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Ryzen PRO 4000搭載機とインテル Core i搭載機を徹底比較

ビジネス向けパソコン市場でAMD Ryzen PRO搭載機のシェアが伸びているワケ

2020年09月30日 11時00分更新

文● 山口優/編集●村野晃一(ASCII)

提供: AMD

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AMD Ryzen PRO 4000シリーズを搭載したレノボの法人向けノートパソコン「ThinkPad L15 Gen 1」

 2017年に登場して以来、そのマルチスレッド性能やグラフィックス性能の高さで大きな注目を集めているAMD Ryzenプロセッサー。世代を経るごとにCPU市場での存在感を増し、近年はコンシューマー向けだけでなく、法人向けパソコンでもシェアを大きく伸ばしている。メーカーによっては同型モデルにインテルのCore iプロセッサー搭載機とAMD Ryzenプロセッサー搭載機の2系列を用意して需要に対応しているところもあるくらいだ。

 その最新世代となる「AMD Ryzen PRO 4000シリーズ・モバイル・プロセッサー」は、7nmプロセスルールの採用で従来世代から大幅に性能がアップしているのが特徴。いったいどのくらいのパフォーマンスなのか。本当にビジネスニーズに対応できる性能なのか。同プロセッサーを採用したレノボの法人向けノートパソコン「ThinkPad L15 Gen 1」を使って、その実力を検証していこう。

法人向けパソコンに必要とされるもの

 ビジネスシーンで使用される法人向けパソコンを選ぶポイントは、大きく分けると次の3つになる。

1. 用途
2. コストパフォーマンス
3. 安全性

 順を追って説明していこう。

 まず、「用途」について。一口に法人向けパソコンといっても、どのような業務に使用するのかで必要な性能は異なってくる。たとえば事務的な用途ならWordやExcelなどのオフィスアプリが快適に動けば十分な場合が多いし、WebデザインやCADなどの用途ならその作業負荷に耐えるパフォーマンスが必要。最近は動画制作を内製化する企業が増えてきているが、動画の編集やエンコードにはよりパワフルなパソコンが求められる。そのため、パソコンを導入する部署にヒアリングをして用途や必要となるスペックを明確にしておくことが大切だ。

 というと、性能が高くて困ることはないのだから一律でハイスペックなパソコンを導入すればいいのでは? と思うかもしれないが、高性能になるほど導入コストも高くなるし、消費電力やメンテ代などのランニングコストも増える傾向にある。「コストパフォーマンス」を考えると、あまりおすすめできる方法ではない。予算や導入台数などを考慮しつつ、オーバースペックにならない範囲内で最適な機種を検討するのがベストだ。

 もっともコストを重視するあまり必要なものまで削ってしまうのは本末転倒。機密情報を扱うビジネス向けパソコンでは「安全性」も大切なポイントになる。とくに持ち運びやすいノートパソコンは53秒に1台のペースで盗まれており、メモリー内の重要データを盗み取るデータ侵害の被害にも遭いやすい。AMDが同社サイトで紹介している調査によれば、ノートパソコンの紛失に関連するコストのうち80%がデータ侵害によるものだという。

 そのためビジネス向けのパソコンは、性能やコストパフォーマンスだけでなく、メモリーの暗号化やシステムの乗っ取りを防ぐ機能などの先進的なセキュリティ機能を備えたプロセッサーを搭載したものを選ぶようにするべきだろう。そこで注目したいのがAMDのRyzen PRO 4000シリーズだ。

性能とセキュリティ機能を強化したRyzen PRO 4000シリーズ

 AMDのRyzenプロセッサーは、同社が新規に開発した「Zen」と呼ばれるマイクロアーキテクチャ(基本設計)を採用している。Zenの特長は、計算処理を行う頭脳に相当するコアを増やすことで一度に実行できる処理(マルチスレッド性能)を高めている点にある。

 その第3世代にあたる最新の「Zen2」は、7nmプロセスルールを採用することで大幅な性能アップを実現している。プロセスルールというのは、簡単にいえばどれだけ細いペンで回路を描くかということ。細ければ細いほど、同じ面積に多くの回路を描くことができ、結果としてより複雑で高性能な回路になる。

 Zenの場合は、第1世代のZenが14nm、第2世代のZen+が12nm、第3世代のZen2が7nmとなっている。つまり、これまでに比べて単純に倍近い密度の回路を実現できるというわけだ。高密度になると電子の移動距離も小さくなるため消費電力の低減にもつながる。

 実際、Ryzen 4000シリーズでは、パフォーマンスの向上に加え、電力効率が飛躍的にアップしており、前世代よりも40%ものエコ化が実現されている。今回の試用機である「ThinkPad L15 Gen 1」では、15.6型モデルでありながら、最長バッテリー駆動時間が11時間強(JAEITA2.0基準)も確保され、構成(Ryzen 7 PRO)によっては、15時間超になるモデルもある。

 さらに、省電力化の恩恵もあって、稼働時の筺体温度も10年前のAMD製品からは想像できないくらい安定している。

 こうした最新のテクノロジーによってRyzen 4000シリーズは、これまでインテルのプロセッサーに比べて弱点とされてきた動作クロックあたりのパフォーマンス(IPC)を向上することに成功している。

 ちなみに、Ryzenにはグラフィックの描画を担当するGPUコアが統合されているが、こちらも7nmプロセスルール。このGPUコアは定評あるRadeon Vegaをベースにしたもので、少し前のエントリー向けの外付けグラフィックカードに迫る性能を実現している。

 Ryzen 4000シリーズのもうひとつの特長は、コストパフォーマンスの高さだ。AMDはもともとプロセッサーを製造する際に、自社で設計して製造は半導体大手に委託するというスタイルをとっている。そのため自社製造するより設備投資の面で有利。それがプロセッサーの価格にも反映されているのだ。

 ラインアップも充実しており、Ryzen 7/5/3の3つのグレードが用意されている。プロセッサーナンバーはインテルのCore iプロセッサーと似たような位置づけで、7がハイエンド、5がミドルレンジ、3がエントリー向けとなっている。

 なお、現行のラインアップには通常のRyzen 4000シリーズに加え「PRO」の付いたRyzen PRO 4000シリーズが用意されている。これは、通常版をベースにメモリー内のデータを暗号化するセキュリティ機能などを搭載して安全性や信頼性を高めたもの。インテルのvProテクノロジーを搭載したCore vProプロセッサーと同じような位置づけだ。今回検証に使用したビジネスノートパソコン、ThinkPad L15 Gen 1に搭載されているのも、このRyzen PRO 4000シリーズだ。

 ビジネスシーンでは、こうしたハードウェアレベルでセキュリティ機能を実装したプロセッサーを搭載したパソコンを導入することで、コンシューマ向け製品を使うよりも安全に業務を遂行することが可能だ。実際、ビジネス向けのパソコン市場ではRyzen PROを搭載した製品が毎年シェアを大きく伸ばしている。

7nmプロセスルールが採用されたRyzen PRO 4000シリーズ

Ryzen PRO 4000シリーズには、7nmプロセスルールのGPUコア「AMD Radeon Graphics」が内蔵されている

メインストリームのビジネス向けノートPC「ThinkPad L15 Gen 1」

ThinkPad L15 Gen 1。15.6型ディスプレーやテンキー付きのタイピングしやすいキーボードを搭載している

 それでは、実際にRyzen PRO 4000シリーズのパフォーマンスをチェックしていこう。今回は、インテルCore iシリーズと比較するため、同型でRyzenとCore iの2系列をラインナップしているレノボのビジネス向けノートパソコン「ThinkPad L15 Gen 1」を使うことにした。

 ThinkPad L15 Gen 1は、低価格ながらパワフルな性能とタイピングしやすいキーボード、高度なセキュリティ機能などを備えたビジネス向けノートパソコン。15.6型ディスプレーやテンキーを搭載しており、Excelなどの表計算ソフトを使った作業がしやすいという特長を持つ。最新のWi-Fi 6に対応するほか、Webカメラを内蔵しており、リモート会議も快適に行うことができる。

指紋認証センサーも搭載

物理的に遮断できるシャッター付きのWebカメラを搭載する

 12項目の米軍調達基準に準拠した過酷な品質テストなどをクリアしており、堅牢性が高いのもポイント。ビジネスシーンでは不可欠なセキュリティ機能も充実しており、指紋認証センサーや物理的に内蔵カメラを遮断できる開閉式カメラカバーなどを搭載している。

 インターフェイスはUSB 3.1 Type-C×2、USB 3.1×2、ドッキングコネクター、HDMI、microSDメディアカードリーダー、nano SIMカードスロット、LAN、マイクロホン/ヘッドホン・コンボ・ジャック、セキュリティ・キーホールなど豊富に用意されており、多彩な周辺機器を直接つないで使用することができる。

インターフェイスが充実しているのも特長

 今回はそのラインナップのうち、ミドルレンジのAMD Ryzen 5 PRO 4650U搭載モデルとエントリー向けのAMD Ryzen 3 PRO 4450U搭載モデル、比較対象としてインテル Core i5-10210U搭載モデルを用意した。おもなスペックは次の通りだ。

ThinkPad L15 Gen 1のおもなスペック
プロセッサー AMD Ryzen 3 PRO 4450U (2.50GHz, 4MB) AMD Ryzen 5 PRO 4650U (2.30GHz, 8MB) インテルCore i5-10210U (1.60GHz, 6MB)
グラフィックス AMD Radeon Graphics AMD Radeon Graphics Intel UHD Graphics
メモリー 8GB(PC4-25600) 8GB(PC4-25600) 8GB(PC4-25600)
ストレージ 256 SSD(M.2、PCIe-NVMe) 256 SSD(M.2、PCIe-NVMe) 256 SSD(M.2、PCIe-NVMe)

 なお、テスト機は各種オプション仕様を装備したもので行っているため、機種構成によっては、同様の結果が得られない可能性もあることに注意してもらいたい。

Ryzen 3 PROでもCore i5を上回るパフォーマンスに

 まず、CPUの性能を見るため「CINEBENCH R20」を実行したところ、次の結果になった。

「CINEBENCH R20」の結果
プロセッサー AMD Ryzen 3 PRO 4450U AMD Ryzen 5 PRO 4650U インテルCore i5-10210U
マルチコア 2003 pts 2692 pts 1439 pts
シングルコア 429 pts 454 pts 422 pts

「CINEBENCH R20」の結果。AMD Ryzen 3 PRO 4450U

「CINEBENCH R20」の結果。AMD Ryzen 5 PRO 4650U

「CINEBENCH R20」の結果。インテルCore i5-10210U

 マルチスレッド性能の高いRyzenなのでマルチコアのスコアが高いのはある程度予想していた通りだったが、シングルコアもかなり健闘している。とくにエントリー向けのRyzen 3がシングルコア、マルチコアともにCore i5を上回っているのには驚いた。Ryzenはもともとインテルの同クラスのCPUに比べてコスパがよいが、1クラス下でも同等以上の性能だとすれば、予算が限られているユーザーには非常に心強い。

 次にパソコンの総合的な性能をチェックするため「PCMARK 10」を実行したところ、次の通りになった。

「PCMARK 10」の結果
プロセッサー AMD Ryzen 3 PRO 4450U AMD Ryzen 5 PRO 4650U インテルCore i5-10210U
総合スコア 4272 4506 4162
Essentials 8394 8706 9023
Productivity 6388 6776 6742
Digital Content Creation 3948 4210 3217

「PCMARK 10」の結果。AMD Ryzen 3 PRO 4450U

「PCMARK 10」の結果。AMD Ryzen 5 PRO 4650U

「PCMARK 10」の結果。インテルCore i5-10210U

 どの機種も、全項目で快適さの目安となる3000を超えており、一定水準以上の性能にあることがわかる。詳細をみると、基本性能を示すEssentialsとビジネスアプリのパフォーマンスを示すProductivityはどの機種もほぼ似たようなスコアで、クリエイティブアプリのパフォーマンスを示すDigital Content Creationで差がついていることがわかる。Ryzenのグラフィックス性能の高さがうかがえる結果だ。

 そこで、グラフィックス性能をチェックするため3DMarkも試してみた。

3DMarkの結果
プロセッサー AMD Ryzen 3 PRO 4450U AMD Ryzen 5 PRO 4650U インテルCore i5-10210U
Time Spy 652 749 464
Fire Strike 1796 1958 1150
Night Raid 7733 8745 5618
Sky Diver 6634 7696 4725

内蔵GPU向けのDirectX 12対応テスト「3DMark Night Raid」の結果。AMD Ryzen 3 PRO 4450U

内蔵GPU向けのDirectX 12対応テスト「3DMark Night Raid」の結果。AMD Ryzen 5 PRO 4650U

内蔵GPU向けのDirectX 12対応テスト「3DMark Night Raid」の結果。インテルCore i5-10210Uの順

 結果を見てもわかるように、Ryzenのパフォーマンスの高さが印象的。とくにRyzen 5 PRO 4650UはCore i5-10210Uよりも50%以上高いスコアになっており、ノートパソコンの内蔵GPUとしては非常に高性能だ。

 参考までに「FINAL FANTASY XIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」のスコアも紹介しておこう。ビジネス向けのパソコンで実際にゲームをプレイすることはあまりないと思うが、最近は法人利用でもビデオ会議や写真を使った資料作成などグラフィックカルなデータが多いので、ゲーム向けのベンチマークにも注目する必要が出てきている。

「FINAL FANTASY XIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(1280×720ドット)
プロセッサー AMD Ryzen 3 PRO 4450U AMD Ryzen 5 PRO 4650U インテルCore i5-10210U
標準品質 4667 4905 4309
高品質 3719 4013 3166
最高品質 2823 3089 2187

「FINAL FANTASY XIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(1280×720ドット、標準品質)の結果。AMD Ryzen 3 PRO 4450U

「FINAL FANTASY XIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(1280×720ドット、標準品質)の結果。AMD Ryzen 5 PRO 4650U

「FINAL FANTASY XIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(1280×720ドット、標準品質)の結果。インテルCore i5-10210Uの順

 Ryzenのグラフィック性能はゲーミングPCに搭載されるような外付けビデオカード並とまではいかないものの、Core i5-10210Uの内蔵GPUを大きく上回っており、かなりパフォーマンスが高いことがわかる。

限られた予算で余裕のある性能を手に入れられるRyzen PRO 4000シリーズ

 ここまで見てきた通り、Ryzen PRO 4000シリーズは同クラスのCore iプロセッサーよりも1ランク上の性能を持った非常にコストパフォーマンスに優れたプロセッサーだ。限られた予算でインテルのCore iプロセッサーと同等以上の性能を手に入れたい場合や、パソコン本体にかける予算を抑えてそのぶんリモートワークの設備投資や周辺機器購入などに役立てたい場合などには、非常に有力な選択肢になると言えるだろう。ぜひそれぞれの予算の事情に合わせて検討してみてほしい。

(提供:AMD)

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