが増えると、アンモニアの殺菌作用で周辺の微生物が減る。『きのこの下には死体が眠る!?』(吹春俊光著・技術評論社)によれば、いわば微生物の空き地ができるのだ。そうした場所に好んで生えるのが「アンモニア菌」というキノコである。

 アンモニアを好んで生えるキノコなので、その下には大量のアンモニアの発生源、つまりは死体がある。

 死体から直接生えるわけはなく、死体が分解される時のアンモニアで空いた場所に生えるので、動物の死体だけではなくモグラのトイレ(トイレ用の穴があるそうだ)の上に生えるナガエノスギタケのようなキノコもいる。

 アメリカでは死体腐敗のプロセスを法医学に生かすためのボディーファームという施設がある。死体がどのように腐敗していくか、野外に置かれた死体を観察するのだ。

 その死体の近くにヘベローマ・シレンセ(Hebeloma syrjense)というアンモニア菌が生えるという(俗説という話もある)。おかげでヘベローマ・シレンセはコープファインダー(墓探し屋)というあだ名で呼ばれている。

 死体探しにヘベローマ・シレンセが使えるかどうかはともかく、アンモニア菌が生えている場所はアンモニア濃度が高く、大量の有機物が近くにあることは間違いない。それが時には死体のケースもあるだろう。

 ちなみにアンモニア菌を世界で初めて発見したのは日本人の菌類学者・相良直彦氏だそうだ。森に尿素肥料をまいて、生えてくるキノコをチェックして発見した。

 リチウムイオン電池の実用化でノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、かつて周囲の理解を得られずに苦労したそうだが、相良氏も発見当時は「おしっこキノコ?」と学者にキワモノ扱いされていたそうで、どんな分野でもパイオニアは大変だ。

毒キノコによる
食中毒に要注意

 キノコには毒性のあるものもあり、素人にはまず判別できない。毎年、自分で採ったキノコで食中毒を起こす人がいるが、今年は販売所で買ったキノコで食中毒が出た。

 10月4日、秋田県の直売所でハタケシメジとして売られていたキノコを買って食べた家族3人が、下痢や嘔吐(おうと)などの食中毒症状を発症した。毒性のあるクサウラベニタケが間違って売られていたという。

 また同月7日には同じく秋田県で家族の採ったツキヨタケ(食用のムキタケとよく似た外観をしている)を食べた女性が食中毒を起こしている。

 毒キノコの見分け方として、色が毒々しくないものや柄が縦に裂けられるものは安全などいわれるが、すべて間違い。形状と生息地で絞り込むしか手はない。

 多くの毒キノコは嘔吐と下痢程度で収まるが、危険なものもある。厚生労働省から警告が出ているカエンタケは「食後30分から、発熱、悪寒、嘔吐、下痢、腹痛、手足のしびれなどの症状を起こす。2日後に、消化器不全、小脳萎縮による運動障害など脳神経障害により死に至ることもある」(厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」)というから恐ろしい。

 毒キノコを食べたと思ったら、まずは吐き出すこと。意識がない場合は、逆に吐くと気道が詰まって窒息するかもしれないので吐かせない。そして残っているキノコを持って病院へ行く。

 今年はキャンプが流行しているので、キノコ狩りをやってみようと思う人も多いだろうが、必ず経験者と行うこと。せっかくのキャンプも食中毒になったら台無しだ。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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