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「企業が知りたいのは天気予報ではなく気象のビジネス影響」ClimaCellの戦略

“Weather of Things”やAI技術で気象テクノロジー基盤構築、SBエナジーが出資し国内展開スタート

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 「70%のビジネスは『天候』に何らかの影響を受けている。しかし、ここでの一番の不満は、気象データが正確さに欠けており、何かビジネスアクションが起こせるようなデータが入手できないことだ」(ClimaCell ナダブ・イタ氏)

 米ClimaCell(クライマセル)は、グローバルに収集/解析する独自のリアルタイム気象データに基づき、航空や運輸、建設、エネルギー、農業、保険など、幅広い業種の企業に対して、業務への具体的な影響やアクションプランを示す“気象インサイト”を提供するスタートアップ企業だ。

ClimaCell(クライマセル)のWebサイト(climacell.jp)

 2019年4月にはソフトバンクグループの自然エネルギー(再生可能エネルギー)事業者であるSBエナジーが出資しており、今年に入ってAPACオフィス開設(シンガポール)や日本法人を立ち上げるなど、日本市場へのアプローチも加速させはじめている。

 今回は、ClimaCellのAPAC担当 SVP&マネージングディレクターのナダブ・イタ氏、SBエナジー 戦略事業本部 IoT事業部 部長の林 雄也氏に、ClimaCellが提供する情報サービスのユニークさや狙い、さらにSBエナジーが出資した理由などについて聞いた。

ClimaCell SVP & Managing Director, APACのナダブ・イタ(Nadav Itach)氏、SBエナジー 戦略事業本部 IoT事業部 部長の林 雄也氏

「気象テクノロジープラットフォームのリーダー」を目指すClimaCell

 ClimaCellは2016年に設立された、グローバルな気象情報ビジネスのスタートアップである。本社は米国ボストン、開発拠点はイスラエルのテルアビブにあり、気象関連の研究拠点も米国コロラド州に持つ。APACではシンガポールに統括オフィスがあり、インド、オーストラリア、そして日本にもオフィスを構える。

 イタ氏は、ClimaCellは「グローバルな気象情報会社」であり、そのミッションは「人々、組織、そしてコミュニティが、気象に関する適切な情報とインサイト(洞察)を得て、自らの課題を解決できるように支援すること」だと説明する。

 顧客企業には、ウーバーやユナイテッド航空、デルタ航空、フォード、USTA(全米オープンテニス)、ニューイングランド・ペイトリオッツ(NFLチーム)などが名を連ねる。そしてSBエナジーも顧客企業の1社だ。

2016年の設立から順調にビジネスとサービスを拡大してきた

 ただしClimaCellのビジネスモデルは、古くからある天気予報サービスや、ハイパーローカルな気象データ(狭いエリアのピンポイント気象データ)を提供するだけのサービスとは違うという。イタ氏は、現状の気象情報サービスと企業ビジネスの関係が抱える課題を冒頭のようにコメントしたうえで、次のように続けた。

 「ある調査によると、天候の変わりやすさとそのビジネス影響は、企業CEOの懸念事項トップ5に入るほど重視されている。ただし、世界の85%の地域では、信頼できるリアルタイム気象データや気象予測データが入手できない。さらに、気象現象はとても複雑なものであるため、たとえ正確な気象データ/気象予測データが入手できたとしても、90%の人々はそれをどう解釈し、どうアクションすべきか判断できない」(イタ氏)

気象データはしばしば正確さに欠けるうえ、たとえ正確なデータを手に入れても「90%の人は何をすべきかわからない」のが実態だ

 こうした背景があるため、従来の企業向け気象情報サービスはコンサルタントをベースとしたサービス、つまり専門家が介在して気象情報を解釈し、どうアクションすべきかをアドバイスするようなサービスだった。ClimaCellではこれを、独自のプラットフォーム上に構築されたSaaSやAPIに置き換えることを狙っていると、イタ氏は説明する。

 「われわれはマルチバーティカルな(多くの業界に対応する)気象テクノロジープラットフォームのリーダーになることを目指している。SaaSやAPIとして提供することで、さまざまな業界の企業が天候の変化にすばやく対応できるようにしていく」(イタ氏)

農業、運輸、エネルギー、建設、スポーツ、航空など、幅広い業界に対応する“気象テクノロジープラットフォーム”を目指す

世界中のモノを気象センサーにする“Weather of Things”と独自AIモデル

 ClimaCellの気象情報プラットフォームには、「データポイント」「モデル」「プロダクト」という大きく3つの特徴があるという。「われわれは、この3つすべてでイノベーションを起こしている」とイタ氏は胸を張る。

 まず「データポイント」、つまりサービスの基礎となるデータ収集ソースだ。イタ氏は、従来の気象情報サービスでは旧来からのデータポイント、具体的には気象衛星や気象観測所から得られるデータだけを使っていた。だがClimaCellはそれだけでなく、世界中のさまざまなモノから得られるデータも組み合わせ、利用する。同社ではこの仕組みを、IoT(Internet of Things)になぞらえて“Weather of Things”と呼んでいる。

 「現在では、たとえばコネクテッドカーやドローン、航空機、船舶、スマートフォン、さらに携帯基地局といった、世界中にあるさまざまなモノが“センサー”となり、そのデータはインターネット経由で収集することができる。われわれはハードウェアの会社ではないので、そうした既存のセンサーをうまく使い、世界のあらゆる地点から大量のデータを収集するアプローチをとっている」(イタ氏)

 こうしてプラットフォームに収集された多様なデータを使って気象変化を予測し、さらに各業界のビジネス影響やインサイトをリアルタイムに示すためには、AI予測を実行する多数の「モデル」が必要である。こうしたモデルはすべてClimaCell社内で独自開発しており、改善や実装を迅速に繰り返すことで予測精度を継続的に向上させることができるという。

ClimaCellが提供する気象情報データと旧来の気象情報サービスとの比較(ClimaCellサイトより)。より高解像度なエリア/時間での情報を提供している

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