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石破元幹事長が訴える内需主導の経済政策「アベノミクスで日本の競争力は低下」 石破 茂・自民党元幹事長インタビュー

2020年09月12日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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石破 茂・元自民党幹事長 Photo by Toshiaki Usami

9月14日投開票の自民党総裁選挙に立候補している石破茂元幹事長が11日、ダイヤモンド編集部のインタビューに応じた。アベノミクスについては「雇用が増えたのは生産性が低い業種」「ドルベースで見れば株価の上昇率は大きくない」と問題点を列挙。総裁の有力候補である菅義偉官房長官の掲げる地域金融機関の再編には賛成しつつ、中小企業の統合・再編については「再編より後継者のマッチングが重要だ」と疑義を呈した。(聞き手/ダイヤモンド編集部 山本興陽、岡田 悟)

中国とのGDPの差は2.9倍に開いた
日本は「働かないと生きていけない社会」になった

――アベノミクスの評価と課題についてどのようにお考えですか。

 アベノミクスによる好景気の期間、株価は上がりました。大企業は過去最高の業績を上げ、企業の内部留保も空前の額になりました。

 有効求人倍率も、全ての都道府県で1を超えました。それは評価すべきものでしょう。

 一方でこの間、日本と中国の国民総生産(GDP)の差は2.9倍と大きく開きました。アメリカとの開きも4倍。他のアジア諸国との差も縮まりつつあり、日本の競争力は非常に落ちてきています。

 雇用者数が増えたといっても、生産性の低い第3次産業、あるいは医療や介護といった業種が中心であり、女性と高齢者の雇用が増えた。

 有効求人倍率は改善したものの、中身を見ると、国民の生活が豊かになったというよりは、「働かないと生きていけない社会」になったのではないか。日本経済の力自体が強くなったわけではないのではないでしょうか。

 好景気を加速させたのは、円安と低金利、そしてなかなか上がらない賃金。いわゆるコストカット型の取り組みだったのではないですか。

――アベノミクスで、個人消費がなかなか増えませんでした。

 それはなぜか。消費性向の高い低所得の方々が増えたということです。所得が増えなければ、個人消費は上がりません。もう一つは、将来に対する不安があって、お金を使わない。この2つの悩みがあるのだろうと思います。

物価上昇率2%を目指すのは世界のトレンド
消費喚起には金融緩和より商品の魅力が重要

――過去に例のない規模の金融緩和を中心とした、日本銀行の政策についてはどのように考えていますか。

 日銀の役割は日銀法にある通り、物価を安定させることであって、それに尽きる。

 2%の物価上昇率の目標は、国際的なトレンドでもあるため、それ自体が否定されるものではありません。しかし、金融緩和をすると当然、円は安くなる。円が安くなれば、円ベース換算で業績が上がったように見えます。

 株価の上昇をドルベースで見るという議論はあまりされませんが、ドルベースで見ると、2倍に上昇した程度です。

 もちろん、金融緩和を突然やめるつもりはありません。社会を激変させ、混乱させることになるからです。

 そもそもデフレの何が問題かというと、お金を持つことに価値があるようになり、「お金を使おう」とならないこと。お金持っているほうが得だというのは、決して健全な経済とは思えません。

 ただその反対に、物価が上がるので、お金を持っていると損だから使おう、となるかといえば、それは違うと思っています。実際に、そういうことは起こっていないわけですし。

 金融政策の目的はあくまで物価の安定なので、2%の物価上昇率を念頭に置くことは否定しませんが、消費喚起のやり方としては少し違うのではないでしょうか。消費が伸びない要因として、日本で作られる製品が魅力的でなくなってきた面もあるでしょう。

 例えばインバウンドが盛んな時、その光景を見てかつての日本人の団体旅行を思い出しました。大型バスで観光地を巡り、旅館の大広間でみんな同じものを食べる。これ、昭和40年代の光景の国際版だと。私の目には魅力的なものには映りませんでした。

 同じものを安く大勢で消費するというモデルから、少量多品種高付加価値型に各産業が転換していかなければなりません。円安でコストカットばかりしていては、競争力は落ちる一方になります。

――石破さんは内需主導型の経済の拡大を掲げています。具体的にどのような手段で実現しますか。

 サプライチェーンを国内に戻していくことです。今、マスクや医療用ガウン、トイレやキッチンの備品などは海外で作られています。中国での新型コロナウイルスの感染拡大で輸入が止まり、日本では家が建っても、トイレやキッチンがないので引き渡せないといった問題が起きました。海外でばかり製造するのは、まずい。

 また(過去の歴史の中で)疫病が流行したり、世界の安全保障が不安定になったりすると、しばらく内需型の経済に戻る期間がありました。

 現在もコロナの影響により、内需中心に転換することはやむを得ないことです。日本の人口は、毎年約50万人ずつ減っているとはいえ、それでも1億2700万人いるわけですからね。

消費増税は口の端に上らせるべきではない
減税しても高所得者に恩恵が生まれるのが問題

――日本企業は1990年代ごろから、国内の人件費が高いため、サプライチェーンを海外に移してきた背景があり、今でも国内の人件費の方が割高です。どのようにして国内に回帰させますか。

Photo by T.U.

 消費の旺盛な市場がないと、製造業は日本に戻ってきません。海外に移るのは、人件費が安いということもあるけど、そこに消費があるからですね。今では海外の人件費も上がっているわけで、そこは刹那的に見ない方がいい。

――内需主導型の経済と並行して、「地域分散」を掲げています。

 東京が金融や経済、政治、文化、情報の中心となり、大きな負荷がかかっています。また首都直下型地震は「いつ来るか」という問題であり、「来るか来ないか」という問題ではありません。

 首都直下型地震の経済損失額は100兆円ともいわれます。南海トラフ地震が起きたならば、200兆円とも(試算されています)。どうなっちゃうんでしょうか。どうやってもうけるかという議論ばかりが盛んですが、どうやってリスクを減らすかという議論も必要です。

 今ではリモートワークにより、地方でも東京と遜色ない仕事ができるようになりました。地方の持っている潜在力を引き出し、東京に密集することのリスクを分散する必要があるでしょう。

――消費税率についてはどう考えますか。総裁選の討論会やインタビューの中で、税制全体を見直すべきとの発言もされていますね。

 社会保障の財源として、安定財源である消費税の役割は何一つ変わりないと思っています。では、さらに税率を引き上げるかというと、それもしばらくは口の端に上らせるべきではない。消費税を今以上に引き上げるだけで、社会保障の財源の安定的な確保につながるとは思えません。

 また税率を下げると、多くの消費をする高額所得者の方に恩恵が生まれる可能性がある。消費税を仮に下げた時に、何が起きるのだろうかという想定がないまま感情的な議論をするべきではないと考えています。

 併せて、消費税が社会保障のためというのなら、社会保障の中身を国民的に議論すべきでしょう。

 国民皆保険制度ができたのは昭和30年代で、当時は結核や労災のリスクに対処することが目的でした。ですが今では、がんや生活習慣病、認知症といったリスクが国民の間で普遍化しているわけですから、現在の社会保障制度は誰が考えてもサスティナブルではない。

 例えばがん治療のあり方が今のままでいいのか、正面から問うたことがあったでしょうか?

 自分の親もそうでしたが、末期がん患者の最後の1週間は、本人は苦しいし、周りも苦しく、医者も看護師も苦しい。もう治らないけど、1分1秒でも生きさせるために莫大なお金がかかるのです。この状況は本当に良いのでしょうか。本人は幸せですか?周りの人は幸せですか?こうしたことを議論すべき時期に来ている。

 また、定期検診をちゃんと受けたり、生活習慣病の予防に取り組んでいたりする人には、何らかのインセンティブを与える仕組みも必要でしょう。

法人税率の一律引き下げには反対
地域金融機関の再編は必要だ

――消費税以外の、例えば法人税のあり方についてはどうお考えですか。

 法人税を一律下げることには反対です。企業が努力しようとしまいと、法人税減税の恩恵を受けるのはおかしなことです。

 例えば本社機能を地方に移転するとか、政策目標に合ったインセンティブ型であるべきではないでしょうか。

 法人税が高いと企業が海外に出て行ってしまうといわれますが、企業は市場が海外にあるから日本から出ていくのです。

――総裁の座を争う菅義偉官房長官は、地方銀行の統合・再編が持論です。地域金融機関のあり方や再編について、石破さんはどのように考えていますか。

Photo by T.U.

 地域において寡占による問題が起きないのであれば、独占禁止法によって地域金融機関の再編を妨げるべきだとは思いません。私も銀行(旧三井銀行)にいましたが、彼らはその地域において、メガバンクが果たし得ない役割を持っているわけです。

 ですが経営環境としては、金利がほとんどゼロであり、海外展開も難しく、削減できるコストにも限りがある。一方で、地域住民の利益を確保するため、地銀の経営を安定させるためという目的での統合というのは当然あるべきです。金融庁においても、地域住民の金融サービスが健全に発揮されることを主眼に据えて再編を進めるべきでしょう。

中小企業は再編より後継者のマッチングを
中国の人権弾圧は当然、だめだ

――菅官房長官は中小企業の再編についても必要性を主張しています。

 中小企業の経営者が高齢化し、後継者がいないために倒産ではなく廃業するケースが多いという事実は、数年前から指摘されています。本来、そうした企業の経営者のマッチング機能を担うべきは、日本商工会議所や全国の商工会議所です。

 経済産業省に何かやってくれと言う前に、商工会議所はそうした役割を果たすべきではないでしょうか。

 中小企業が海外に進出しようにも、単独では言葉の壁もあって難しい。地域の商工会議所や商工会の皆さんは一生懸命やっているが、地域の中小企業の力を引き出すためには、「再編、再編」と言うより、まずは後継者の確保やマッチング、海外進出への体制整備が先だと考えます。

――米国と中国の対立が過去にないほど深刻化し、中国国内ではウイグル自治区や香港で深刻な人権弾圧が起きています。日本と中国は尖閣諸島をめぐる問題がある半面、経済的な結びつきは極めて強い状態です。日本は中国とどのように付き合うべきですか。

 中国国内は中間所得層が拡大していますから、そこに合った商品を提供していくことが重要でしょう。

 もちろん香港やウイグル、チベットで行われているような人権弾圧は駄目だ、ということです。

 天安門事件で各国が中国への経済支援を止めた後、真っ先に再開したのが日本でした。現在の中国の豊かさを実現させる役割を、日本が果たしたといわれています。

 だからこそ、人権弾圧や一国二制度の否定という問題で日本が譲ってまで、中国への経済支援を続ける必要はありません。もはや経済支援の必要もないのでしょうが、われわれはあくまで、中国の市場に合った商品を提供していけばよいのではないでしょうか。

Photo by T.U.

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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