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芸能人に「自殺連鎖」か?日本社会を覆う堪えられない閉塞感の実態

2020年10月11日 06時00分更新

文● 渋井哲也(ダイヤモンド・オンライン

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芸能人から一般人まで、なぜ自殺の連鎖が起きているように見えるのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

竹内結子さんまで……
なぜ著名人の自殺が相次ぐのか

 芸能界で自殺が相次いでいる。5月23日に、恋愛リアリティショー番組『テラスハウス』(フジテレビ系)に出演していた、プロレスラーの木村花さん(享年22)が自殺した。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、非常事態宣言が出されていた時期であり、国民が外出自粛を求められていたタイミングでもあった。コロナ禍での孤立感により、SNSに時間を費やし、誹謗中傷を気にしてしまう雰囲気もあった。木村さんの自殺を機に、ネット上における名誉毀損が、社会的な課題として国会でも議論された。

 この時期は、朝や昼のワイドショーから夕方や夜のニュースまで、毎日のように、新型コロナウイルス関連の報道がなされていた。「感染者が何人いるのか」「どの県で感染者が出たのか」「クラスターがどこで発生したのか」というニュースばかりが流された印象だ。

 学校は大学を含めて休校やオンライン授業となり、特に新入生は同級生の友達ができない状況が続いた。この頃、筆者が別件の取材で話を聞いた女性の子どもが小学1年生で、「担任は○○先生なんだ。でも、どんな人かわからないし、友達もまだいない」などと話していた。この子どもの言葉は、当時の若者の孤立状況の1つを示していた。

 続いて、鷹野日南さん(享年20)が7月10日に、三浦春馬さん(享年30)が7月18日に、芦名星さん(享年36)が9月14日に、藤木孝さん(享年80)が9月20日に自殺した。中でも世間に衝撃を与えたのが、国民的女優の1人であった竹内結子さん(享年40)までもが、9月27日に自殺したことだ。三浦さんと芦名さん、藤木さんは、ドラマ『ブラッディ・マンデイ シーズン2』(TBS系)で、三浦と竹内は映画『コンフィデンスマンJP』シリーズで共演していた。そのため、SNSなどでは、「共演者の死を意識したことによる自殺の連鎖か?」とも騒がれた。

 コロナ禍で日本社会にかつてない閉塞感が漂う中、足もとで「自殺」が増えていると言われる。その象徴として芸能人の自殺が続き、さらにその報道に触発されたのか、一般人の間でも「後追い自殺」と思われる現象が起きている。そんな仮説を頭の片隅に置きながら、足もとの傾向と取り組むべき課題を分析しよう。

 足もとの自殺の傾向を知る上で、最も注目されているのが、警察庁の自殺統計のデータである。これを見ると、今年8月から顕著に自殺者数が増えていることがわかる。8月の自殺者は全国で1854人。昨年同月比で251人、16%増加した。男女別では男性が6%増だが、女性は40%も増えている。特に30代以下は、70%強も増えた。中高生、大学生とも過去10年の8月では、過去最多になっている。中でも、高校生は顕著だ。

 2015年版の『自殺対策白書』によれば、18歳以下の自殺者で過去40年間の日別自殺者数を見ると、最も多い日は「9月1日」だった。そのため、毎年のように各メディアが「9月1日問題」を報道している。この日は夏休み明けを示しているが、学校が再開することによって精神的負担を感じる生徒が多いことも考えられる。

8月の自殺者増加は「9月1日」の前倒し?
それだけでは説明できない

 ただし、今年の場合はコロナ休校があったので、夏休みが短かかった。そのため、8月に自殺者が増えたのは、「『9月1日問題』が早まっただけではないか」との見方もある。しかし、なぜ男性ではなく女性の自殺者が急増したのかについての説明にはならない。

 別の見方もある。鷹野さんと三浦さんが亡くなった7月は、自殺者数は過去3年間の平均よりも25%増加した。8月は、『ブラッディ・マンデイ』の共演者3人が自殺をする9月の前であり、その影響は加味されていない。三浦さんの自殺、もしくはその報道の影響が、8月の自殺者を増やしたのだろうか。

 実際、有名人の自殺、またはその自殺に関連した報道が自殺の連鎖を呼ぶケースはある。後追い自殺や模倣自殺が起きることを「ウェルテル効果」といい、これはゲーテの『若きウェルテルの悩み』に由来する。主人公は最終的に自殺するが、これを読んだ当時の若者たちが自殺をしている。

 日本でも、自殺の連鎖を生んだ作品があった。江戸時代の人形浄瑠璃で、近松門左衛門の『曽根崎心中』だ。結婚に反対された男女が、最後に心中をして、来世で一緒になることを誓うというストーリーだ。当時の「心中もの」の代表作である。

 この作品の影響で、現実でも心中が連鎖した。そのため幕府は、「心中もの」上演を禁止した。実際に心中をして2人とも生き残った場合は、晒し者として、市民権を剥奪された。1人だけ生き残った場合は、殺人罪としていた。それでも、心中は相次いだと言われている。

岡田有希子さんの「後追い」が急増
野猿の「解散」も引き金に

 現代では、1986年、アイドルの岡田有希子さんが自殺したときのケースが有名だ。「松田聖子2世」と呼ばれるほど人気があったこと、自殺現場からの生中継が行われたり、現場写真が雑誌に掲載されたりしたことにより、報道はセンセーショナルに加熱した。その影響により、後追い自殺が増えたと言われた。

 この年は「葬式ごっこ」が絡んだいじめ自殺報道も多くなされ、文部省(当時)がいじめ統計を取り始めたタイミングでもあった。岡田さんの自殺も相まって若年層の自殺が注目され、過度な報道があったことで、10代の自殺が増えたのではないかとも言われている。

 警察庁の自殺統計によると、この1986年における19歳以下の自殺者は802人で、前年と比較して255人も増加した。翌87年になると一気に225人減少したことから、自殺報道の影響があったと見る専門家は多い。

 こうした過去の事例を見るにつけ、今年8月の自殺急増にも、報道が影響した可能性はある。しかし警察庁の自殺統計によると、「20歳未満」の「原因・動機」で最も多いのは「学校問題」が最多で32人と、過去10年における8月の「原因・動機」別で最も多い。「家庭問題」や「健康問題」でも、同様の傾向がある。仮に、著名人の自殺報道がトリガーになったとしても、ベースとなる悩みは別にありそうだ。現段階では「学校問題」の詳細なデータは揃っていないので、これ以上のことには言及できない。

 一方、著名人の自殺でなく音楽グループの解散をきっかけに自殺が起きたケースもある。とんねるずを中心としたグループ「野猿」が2001年5月、解散した。亡くなったのは福岡県の女子高生2人で、自殺した際のメモが見つかったが、その最後には「撤収」と書かれていたという。

 2人は別々の高校に通学し、解散コンサートがある国立代々木競技場第一体育館を訪れていた。1人は入学以来、授業を欠席したことはなかった。同校の教諭は「『野猿が解散するなら、もうどうでもいい』などと友達に漏らしていたらしい」と話している(朝日新聞2001年5月16日)。もう1人も、「2年生になってから遅刻や欠席はない」とされていた。まじめな生徒たちだったようだが、解散も自殺も「もう目にすることはない」という意味で、少なくともこの2人にとっては、有名人が死亡したのと同様の喪失感があったのだろう。

 著名人の自殺に後追い効果があると言われる中、三浦さんの共演者をはじめ、著名人の中でも自殺が連鎖しているように見えることは、ただの偶然なのか、仲間の死に心理的に影響を受けた後追い自殺や模倣自殺なのかは、現段階では知る由もない。しかし、これらの情報を受け止める側である視聴者や読者は、否応なく連鎖自殺を連想してしまう状況にある。

著名人「連鎖自殺」の深い影響
自殺報道のあり方とは

 では、一般人を報道の影響から守るための取り組みは進んでいるのか。厚生労働省は「著名人の自殺に関する報道は『子どもや若者の自殺を誘発する可能性』があるため、WHOの『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道の徹底をお願いします」などのお願いを、三度出している。独自の「ガイドライン」を作成している報道機関もあり、朝日新聞は自社のガイドラインを公開している。

 事件や自殺の報道は警察担当記者が中心に行うが、公式発表以外の情報を入手し、記事化するのも報道の役割である。どこまで報道するのかについて一定のガイドラインはあってもいいが、杓子定規に捉えると何も報道できなくなる。ただ、一般紙やテレビは、社内ガイドラインに従って、ケースバイケースで判断すべきだと筆者は思う。一方で、雑誌やスポーツ紙、夕刊紙は、一般紙やテレビとは違った独自の報道をするものだ。著名人の自殺に関しても同じことが言える。

 ただし最近は、ネット上のポータルサイトであらゆるニュースが拡散されるため、媒体の垣根がなくなりつつある。独自スタイルの報道を続ける媒体の記事については検索上位に上がらない仕組みにしたり、ガイドラインに明らかに反する内容の記事については本文を載せないようにしたりと、ポータルサイト側にも工夫が必要だ。著名人の自殺が起きたときに、専門家などを臨時に召集して意見を聞き、判断するのもよいかもしれない。

 さて、ここまでは主に著名人の自殺報道が世間に与える影響を見てきたが、それは自殺の誘発要因の1つに過ぎない可能性がある。自殺を考えるほど人が悩む根底には、コロナ禍による先の見えない社会不安など、さらに奥深い原因があるはずだ。各種機関のデータと共に、そのあたりの事情も考察してみよう。

 マクロの観点で見た場合、よく言われるのは、完全失業率が高くなると自殺者が増える傾向があるということだ。「労働政策研究・研修機構」の調査によると、19年末から20年7年までの雇用者数の減少率は、男性で0.8%だったのに対し、女性は3.2%で、2.4ポイントの差があったという。女性の収入が減少した家庭では、2割が食費を切り詰めるほど困窮している。雇用問題は自殺に直結するとも言われているが、女性の自殺が増加したのは主に20代以下である。そのため、コロナ後の就労状況だけを自殺者数の増加に関連づけて語ることはできない。

 しかし筆者は、コロナ禍における取材の過程で、女性たちのこうした声も耳にしている。

「自分に向き合う時間が増えて、将来への不安は増したかな。母親は緊急事態宣言を受けて休職し、宣言が明けて復職していました。コロナ問題で見通し立たないときは、辛かったです」(30代女性)

「普段は母親と喧嘩をすることもありましたが、ほどよい距離感だったと思います。コロナ問題があって、母親が家にいる時間に私もいることが多くなりました。そうすると、喧嘩まではいかなくても、細かいことがお互いに気になって、イライラすることが増えました」(20代女性)

電話相談では「自殺志向」が
増加も若年層は少ない

 コロナ問題は経済問題だけでなく、将来不安や人間関係にも影響を与えている。そんな中、今回の一連の著名人の自殺報道に際しては、相談窓口の情報が添えられていた。散々「いのちの電話」が紹介されたため、「自殺志向」の相談件数が増えるのは当然だ。

 ただし電話相談では、若年層は少ない。全国の「いのちの電話」全体(宮崎と東京英語いのちの電話を除く)では、2019年で10代は2.8%(このうち、自殺関連相談は6.8%)。20代は7.2%(うち、自殺関連相談は12.3%)などと、高い比率ではない。合わせても1割程度だ。

「北海道いのちの電話」によると、電話相談の件数は、昨年平均は44件。竹内さんが亡くなった9月27日の翌日(28日)は48件、翌々日(29)は54件あった。このうち、自殺に関連する相談は28日は14件で全体の29.2%、29日は12件で22.2%と、昨年平均(11.7%、全国平均は11%)の2~3倍となっている。2日間で見れば102件で、10代は1人、20代は3人、30代は16人、40代は22人、50代は24人、60代は19人、70代以上が8人と、中高年層が多くなっている。

「三浦さんが亡くなったときは名前を挙げる相談はなかったが、竹内さんが亡くなった後には、名前を挙げている相談が数件あった」(事務局)。

SNS相談は若年層が多く
「コロナ関連」が増加

 2017年10月に、神奈川県座間市のアパートで男女9人が殺害された事件が起きた。被害者はツイッターで「死にたい」などとつぶやいていたことから、厚生労働省は、ツイッターやLINEなどを利用してSNS上で相談をする民間事業者に助成を始めた。若年層に届く相談を目指したのである。

 その1つ、「東京メンタルヘルス・スクエア」のSNS相談の月別相談件数を見てみると、8月は1747件で、このうち女性が1400件と全体の80%を占めた。前年8月は全体が1041件で、女性の割合が793件と76%を占めていたため、今年8月は対前年同期比で女性比率が4ポイント増えたことになる。

 特に多いのが若年層だ。相談件数を19歳以下に限ってみると404件で、女性全体に占める比率は28.8%となる。これは前月比で26件増加しており、年代比率としても2.1ポイント増加した。前年8月は251件で女性全体の31.6%だったため、今年の比率のほうが低くなったもものの、10代が全体の3割程度を占める状況は変わらない。20代でみると。447件で、女性全体の比率で約32%。前月比では8件減少だったものの、ほぼ同じ比率だ。前年同月が28%で、4ポイント増加した。つまり、20代以下で、6割前後を占めている。

 相談内容を具体的に見てみよう。「自殺念慮」を思わせる相談は今年8月は57件で、年内で最も多い。「メンタル不調」と捉えられる相談は8月に503件(全体の28.7%)で、年内で最も多かった5月の566件よりは63件少なく、比率で見ても36.1%から7.4ポイント減っている。一方、コロナ関連の相談は280件で、8月が最多となっている。新型コロナを意識した相談が増えているということは、いわゆる「新しい生活様式」に関連したものだろう。

 相談件数だけ見れば、徐々に増加しつつあり、悩みを抱える若年層の深刻さがうかがえる。対応件数の総数は「相談員のキャパシティによるものが大きい」(同団体)し、匿名であるため相談の効果を実証することが難しい。相談者がSOSを出せるようになるのか、メンタルクリニックなどに通院できるようになるのか、自殺しない気持ちになれるのかなど、何を目標にするのかでも接し方は違ってくる。相談をしやすくするのは第一歩ではあるが、その後のフォロー体制をいかにするかが課題となる。

 コロナ禍による社会不安の中、自殺を選ぶ著名人が増え、それに触発される一般人も増えている。それぞれの現象の間に、どれほど強い関連性があるのかを明確に示すことは難しい。しかし、今目の前で起きていることが、真剣に向き合わなくてはいけない社会の大きな課題であることを、我々は肌で感じ取っている。これからも、注視していかなくてはならない。

(ジャーナリスト・作家 渋井哲也)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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