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空砲ではなかったコロナ対応「黒田バズーカ」、劇薬の危うさ

2020年10月14日 06時00分更新

文● 鈴木明彦(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

マネーストックが
バブル期以来の高い伸び

 3月の金融政策決定会合以降、企業の資金繰り支援など、矢継ぎ早に新型コロナ対応のための金融政策がとられてきた。

 いったんは増加ペースが落ちていたマネタリーベース(日本銀行が世の中に直接的に供給するお金)だが、足元では増加ペースが急速に高まっている。

「黒田バズーカ」が再び放たれて異次元の金融緩和が復活したかのようだ。

 だが実際のところは復活したというよりも、強力な別次元の金融緩和策が新たに登場したというべきだろう。

 異次元緩和の際には伸びがほとんど変わらなかったマネーストック(金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量)の拡大を伴っているからだ。

 マネーストック(M2)の伸びはバブル期以来の高さ(当時はM2+CD)となっており、緩和効果は強力といえる。だがコロナ対応の「黒田バズーカ」の威力を喜んでばかりはいられない面もある。

コロナ対応の企業資金繰り支援
日銀の金融特別オペが威力

 マネタリーベースの増加の内訳を見ると、黒田東彦総裁就任後のマネタリーベースの拡大がもっぱら日銀による長期国債の購入によるものだったのに対して、今回のマネタリーベースの拡大は、短期国債のオペレーションと新型コロナ対応金融支援特別オペレーションによるものだ。

 特に、中小企業などに「無利子無保証」の融資を行った金融機関に日銀が資金を供給する後者の効果が大きかった。

 従来の異次元緩和以降の枠組みでは、日銀の長期国債購入でマネタリーベースが拡大してもそのお金は金融機関の日銀当座預金に滞留しているだけで、マネーストックを拡大させる効果は持たなかった。バズーカといっても空砲のようなものだった。

 これに対して、新型コロナ対応による金融支援特別オペで資金が供給される場合、そのお金は金融機関からの貸し出し増加となり、マネタリーベースの拡大がそのままマネーストックを増加させる。空砲ではなく実弾入りのバズーカということになる。

カギを握った「アメのマイナス金利」
融資拡大で収益確保の銀行

 それではなぜ貸し出しが急増したのか。

 コロナショックに対応するために企業が緊急に資金を必要としていたことは言うまでもない。加えて、金融機関にとって魅力的な資金調達手段が用意されたことが重要なポイントだ。

 新型コロナ対応のオペを使って融資をする金融機関は、その資金を日銀からゼロ金利で調達できるだけではなく、オペの利用残高見合いの日銀当座預金に+0.1%が付利される。

 ゼロコストで資金を借り入れできるだけでなく当座預金に利息が付く。つまり無利子で融資を行っても利ザヤが自動的に稼げるからだ。

 これを「アメのマイナス金利」とすると、日銀当座預金の一部(政策残高)の金利をマイナスにしているマイナス金利政策は「ムチのマイナス金利」だ。

 金融機関にとっては、日銀当座預金に資金を置いておくと、コストがかかる上、中長期金利の水準も大きく低下して利ザヤが縮小するなど、経営環境は厳しさを増した。

 日銀は、当座預金にマイナス金利を付けることで金融機関に融資を促す狙いを言いながら、導入当初からマイナス金利を適用する政策金利残高は限定的にするなどしてきた。

 政策金利という名にふさわしくない寂しい存在だった。

長期、短期金利ともに
政策金利は下げる気ない日銀

 一方、長期国債の購入によるマネタリーベースの拡大は今も続いているが、かつてのような勢いはない。

 新型コロナ対応の一環として、今年4月の日銀金融政策決定会合では、政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響も踏まえ、積極的な買い入れを行うという方針が示された。

 この時、「保有残高の増加額年間約80兆円」というめどが外れ、代わりに「上限を設けず必要な金額」を購入するという長期国債の買い入れ方針が決まった。

 だが、「必要な金額」というのは、現行のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の枠組みの下で10年物国債金利をゼロ%程度で推移させるのに必要な金額ということだ。

 かつてのように長期国債の買い入れを急増させ、長期金利を下げることを日銀は想定していない。国債を積極的に買い入れるという方針は、もっぱら短期国債で対応しているともいえる。

 こうした日銀の考え方やオペレーションを反映して、10年物国債金利は+ゼロ%台前半で安定的に推移している。

 10年物国債金利と同様、日銀は無担保コールレートをこれ以上、下げることも考えていない。

 無担保コールレート(翌日物)はマイナスゼロ%台での推移が続いているが、マイナス幅は0.05%以下が中心であり、かなりゼロに近づくこともある。

 無担保コールレートはもともと政策金利だった。今は形の上では日銀当座預金の政策金利残高への付利-0.1%が政策金利となっているが、日銀のオペや政策運営を見ていると、実際には現状、無担保コールレートが実質的な政策金利としての役割を果たしていると考えられる。

 いずれにしても、「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」というフォワードガイダンスの範囲内で推移している。

 したがって日銀が政策金利のマイナス幅を深掘りする必要性は生じていない。

深掘りはなくとも
やめられないマイナス金利政策

 新型コロナ対応の金融支援特別オペによって、「アメのマイナス金利」、すなわち日銀当座預金のうちプラス金利が付く残高が急増し、足元では45兆円に達している。

 さらにその残高の拡大が見込まれる一方で、マイナス金利が付く政策金利残高は足元で20兆円台にとどまっている。

 マイナス金利の深掘りどころか、むしろ掘りが浅くなってきているという感もある。

 しかし、「アメのマイナス金利」が導入されたことで、もともとある「ムチのマイナス金利」の効果と合わせて金融機関の貸し出しが増え、緩和効果が強まったといえる。

「ムチのマイナス金利」に悩んでいた金融機関は、特別オペを利用して資金を貸し出すことによって今度は「アメのマイナス金利」のメリットを享受できるようになったからだ。

 アメとムチ、2つのマイナス金利の相乗効果によって、金融緩和の威力が拡大し、マネーストックの増加につながった。

 日銀はいずれマイナス金利政策を終わらせたいと考えているが、新型コロナ対応が続いている間はムチのマイナス金利の存在が必要だ。

 ただ、金融特別支援オペの枠組みでは、特別オペの利用額の2倍の金額が、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高に加算される。「アメのマイナス金利」が効果を発揮するほど、マクロ加算残高の急増によってマイナス金利が適用される政策金利残高が大幅に減少し、「ムチのマイナス金利」が適用される部分が減るということになる。

 日銀は「基準比率(*)」を引き下げることでマクロ加算残高の増加を抑えて、政策金利残高を安定的に存続させ、アメとムチの相乗効果が続くようにしたいだろうが、微妙なかじ取りが求められる。

(*)プラス金利が適用される基礎残高(220兆円程度で固定)に乗じてマクロ加算残高への加算額を算出する比率

劇薬打ち止めのタイミングが
先延ばしされる予感

 新型コロナ対応のアメとムチのマイナス金利政策によって、今の日銀の金融緩和効果は強力だ。だがそれだけに劇薬である。

 これが短期間で終わるものでないことは日銀も覚悟しているだろうが、何をもってコロナショックが終わったと判断するのかは難しい。

 日銀としては新型コロナの感染が収まってくれば、コロナ対応の金融緩和を終了させたいところだろうが、今回の緊急支援特別オペの中には、政府の緊急経済対策による無利子・無担保融資と連携した資金供与が含まれてくる。

 政府が緊急対応を続ける限り、日銀の判断で新型コロナ対応を終了させることはできない。新型コロナ対応の金融政策が続くことになる。

 実際、当初は今年9月末までとしていたオペの期限が、来年3月末まで延長されており、おそらくその後も延長されるだろう。

 新型コロナ対応の長期化を想定しているとはいえ、何年も続くことになれば、不良債権やバブルの芽が膨らんでくる。

 プラザ合意後の円高対応で低金利の長期化を余儀なくされ、バブルの発生を許しその後の不良債権問題を引き超した「悪夢」が、日銀の頭をよぎる時期がいずれ来るのだろう。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹 鈴木明彦)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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