このページの本文へ

サッカー日本代表が再始動、コロナ禍のオランダでアフリカ勢と戦う意義

2020年10月13日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
Photo:Dean Mouhtaropoulos/gettyimages

新型コロナウイルスの影響で活動停止を余儀なくされていたサッカーの日本代表チームが、オランダで今年に入って初めてとなる活動を行っている。9日に行われたカメルーン代表との国際親善試合を0-0で引き分け、13日にはコートジボワール代表との一戦に臨む。依然としてコロナ禍が収束しない状況下でヨーロッパ組だけをあえてオランダに集結させ、ヨーロッパ勢ではなくアフリカ勢との連戦をマッチメークした意義はどこにあるのだろうか。(ノンフィクションライター 藤江直人)

新型コロナウイルスでサッカー界も激変

 アフリカ勢のカメルーン、コートジボワール両代表とオランダ・ユトレヒトのスタディオン・ハルヘンワールトで対戦するフル代表のメンバーが発表された今月1日。オンラインで行われた記者会見で、日本サッカー協会(JFA)の技術委員会のトップの反町康治委員長が苦笑いを浮かべた。

 「ヨーロッパへ行ってヨーロッパのチームと試合をしないのは、少し不思議な気分になりますよね」

 オランダの地でオランダ以外の代表チームと日本が国際親善試合を行うという異例のプランがスタートしたのは8月。国際サッカー連盟(FⅠFA)とアジアサッカー連盟(AFC)が協議した末に、10月と11月に予定されていたワールドカップ・アジア2次予選が延期されたことがきっかけだった。

 当初は、今年3月と6月の国際Aマッチデーで、日本はミャンマー、モンゴル、タジキスタン、そしてキルギス各代表と2年後のカタールワールドカップ出場をかけた、アジア2次予選を戦う予定だった。しかし、世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスがサッカー界をも直撃し、日本国内ではJリーグをはじめ、すべてのスポーツが活動停止や各種大会の開催中止を余儀なくされた。もちろんフル代表も例外ではない。3月分が10月に、6月分が11月にそれぞれ延期されたが、感染状況が改善されていないとして、8月に入ってアジア予選全体が来年3月に再延期されたのだ。

 大前提としてFIFAが定める国際Aマッチデーにおいて、各国協会は代表選手を招集できる権利を持つ。現状の国際Aマッチデーは3月、6月、9月、10月、11月の年間5度で、それぞれにおいて最大2試合ずつ、ワールドカップ予選をはじめとする公式戦や国際親善試合を組める。

 ただ、新型コロナウイルス禍に見舞われた今年に関しては、当初の予定が延期された3月と6月に9月を加えた3度の国際Aマッチデーで、JFAはフル代表の活動も休止させることを決めた。その後にアジア2次予選が再延期されたものの、FⅠFAは代表チームそのものの活動は禁じていない。

どうしても国際親善試合をしたい!しかし条件山積み…

 こうした状況を受けて、10月の国際Aマッチデーで国際親善試合が組めないものかと、フル代表と東京オリンピック代表を兼任する森保一監督が技術委員会に打診した。反町委員長はこう語る。

「1試合も戦わないまま2020年を終えることは、代表チームを強化していく継続性を考えたときに非常に困る事態でした。来年3月に再開予定のアジア2次予選へぶっつけ本番で臨む状況は避けたい、という現場の声も踏まえた上で、強化試合の開催を模索し、実施する運びになりました」

 技術委員会を中心に急ピッチで準備が開始された。しかし、日本政府が定める検疫措置が大きな障壁となり、日本国内での開催は早々に断念された。ヨーロッパでプレーする日本人選手だけでなく対戦国の選手団も、帰国および入国の翌日から2週間の自主隔離を求められるからだ。

 必然的に選択肢は海外開催となる。現状における各国の入国制限や入国後の行動制限、そして新型コロナウイルスの感染状況を総合的に勘案した結果、日本からの渡航者に待機措置が設けられていないオランダが、EU(ヨーロッパ連合)圏内の移動に関しても原則制限がないとして候補に挙がった。

 ヨーロッパでは9月から、55を数える各国・各地域の代表チームが14のグループに分かれて戦うネーションズリーグがスタートしている。代表チームが活動できる土壌は整っていたが、一方でネーションズリーグが開催されている関係で、ヨーロッパの代表チームとは対戦ができない。

 ならば、ヨーロッパ以外の代表チームをオランダに招くしかない。南米各国もワールドカップ予選を開始させている状況で、強化の目的も果たせる強豪国としてアフリカ勢に白羽の矢を立て、オランダ政府や在オランダ日本大使館、オランダサッカー協会の協力を得ながら開催にこぎつけた。

「無理だとサジを投げられても仕方のないところを本当に頑張ってもらったことに、ノーと言われてもおかしくないところをイエスと言ってもらえたことに、本当に感謝しています」

 奔走した技術委員会メンバーやJFA職員に、そしてオランダやカメルーン、コートジボワール各国の関係者に反町委員長は感謝の思いをささげている。日本に帰国後の自主隔離期間を考慮して、今回に関してJリーガーの招集が見送られ、史上初のオール海外組によるフル代表が構成された。

感染リスク高まるユトレヒト
カメルーン選手でコロナ陽性相次ぐ中の代表戦

 しかし、日々変化する感染状況が予期せぬ事態を引き起こした。5日の活動開始を前にしてユトレヒトが感染リスクの高いエリアに指定された結果、感染防止へ厳しい措置を取るドイツのブレーメン州がユトレヒト滞在者の入州後に5日間の自主待機期間を求めることを決めたのだ。

 こうした状況を受けて、FW大迫勇也が所属するヴェルダー・ブレーメンが招集の再考を申し入れてきた。しかし、JFAが今回の活動の趣旨を伝え、大迫自身も日本代表でプレーしたい旨をクラブ側へ伝えた結果、9日のカメルーン戦をもって日本代表を離脱することが決まった。

 ブレーメンは17日にリーグ戦を控える。カメルーン戦だけでユトレヒトを離れれば、5日間の自主待機を経ても間に合う。折衷案ともいうべき状況を、大迫は短い言葉でこう表している。

「代表チームと僕の所属チームが話し合った結果なので、それ以上のことはありません。僕としては、与えられたところでプレーするだけなので」

 カメルーン戦を翌日に控えた8日には、カメルーンの招集選手に実施されたPCR検査の結果、2人から新型コロナウイルスの陽性反応が出たことが明らかにされた。今回はそれぞれの所属先で72時間以内に受けたPCR検査で陰性が証明された選手やスタッフだけがユトレヒト入りし、キックオフの72時間前に再度PCR検査を受けることが定められている。

 カメルーンの場合は後者で陽性が出て、濃厚接触者を含めた計3人が離脱する事態が生じた。一方の日本はゼロだったことを受けて、試合は予定通りに開催されて0-0の引き分けに終わっている。

 ヨーロッパ組を含めた主力がそろっての代表戦は、昨年11月のキルギスとのワールドカップ・アジア2次予選以来となる。もっとも、代表活動の継続という競技面での意義と同時に、日本のスポーツ界全体にとって大きな意義があったと、キャプテンのDF吉田麻也(サンプドリア)は力を込める。

 「団体競技の日本代表チームでサッカーが初めて活動を再開させることを、いろいろな意味で注目される。僕たちがいい形で成功を収めて、スポーツが少しずつ本来の姿を取り戻せていけたらと思うし、その意味で僕たちの責任は非常に大きい。ピッチの内外でやるべきことに集中していきたい」

ピッチの外での感染予防・対策
チームの一体感をどう作るか

 ピッチ内とは試合のことだとわかるが、外とは何か。答えは今回の活動を通して、日本代表チーム関係者から感染者を出さないことに集約される。徹底した感染予防対策のもとで、今回はホテルから練習場、ホテルから試合会場の間の往復だけに移動が限定されている。

 しかも、バスの中がいわゆる密になりやすいという観点から、練習場まで徒歩で移動できるホテルを選択。ホテルも外部と接触できないように一棟そのものを借り上げ、オランダの人々があまりマスクをしていない状況下で、ホテル従業員には選手やスタッフと同様にマスク着用を要望している。

 フル代表は遠征時に一人部屋があてがわれるが、今回は食事、ミーティング、オンラインによるメディア対応、ドクターの治療やトレーナーによるケア以外は自室で待機。食事も円卓を囲んでさまざまなコミュニケーションを取る形式から、間隔を取った上でテーブルに着く形に改められた。

 朝食前の検温だけでなく、3度の食事前を含めて、全員に手渡されている携帯用アルコールスプレーで手指を消毒することが義務づけられた。空いている時間に選手たちが集まり、コーヒーなどを飲みながらコミュニケーションを深める、いわゆるリラクゼーションルームの設置も見送られた。

 さまざまな制限が設けられた中で、それでも選手たちは今年初めて顔を合わせる仲間たちと、可能な限りコミュニケーションを深める努力も積み重ねている。吉田が笑顔で明かしてくれた。

「もちろんソーシャルディスタンスを保ちながらですけど、大きな食事会場の中でみんな楽しそうに話していますね。僕自身も久しぶりに会った選手、初めて会った選手といろいろな話をしたいし、いろいろなことに気がつきたい。なので、さまざまなトークのテーマを常に考えています」

 吉田の話を補足すれば、食事会場の広さは300平米ほどあり、天井も非常に高い。通気性が高く、お互いに十分な距離を取れる会場があるホテルがファーストプライオリティーとして選ばれ、食事を終えた選手たちがマスクを再び着けた上で、つかの間のサッカー談義に花を咲かせている。

 ピッチ外での意識を高めた上で、選手たちはピッチ内の結果も求めていく。地上波で生中継される日本で、ファンやサポーターが今回の2試合を注目していると感じるからこそ、招集メンバーの中では最年少となる19歳のMF久保建英(ビジャレアル)は合流初日にこんな言葉を残していた。

「例えば自分が今、10歳の子どもだとしたら、サッカー選手になる夢が一歩遠のいてしまうような感覚を持っていたと思う。外に出られないとか、そういう状況でもサッカー選手になりたいと子どもたちに思ってもらえることが、自分にとっては一番大事なことなので。そういうものを自分たちが払拭するというか、サッカーとは非常に素晴らしいスポーツだ、ということを見せていきたい」

 それぞれの所属先に戻った後も感染者ゼロを継続させた上で、今年初勝利を手にして、なおかつサッカーが持つ楽しさを介して未来への可能性をも紡いでいく。大迫が離脱したことで総勢22人になった代表選手たちは、選ばれた者だけが感じるさまざまな使命や覚悟をも背負いながら、日本時間13日の午後11時45分にキックオフを迎えるコートジボワール戦を待っている。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ