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東芝キオクシアの上場2カ月延期は「トランプ敗退」に賭けた大博打だ

2020年10月12日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,杉本りうこ(ダイヤモンド・オンライン

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キオクシアの上場は、米中対立という地政学リスクに直面している Photo:Kioxia

『週刊ダイヤモンド』10月17日号の第1特集は、「日本企業は逃げられない 超地政学」です。米中対立はもはや、「海の向こうの大げんか」ではありません。日本企業の経営に直にダメージを与えるようになっています。2つの超大国が引き起こす、超地政学時代のリスクをレポートしました。(週刊ダイヤモンド副編集長 杉本りうこ)

対中制裁でファーウェイとの
ビジネスが暗礁に乗り上げた

 東芝から独り立ちし、米投資ファンドのベインキャピタルを中心とした日米韓連合の傘下に入った半導体大手キオクシアホールディングス。IPO(新規株式上場)を10月6日と予定していたが、上場目前の9月28日に上場延期を発表した。

 プレスリリースには延期の理由について、「最近の株式市場の動向や新型コロナウイルス感染の再拡大への懸念」とあるが、真の理由が米国の対中制裁にあることは誰の目にも明らかだ。

 発表の約2週間前の9月15日、米商務省は中国ファーウェイ(華為技術)への輸出規制強化策を発動した。これを受け日本の株式市場でも、半導体関連の株価が下落。特にキオクシアにとってファーウェイは、年間数百億円を取り引きする大口顧客だ。それが制裁強化を受け、同社向けの出荷を停止せざるを得なくなった。

 2018年来、激化する一方の米中対立。その直接的な打撃がとうとう、大手日本企業の経営を直接的に左右するようになったのだ。

 米国の規制強化を受け、半導体セクターに対してもキオクシアの成長戦略に対しても、投資家の目が厳しく なったのは当然のことだ。上場したところで、公募割れが懸念された。計画した資金調達額を割り込めば、大口株主の投資ファンド、米ベインキャピタルなどが損をする。ここはいったん上場をリスケし、市場の地合いがよくなる頃に再度挑戦するのが得策――というのがベインとキオクシアの狙いだ。

 いったん上場を引っ込めた今、次なる問題は、「いつ地合いが良くなり、上場に再挑戦できるか」だ。複数の関係者から漏れ聞こえてきた再上場のタイミングは、意外に早い。約2か月後ズレさせた今年12月を目指しているようだ。

 なぜ12月なのか。そこには、上場を阻んだ「根本原因」の解消への一縷の期待が込められている。11月3日の米大統領選挙で、現職トランプ氏が敗れ、民主党のバイデン候補が政権を奪取する可能性に、ベインとキオクシアは賭けているのだ。

バイデン氏当選でも
中国叩きは止まない

「トランプ氏が政権から去れば、対中制裁は多少なりとも緩和される余地がある。そしてトランプ氏が敗れる可能性はけっこう高い。そう彼らは考えているようだ」。投資ファンド業界のある関係者は、12月上場のシナリオをこう解説する。

 ベインは米国でも最も有力な投資ファンドの1つだ。さまざまなルートから得た情報によって、「トランプ敗退」と確信するに足る何らかの根拠を得ているのだろう。こうしたインテリジェンス(情報分析)の結果、大統領選から1カ月も経てば、日本の株式市場ではキオクシア上場を好意的に理解してくれると考えているようだ。

 だがこのシナリオには、大きな楽観が織り込まれている。実のところ、民主党政権になっても米国の中国たたきは一向に止まない、むしろある分野ではさらに先鋭化する可能性があるのだ。

 トランプ氏は「中国たたきで票が取れる」と考え、対中制裁を先鋭化させている。そのトランプ氏をバイデン陣営は選挙CMなどで、「現政権の対中政策は弱腰だ」と手厳しく批判している。

 バイデン氏の政策綱領には研究開発の強化が盛り込まれており、研究者のリクルートや知的財産の不正な獲得で米国のイノベーション力を骨抜きにしている中国と対決すると有権者に約束している。

 そして新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧のような人権問題については特に、現政権よりも厳しく追求し、リベラル派として主要な外交論点に据える見通しだ。ファーウェイへの制裁理由には現時点ですでに、少数民族弾圧への加担が含まれており、これが政権交代で「なかったこと」になるとは到底考えられない。

 ベインとキオクシアとて、こういったことは重々理解しているはずだ。だからこそ、選挙後だが新大統領はまだ就任していない12月(就任は1月)という凪の時期に駆け込み上場するのがベストと考えているのだろう。

 しかし仮に12月に上場を果たし、ベインがキオクシアへの投資を首尾よく回収できたとしても、キオクシア自身が米中対立という地政学リスクにさらされ続けることは変わらない。

 地政学はこれまで多くの日本人にとって、歴史の回顧を中心とするある種静的な教養だった。だが米中対立によって、地政学的な視点を持つことは、実学になりつつある。地政学的なセンスがなければ、ビジネスを守ることは不可能だ。2つの超大国が相克するという超地政学時代の荒波を、日本最後の大型半導体メーカー、キオクシアは本当に乗り越えていけるだろうか。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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