RPAを全社展開するメリットは?全社展開の障壁は何か

文●ASCII

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 昨今の働き方改革の影響で業務を見直し、効率化を進め、RPAを導入する企業が増加しています。RPAの一般的な導入手順では、自動化に向いている一部の部門から導入を進め、効果を検証しながら全社に展開していきます。今回は、RPAの全社展開に焦点を合わせて解説します。

本ページの内容はユーザックシステムの「業務改善とIT活用のトビラ」の転載です。転載元はこちらです。

RPAはどのように導入・展開されていくのか

RPAはスモールスタートで

 RPAの導入ステップは、一般的に次のような形で展開します。この方法は、PoC(Proof of Concept、概念実証)や実証実験と呼ばれます。

1.RPAを導入しやすい部門においてモデル業務を選定する
2.モデル業務で実験的にRPAを導入する
3.一定期間経過後にRPAの導入効果や自社システムへの適用を検証する

 導入効果の検証時には、以下のポイントを評価します。

・どの業務がRPAで自動化しやすかったか、自動化しやすいという想定は正しかったか
・どのRPAツールが自社に合うか
・目標とする効果が出たか
・自社のスタッフだけでもRPAロボットを作成できるか
・RPAツールや作成したRPAロボットは安定して稼働するか
・RPA導入で変化が生じた社員の業務と、RPAロボットの動作がうまく共存しているか

 この段階で想定どおりの効果が得られない場合は、対象業務やRPAロボットの動作などを見直します。その後、一般的には再度試験導入と検証を繰り返します。

4.同じ部門でRPAの対象となる業務を増やしていく

 RPAの導入効果が得られた同じ部門で、自動化の範囲を広げ、ノウハウを蓄積していきます。

5.ほかの部門にRPAを展開していく

 業務を連携することの多い部門にRPAを拡大することを繰り返して、導入部門を広めていきます。他部門に拡大する際には、どのような業務を自動化して、どのくらい効果があったのかという検証結果を公開すると、積極的に取り組んでもらえるでしょう。

6.最終的に全社展開へ

 全社的に導入するためには、ルールや管理体制の策定が必要になります。RPA導入に関わる情報システム部門と業務部門で全社共通の運用ルールを協議する、情報システム部門で組織した導入推進チームを主体に管理体制を策定するなどがあります。

RPAを全社展開する3つのパターン

 RPAの全社展開は、どの部門が主導するかによって3つのパターンに分かれます。

・業務部門主導

 業務部門、つまりRPAロボットを利用する現場が主導してRPAを導入し、RPAロボットも現場で作成する方法です。

 情報システム部門は、社内ネットワークへのアクセスなどのRPAロボット以外の設備や業務システムに関係する部分を担当し、RPAロボット作成のアドバイスを行います。

 RPAロボットの作成から運用まで業務部門内で完結できますが、ノウハウが広がりにくく、他部門への展開がしづらい傾向にあります。また、担当者の異動により野良ロボットが発生しやすい点にも注意が必要です。

・情報システム部門主導

 情報システム部門が主導してRPAツールを導入する方法です。情報システム部門のなかでRPA導入推進チームを結成し、現場への導入やサポートを行います。全社への展開も比較的スムーズにできるとされています。

 RPAロボットは情報システム部門が作成して管理するので、野良ロボットが発生しにくくなります。しかし、情報システム部門が把握した業務の内容やフローなどが業務部門の実情と合っていないと、業務に合わないRPAロボットになることがあります。また、業務部門へのヒアリングや順番待ちで、RPAロボットの作成に時間がかかることもあります。

・トップダウン型

 トップダウンにより、RPAツールを導入する方法です。RPAロボットを導入しやすいように、複数部門にまたがる業務フローを整理することができるため、大胆な効率化が可能です。

 ただし、スモールスタートではなく比較的大がかりな導入になると、コストや時間がかかる可能性があります。

RPAを全社に展開するメリット

 RPAの全社展開には、いくつものメリットがあります。

スケールメリットを生みやすい

 部門をまたいだ業務フローについてもスムーズにRPAロボットが作成できます。作成の過程で業務フローの見直しも可能です。そのため、RPAの導入効果がより大きくなります。グループ会社も含めてのRPA導入など、大規模な導入になれば、より大きな効果が期待できるでしょう。

運用管理がしやすくなる

 RPAロボットの円滑な運用管理には、作成したRPAロボットの登録方法などを定めた運用ルールが必要です。現存のRPAロボットを管理しやすくし、野良ロボットの発生を防ぎ、RPAロボットの品質を保ちつつ、法令や社則に違反しない新たなRPAロボットの作成を促すために、運用ルールの策定は欠かせません。全社展開ならば、必然的に全社共通の運用ルールを策定することとなり、運用管理担当者の負担が軽減できるでしょう。

RPAを全社展開するときの障壁とは?

 RPAの全社展開には、いくつかの障壁があります。導入しやすい部門ならば大きな問題にならない場合でも、全社展開となると浮かび上がってくる課題があるのです。

ロボットの作成に関する課題

 全社レベルで、それぞれの業務に合ったRPAロボットを作成することは容易ではありません。以下の問題が大きくクローズアップされる場合があります。

・業務部門だけではRPAロボットの作成が難しいことがある
 業務部門は、業務内容についてはよく理解していますが、RPAロボットの作成が可能なところばかりではありません。

 そこで、RPAロボットの作成を情報システム部門や外注先に任せることもよくあります。その場合には情報システム部門の負荷がかなり大きくなります。

・情報システム部門主導では業務に合わないことがある

 情報システム部門がRPAロボットを作成する場合、業務の理解やヒアリングが不十分な場合、業務に合わないRPAロボットが作成されることがあります。それではRPAロボットは使われなくなり、自動化の効果を発揮することができません。

RPAロボットの運用管理に関する課題

 RPAを全社展開すると、RPAロボット数も格段に増えることから、部分導入に比べてロボットの運用管理は難しくなります。

 特に、業務部門主導で作成されたRPAロボットについては情報システム部門で把握しづらく、管理が困難です。全社レベルになれば、管理困難なロボットの数も多くなるという懸念があります。

 また、RPAツールの導入により、スタッフは操作方法を覚える必要があります。ITリテラシーがそれほど高くないスタッフが多い部門では、RPA ロボットが活用されないままになる可能性があるのです。

RPAのスムーズな全社展開のポイントは管理と運用

 RPAを全社に展開する際には、以下のような目的から、全社で共通した運用ルールの策定と管理体制の確立が必要です。

・野良ロボットの発生を防ぎ、RPAロボットの不正な動作を防ぐ
・作成したRPAロボットを埋もれさせずに活用する
・不正な動作をしたり、法令に違反するような不適切なRPAロボットの作成を防ぐ

全社展開には運用管理機能を持ったRPAや、運用管理ツールの導入が便利

 管理体制と運用ルールを整えても、全社レベルでRPAロボットの運用管理をすることは容易ではありません。そのため、作成したRPAロボットを運用管理するツールを利用するのも一つの方法です。RPAの運用管理ツールには、次のような機能があります。

・複数のRPAロボットを一元管理
・RPAロボットのスケジュールによる実行
・RPAロボットの権限管理

 運用管理ツールは、情報システム部門だけではなく、業務部門の主導でRPA導入を進めるときにも便利です。中小規模の企業でも導入しやすく、使いやすいツールがありますので、検討してみるとよいでしょう。

 RPA展開コストを劇的に削減|“野良ロボ”防止にも役立つ「実行指示クライアント」とは

RPAの全社展開には大きな効果が期待できる

 RPAは間接業務から導入されることが多いようですが、全社的にはさまざまな自動化に向いた業務があるはずです。全社展開にはいくつかの障壁もありますが、スケールメリットや相乗効果によって大きな効果を上げることができます。業務効率が大きく向上し、働き方改革を推進できたり、作業時間の削減により新しいビジネスにつながったりするでしょう。単なるコスト削減にとどまらず、会社全体の競争力の強化が期待できるのです。

 ただし、RPAの有効活用にはきちんとした運用管理が必要です。RPAの導入を主導するのが業務部門であっても情報システム部門であっても、運用管理システムの導入は有用です。RPAを全社展開しても管理の目が届き、効果的に運用できるでしょう。

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