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「マスク拒否」で相次ぐ旅客機での退去命令、乗客側の訴えに道理はあるか

2020年09月21日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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乗客のマスク拒否によるエアラインでの退去命令が相次いだ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

9月になり航空機の乗客が新型コロナウイルス感染拡大の防止として要請されたマスク着用を拒否し、退去させられたというニュースが相次いで報じられた。いずれのトラブルも共通点は男性の乗客が客室乗務員の声に一切耳を傾けず、理由の説明を求めても拒否。結局、運航責任者(機長)から降りるよう命令されたという顛末(てんまつ)だ。そして、これも共通しているのがトラブルになった後、マスク着用に身体的な問題があると主張し、航空会社の対応は不当と非難している点だ。果たして、退去させられた乗客の訴えに道理はあるのか。航空機事故で関係者を何度か取材した経験から考察してみたい。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

着用も理由説明も拒否

 1件目のトラブルがあったのは9月7日午後。北海道の釧路空港から関西空港に向かうピーチ・アビエーション機内で、マスクを着用していなかった30代男性に客室乗務員が求めたが「要請するなら書面を出せ」などと拒否。

 出発が約45分遅れた上、飛行中も大声を出すなどして威圧的な姿勢が続き、機長が航空法の安全阻害行為に該当すると判断。新潟空港に緊急着陸し、男性に降りるよう命令書を交付した。

 男性は降機に応じ、その後、ピーチ機は関西空港に向けて出発。約2時間15分遅れで到着し、乗客120人に影響が出た。

 2件目が起きたのは12日午後。北海道の奥尻空港から函館空港に向かう北海道エアシステム(HAC)機内で、ピーチ機のトラブルと同様、マスク着用を求められた男性が拒否。その理由の説明を求めても応じなかったため、機長の判断で降ろした。

 男性は降ろされる直前にマスク着用と搭乗を申し出たが、機長が命令書を交付した後で、安全航行に協力しなかったとして拒否。機内には21人の乗客が搭乗しており、定刻より約30分遅れて出発したという。

 ピーチ機を降ろされた男性に取材した共同通信よると、「身体上の理由で長時間マスクをするのが難しい」と説明。具体的な病名を明らかにしないのは「その症状なら着けられるだろう」という暗黙の強制につながると説明したという。

 そして「他人の病状にどうこう言うべきではなく、マスクをしないという自己決定は尊重されるべきです。仮に健康上の問題がなかったとしても、自分のポリシーとしてしない考え方もありだと思います」と述べている。

「なぜ事前に申請しなかったか」という点については、「健康状態を他人に伝えるのはあまり気持ちいいものではありません。事前のお願いがない以上、わざわざやる必要がないと思いました」と訴えた(※筆者注:その一問一答は、共同通信47NEWS「マスクをしないと飛行機に乗れないの?降ろされた男性、ピーチ機上で経験した一部始終を語る」にアップされている)

 HACの乗客も各メディアの取材に応じ「ほかの乗客の前で持病があることを言いたくなかった。ピーチの件を知っていたので不安だったが、降ろされるとは思わなかった」と不満を述べていた。

問題はマスクではなく安全阻害

 共通点は、冒頭に記載した通りだ。

 その流れは「マスク非着用で搭乗」→「客室乗務員が着用を要請」→「要請を拒否」→「理由の説明を要請」→「それも拒否」→「安全阻害行為として降りるよう命令」というものだ。

 そして、トラブルが表面化してから「持病があった」「マスク着用は義務や強制ではなく任意の要請」「航空会社の対応は不当」と訴えている点だ。

 客室乗務員から指摘を受けた際、乗客2人には下記のような「3つの選択肢」があったはずである。

(1)客室乗務員の指示に従ってマスクを着用し目的地に向かう
(2)自身の症状を伝えマスク着用を免除してもらい目的地に向かう
(3)自身の権利に固執しマスク非着用を貫いて航空機から降りる

 というものだ。

 結局、最悪パターンともいえる3つ目を選択した訳だ。

 航空法73条の3は、航空機内の安全を害し、搭乗者の財産に危害を及ぼし、秩序を乱し、規律に違反する行為をし「又はこれらの行為をしようと信じるに足りる相当な理由がある時は」拘束や抑止、降機させることができる、と明記している。

 この2人が旅客機で目的地に向かうのが優先だったのか、それとも“自身の権利”を主張して旅客機から降ろされ、「不当な仕打ちを受けた」と世にアピールするのが重要と考えたのか、それは分からない。

「理不尽」を世に問うことが自身の不利益より優先するものであり、かつ「社会に一石を投じよう」という強い理念に基づく行為なら、それは意味があることかもしれない。

 実は筆者も肌にちょっとした問題があり、マスクは非常に苦手である。「マスク警察」と揶揄(やゆ)されるような方々の話を耳にするたび、不快な思いをしている。

 何かとマスク着用を強要されるような今の世の中に、正直、辟易としている人々は多いだろう。

 しかし今回、トラブルの原因は「マスクうんぬん」の問題ではないというのが正直な感想だ。

刑事・民事で追及される可能性

「マスクを着用しない自由」を世に訴えるなどといった個人のこだわりはどうでもいいが、航空法73条は「乗客を安全に目的地に運ぶ」という義務を航空会社と運航責任者、客室乗務員に課している。

 航空機は乗用車などとは違い、事故は大惨事につながる。だからこそ、航空法は万が一のためにもわずかであろうと“トラブルの芽”があるならば、容赦なく摘むように規定しているのだ。

 前述したが、かつて航空機事故の取材で知り合ったパイロットや管制官、整備士らが共通して強調していたことは「少しでも不安があったら飛ばしません」だった。

 もちろん、列車やバスなど公共交通機関も安全が最優先だが、こと「安全」に関して航空会社の“意識の強さ”は並々でない。これは読者の方々も感じているのではないだろうか。

 航空会社の役員一歩手前の幹部に聞いたことがある。

「発着時間はどうでもいいとはいいませんが、乗客の皆さまを確実に、安全に、間違いなく目的地にお連れすることが最優先です」

 ピーチ社は今回のトラブルについて「安全を最優先に対応した。マスク着用は義務ではないが、引き続き要請していきたい」などとコメント。

 HAC社は「マスク着用拒否の理由を説明してくれていたら、席を空けるなどしてマスク着用なしでも搭乗できるように対応した」などと説明した。

 強調しておきたいのだが、2人はトラブルの原因をマスクの着用・非着用にしているが、航空会社側とすれば「安全な航行に協力しようという姿勢だったか否か」なのだ。

 テレビやネットで、航空機内でトラブルを起こした乗客が粘着テープでぐるぐる巻きにされた映像をご覧になったことはないだろうか。

 筆者もさすがにあれはやり過ぎと思うが、海外では常識らしい。今回の2人が拘束されず「降りてください」と優しく対応してもらったのは、航空会社側の配慮だと思う。

 今回はいずれも「命令書」が出て、2人とも従った以上、航空法違反を犯したと認諾したと解釈されるだろう。さらに両機とも遅延が発生しているので「威力業務妨害罪」の成立もあり得る。

 もし航空会社が被害届か告訴状を提出して立件された場合、航空法違反は50万円以下の罰金、威力業務妨害罪は50万円以下の罰金もしくは3年以下の懲役で、前科前歴持ちや執行猶予中でなければ、いずれも罰金で済むだろう。

 ただ、全国紙社会部デスクによると、ピーチ社は損害賠償請求を検討しているという。

 デスクは「おそらく、人生が詰むような金額と思います。権利を主張するのは悪いことではありませんが、高い代償になると思いますよ」と話していた。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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