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「ビールが体にいい」という新説の科学的な理由とは

2020年08月15日 06時00分更新

文● 川口友万(ダイヤモンド・オンライン

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最近の研究でビールは太るどころかやせる酒ではないのかと考えられている(写真はイメージです) Photo:PIXTA

飲むと太る、痛風になる、夜が弱くなる、脳が縮むなどさんざんな言われ方をしてきたビール。だが、最新の研究ではアンチエイジング効果に優れた性質があることも判明している。新型コロナによるマスク着用で夏バテリスクが高まる中、キンキンに冷えたビールでこの夏を乗り切ってはいかがだろうか。(サイエンスライター 川口友万)

誤解が多い
ビール腹の意味

 ポッコリ突き出た中年男性のおなか、「酒腹」でも「サワー腹」でもよさそうなものなのに、誰が名付けたか、「ビール腹」。

 元々はビール樽のような突き出たおなかの意味だったが、いつの間にか、ビールを飲むと太ってビール腹になると言われるようになった。

 ビールを飲むと太るというのは定説になっている。

 ところが、最近の研究でビールは太るどころかやせる酒ではないのかと考えられているのだ。

 ビールは基本的に麦とホップからできている。ビールの苦みや細かい泡を生み出し、ビール特有の香りを醸し出すのはホップの役割だ。そしてこのホップに素晴らしい効能があることが判明している。

ビールを飲むと
太りにくい?

 ヨーロッパではホップは民間薬として利用されてきた歴史があり、ホップにのみ存在が確認されている生理活性物質からは抗酸化活性やエストロゲン様活性が見つかっている。そのため、「更年期障害、メタボリックシンドローム、インシュリン抵抗性II型糖尿病、不眠、骨粗鬆症などに改善効果がある」として研究が進んでいるのだ。

 ホップに含まれるキサントフモールには抗肥満作用があるらしい。

 肥満やII型糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病は脂質の代謝が壊れてしまうことで起きるのだそうだ。東京大学の研究グループは脂質の合成量を減らす(=脂肪酸合成酵素遺伝子の活性化を抑える)食品を探し、ホップに含まれるキサントフモールにその機能を発見した。

 マウスに「0.2%または0.4%のキサントフモールを混合した高脂肪食」を7週間食べさせたところ、「コントロール群と比較して体重、体脂肪量、肝臓重量、肝臓中脂質などが有意に低下」したという(東京大学大学院農学生命科学研究科の論文「ホップに含まれるフラボノイド「キサントフモール」による抗肥満効果の分子機構を解明」https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2015/20150721-1.html)。

 つまり、ホップにより脂肪酸やコレステロールの合成が抑えられ、太りにくくなるというのだ。

 最近は脂肪として蓄積されにくい「エンプティカロリー」として蒸留酒が持てはやされたりしているが、アルコールはどんな飲料であってもグラム当たり約7キロカロリー。炭水化物がグラム当たり4キロカロリー、脂質が9キロカロリーなので、蒸留酒だろうがビールだろうが、摂取カロリーが消費カロリーを上回れば、太るに決まっている。

 エンプティカロリーはアルコール以外にカロリーになる成分が含まれていないというだけのこと。ハイボールはいくら飲んでも太らないなんて、そんなことは夢物語である。

 しかしビールには脂肪の合成を抑えるキサントフモールが含まれている。酒は飲みたいが太りたくないというのなら、ビールを選ぶのが賢明なのだ。

アルコール飲料では
ビールのプリン体が突出

 痛風になるとものすごく痛いらしい。私は、なったことはないが、痛風で苦しんでいた友人によれば、皮膚を内側から無数の針で刺すように痛いそうである。そして、この友人は医者から肉とビールを禁止された。

 痛風の原因物質はプリン体だ。うま味成分には核酸由来(かつお節のうま味であるイノシン酸など)のものがあり、ここにプリン体が含まれている。肉や魚でうま味の多い食べ物は基本的にプリン体が多い。レバーや白子、魚卵あたりが危険なほどに多く、肉類がそれに続く。

 プリン体は分解され、尿酸となって排泄される。しかし尿酸が多すぎると排泄が間に合わず、血液中にたまった状態になる。これも限界を超えると尿酸が結晶になって関節部分にへばりつく。運動などの衝撃で尿酸の結晶が関節からはがれると、炎症が起き、これが痛いのだ。

 痛風の原因物質であるプリン体の量を減らせば、痛風の炎症箇所も減るという理屈で、肉類や魚卵、納豆や豆腐などの大豆製品(プリン体が多い)を禁じる医師は多い。

 だが、なぜビールも禁止されるのだろうか。

 それはアルコール飲料の中でビールのプリン体が飛びぬけて多いからだ。

 ビール会社のサイトによれば、ビール(100ml当たり)のプリン体はラガービールで5~10mg。ビール中ビン1本で25~50mgぐらい。ウイスキーのような蒸留酒にはほぼ含まれず、ワインで0.4mg、日本酒が1.2mg。ビールのプリン体の量は、けた違いである。

痛風の原因は
つまみの摂取

 では、つまみとなる食べ物のプリン体はどれぐらいなのか。

 鶏レバーやあん肝、かつお節などプリン体の多い食べ物は100グラム当たり300mg以上、豚レバーや牛レバー、カツオやイワシが同200~300mg、豚ロースや牛ロースなど肉類が50~100mgなど、いずれもプリン体はビールよりも格段に多い。

 ビールだけであれば痛風にならない人でも、つまみと一緒に摂取することで、痛風リスクは一気に高まるわけだ。

 また、ビールのみならず、アルコールそのものにも痛風を悪化させる原因があることも知っておくべきだろう。

 アルコールを飲むと体がポカポカと熱くなる。体で熱が作られるからだ。この時、代謝の過程でプリン体が大量に出る。プリン体を排泄できれば問題ないが、アルコールを飲むと排出機能が落ちてしまう。

『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』(日本痛風・核酸代謝学会)には、「血清尿酸値への影響は、日本酒1合、またはビール500ml、またはウイスキー60ml程度より現れる」とある(『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』(日本痛風・核酸代謝学会))

 痛風が嫌なら、ほろ酔いぐらいでやめておいた方がいい。そして必ず水も一緒に飲み、プリン体を排出すること。「ビールをチェイサーにウイスキーを飲み、つまみはスモークレバー」などという人は痛風一直線である。

アルツハイマー防止や
放射能防護の可能性も

 アルツハイマーを食品成分で防止したり改善したりすることはできないのか。

 世界中で研究者がそんな食べ物を探しているが、キリンビールのキリン株式会社R&D本部健康技術研究所が2015年にカマンベールチーズから、2016年にホップ由来のビールの苦み成分から、認知力の改善に有効な物質を発見した。

 海外の研究に発酵乳製品(チーズやヨーグルトなど)を食べる習慣のある人は認知症を発症しにくいという研究があり、同研究所で検証したところ、カマンベールチーズのβラクトリンに記憶改善効果が見られたという。

 βラクトリンを成人に12週間投与し、飲まなかった人たちと認知能力のテスト結果を比較すると正解数に2倍以上もの開きが出た。カマンベールチーズを食べると認知症が抑えられるのかもしれない。

 一方、ビールに含まれる認知力改善成分は苦み成分のイソα酸だ。ホップは苦いためにそのまま食用にはできない。同研究所ではホップを熟成させることで苦みを抑えることに成功、できた熟成ホップのエキスを飲んだ成人は思い出す力が上がり、物忘れが明らかに減ったという。

 単純にビールを飲めばいいという話ではないが、ビールの苦みがアルツハイマー病を治すかもしれないというのは興味深い話である。

 キリンホールディングスと電通は熟成ホップを使った商品開発のため、合弁会社INHOPを作った。近いうちに認知症を抑制する食品が販売されることだろう。

 ビールの効能はほかにもいろいろあり、東日本大震災の時には放射能による被曝(ひばく)を防ぐという話まで出た。

 これは放射線医学研究所と東京理科大の合同研究で、ビールを飲んで放射線を浴びると、染色体異常の発生率が最大34%も抑えられるのだそうだ。マウスに与えたところ、全身照射による骨髄死を抑制できたという(ビール成分に最大34%の放射線防護効果を実証)。

 肥満やアルツハイマーの抑制から、放射線防護まで、ビールにはさまざまな可能性がある。

 飲みすぎには注意しつつ、この夏をビールで乗り切ってはいかがだろうか。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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