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なぜイノラボと東大がタッグを組むのか〈後編〉

私たちが解決するのは「2030年の日本」に潜む課題だ

文●石井英男

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この後編では、「イノラボ×東大IEDP」プロジェクトの進め方と現在進行中のアイデアを大公開!

前編はこちら

いかにコラボするのか? 現在選定中のアイデアは?

 2020年4月から、イノラボと東京大学がタッグを組み、「社会実験構想学」の共同研究が進められている。前回は、イノラボ、そして共同研究の相手となる環境デザイン統合教育プログラム(IEDP:Integrated Environmental Design Program)とは何か、また、なぜイノラボと東京大学がタッグを組むことになったのか、その経緯と共同プロジェクトへの期待などを、プロジェクトの中心人物である、電通国際情報サービス(ISID:Information Services International-Dentsu, Ltd.)の木村平氏と東京大学大学院新領域創成科学研究科の寺田徹准教授に、語っていただいた。

 この後編では、共同プロジェクトの進め方や、学生から提案されたアイデアなどを紹介する。

8ヵ月を3つのステップに分けて、1つのプロジェクトを進める

―― 今回のイノラボ×東大IEDPコラボプロジェクトでは、どのような流れで研究を進めていく予定なのでしょうか?

寺田 進め方は、下の図の通りです。IEDPにスタジオは8つありますが、そのすべてが毎年イノラボとコラボするというのは、あまり現実的ではないので、年度ごとにコラボするスタジオを決めて、進めていきます。

イノラボ×東大IEDPコラボプロジェクトの進め方。3つのステップに分けて研究を進めていく

 大学の暦は夏学期(4月~9月)と冬学期(10月~3月)に分かれていて、夏学期でのスタジオの活動は4月から7月まで。同じく冬学期は10月から1月です。この図ですとステップ2にあたります。夏学期と冬学期、それぞれ1つだけスタジオを決めて、そのスタジオと集中的にコラボするという形にしています。

 一番大事なのは図のステップ1、つまりスタジオが始まる前の打ち合わせです。まずイノラボと事前に話し合い、共同でテーマを決めた上で課題を学生に提示します。イノラボのアイデアも入った、学生の創造性が刺激されるような課題書を作り、その課題を4月および10月の冒頭に学生に提示します。

 学生はその課題に沿って提案を作りますが、1人でこなすスタジオもあれば、複数のグループを作ってグループワークでこなすスタジオもあります。それはスタジオを受講する人数や、そのスタジオのやろうとしているテーマによって異なります。

 ステップ2でも、インプットの機会としてイノラボにも教育にご参加いただきました。今はちょうど7月までのステップ2が終わった段階です。木村さんもおっしゃっていましたけれど、ここまでは大学の教育という枠の中なので、イノラボも関わり方が難しいとは思います。そこも含めて、どんな進め方がよいのか模索中ですね。

 そしてステップ3は実装です。9月から10月を予定しています。

 なお、現在(2020年夏学期)コラボしているスタジオは、今年新設された「情報環境デザインスタジオ」です。その名の通り、情報技術に関するスタジオで、学生からの提案が10くらい出ていますが、提案すべてを実装できるわけではありませんので、世の中にアピールできて、かつ実装の目処が立ちそうな提案を1~2つ選び、イノラボと実装していきます。この段階では教育を離れて、共同研究の色合いが強くなりますので、我々がイノラボに学びながら進めていきます。主従が逆転する感じですね。

 以上の流れで進める予定です。ステップ3が始まると、具体的な成果が出てくることになります。

ISIDの木村平氏(写真左)と東京大学大学院新領域創成科学研究科の寺田徹准教授(写真右)にお話を伺った

学生が概念実証に参加できる意義は大きい

―― このステップ3というのは、よくAIやロボット分野などでいわれる、PoC(Proof of Concept:概念実証)とほぼ同じものと考えてよいでしょうか?

木村 はい、その通りです。実証実験(PoC)になりまして、必要な期間は案件によってそれぞれです。

―― PoCは、さまざまな企業がトライしています。その理由は、うまくいけば本格的にビジネスとして展開するからだと思います。それを学生の手で執り行うチャンスがある、それは素晴らしいですね。

木村 僕らも、イノラボがやりましたというよりも、東大IEDPの学生と一緒になってやってきましたというのが、PR効果もあると思います。

プロジェクトの進行をすべて記録することで、翌年以降に活かしていく

寺田 実際に共同研究を進めていく、モノを動かしていくという話ですが、学術的には、それをすべて記録することがすごく大事だと思っています。

 これまでのプロトタイプや実証実験系は、終わったらそれでおしまい、みたいなところが多かったと思いますが、このプロジェクトではステップ1からずっと、いつ話し合いをして、誰が参加して、何をどんなふうに議論したか……など、すべて記録しています。スタジオでイノラボがこんなインプットをしたら、学生の提案がこう変わったとか、そういうことも含めてです。

 そうすると、例えば情報環境デザインスタジオから10くらい提案が出たとして、最終的に最後のステップ3まで進んだ提案とそうじゃない提案の差はなんだったのか? スタジオではすごくよかったけれど、プロトタイプのところではあまりよくなかった、その理由はなにか? うまくいったのであれば、成功要因はなんだろうか? このようなノウハウを積み上げて体系化することにより、新しい学術分野としての「社会実験構想学」をつくっていきたいのです。

―― 小中学校の教育の話なので、ターゲットとしては違うと思いますが、最近、エビデンスに基づく教育が注目されていて、ベテランの先生はこれまでの経験に基づいて適切な教え方ができますが、それがなかなか広がらないというか、教員の質に差があるという。そういうのをデータを採っていくことで全体のレベルを上げようという話があります。それに近い感じですね。

寺田 すごく近いと思います。このスタジオも「学生が卒業したら、またゼロからやり直し」だともったいない。今回、活動を記録することにより、最終的なアウトプットだけでなく、どんな苦労があって最終的な提案に至ったのかまで辿れるようになるので、次年度の学生はそれだけでも得していると思います。学生は代替わりしても、学生の経験はちゃんと継承していきたいです。社会実験構想学のなかでそういったノウハウを蓄積していき、教育的な財産にもしたいと思っています。

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