このページの本文へ

コロナ感染急拡大、緊急事態宣言を「再発出」する条件

2020年08月12日 06時00分更新

文● 熊野英生(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
Photo:PIXTA

新規感染者数が過去最高
政府が打つべき手はないのか

 首都圏をはじめ大阪、愛知、福岡など多くの自治体で新型コロナウイルスの新規感染者数が過去最高を更新している。

 全国一斉の緊急事態宣言が出された4~5月と比べて、重症化している人数は抑えられていて、現在が「緊急事態」だといえるかどうかは判断しかねるが、感染経路が不明という人の割合も高くなっていて、このままでは経路の見えない感染者数が積み上がっていき、再び緊急事態宣言に追い込まれる可能性も否定できない。

 政府内では、緊急事態宣言を再発出すれば、感染抑制や一方で経済への打撃がどうなるのかを内々にシミュレーションしていると推察する。

 もしも、そうであれば、具体的に検討した結果を公表し、それなりの説明責任を果たすことが重要だ。

営業自粛や移動制限するなら
感染抑制の費用対効果を示す必要

 感染拡大を阻止するために従来いくつかの制限手段を政府・自治体は持っている。

 例えば、下記のようなことだ。

 集会制限…行事の収容人数などを絞る
 営業制限…店舗の夜の営業時間を短縮
 業種制限…ナイトクラブやバー、レストランの休業
 出勤制限…企業の出勤率を下げてテレワークに移行
 移動制限…県と県をまたいだ移動の制限
 外出制限…食料品以外の買い物を除いた不要不急の外出の制限

 ここでは経済活動への痛みが少ない順序で挙げてみたが、政府・自治体はこれらの行動制限についてそれぞれの費用対効果をどう見ているのだろうか。

 移動や経済活動を制限するのであれば、それで感染防止のためにどの制限手段がどのくらい効果があるのかを示すことは、説明責任のひとつだと思う。

 4~5月の緊急事態宣言のときは、かなり広範囲で一律に近い形で各種の制限がかかった。それが巨大な経済損失を生じさせた。

 政府は今のところ、全国一律の緊急事態宣言発出には慎重姿勢だが、国民からも当時のような経済的打撃の大きい措置を採るのは反対だという声が寄せられていることがあるのだと思う。

 それなら、その教訓として、政府・自治体は具体的な制限手段を掲示して、その費用対効果の順位を見せながら、選択する手段を絞った方がよい。

 それは、再度の緊急事態宣言を出すことになっても、政府・自治体はあくまで経済活動へのダメージコントロールを考えながらするということの説明責任を果たすことにもなる。

何度も繰り返すのでは
政府への信頼が低下

 再発出をする際のもうひとつの重要なポイントは、再度の緊急事態宣言を出すにしても、その次の緊急事態宣言は何とか回避できると人々に納得してもらうようにすることだ。

 できれば、「第3波」は起きないという展望を示してほしい。

 多くの人は、感染リスクと経済再開がトレード・オフの関係にあると思っている。

 4~5月の緊急事態宣言によって感染者数が減ったが、6月以降、経済活動の再開によって不可避的に感染拡大を招いてしまったと考えている。

 したがって緊急事態宣言を再発出しても、多くの人は数カ月後にまた経済活動が再開されれば再び感染が拡大し、緊急事態宣言はその場しのぎにすぎないと考えてしまう可能性がある。

 それでは、外出や営業の自粛を求めたところで徹底せず、結果的には緊急事態宣言の効果は上がらず政府に対する信頼を低下させる。

PCR検査の拡充は
感染経路が追跡できる範囲で

 PCR検査についても同じことがいえる。

 政府の感染阻止の基本戦略は、「検査・追跡・隔離」を地道に行って、感染者から新たな感染が起きないように管理しながら、ワクチンの開発・普及を待つというロードマップで考えているのだろう。

 筆者は、これまで政府がPCR検査の能力を増加させてきたことは評価する。当初は、目詰まりが起きていたが、最近は徐々に改善してきているようだ。

 ただ、検査能力は高まっても、感染リスクの低下にはどのくらい成果を発揮できたかは未知数のところがある。

 6月中旬以降に、東京都では新規感染者が増え始めたが、この頃までは感染経路をうまく追跡できていたのかもしれないが、7~8月の感染者数の急増を見ると、感染経路が追えなくなり、「検査・追跡・隔離」の作戦がうまく行かなくなってきたと考えられる。

 そこは、経済再開のペースが速すぎたのだろう。

 感染者の追跡ができていれば、次に検査をすべき対象者が把握できて感染リスクの高い人に見当をつけて検査ができるから、これは先々の感染リスクを封じるための予防的対応になる。

 こうした形で予防的検査が次々に実施されれば、いずれか新規感染者数は減っていくはずだ。

 逆に、最近のように感染経路が見えなくなると、検査は必ずしも予防的なものとはいえなくなる。モグラたたきのように感染が発見された周辺部分を感染が広がってから、後追いで調べるような対応になってしまう。

 この失敗を教訓にして、緊急事態宣言後、次の経済再開をしようというときには感染者の追跡がもっとしっかりできるような工夫をしなくてはいけない。

 できれば、その工夫も事前に公開され、きちんと説明されている方がよい。

「検査・追跡・隔離」の体制のもとで感染経路が見えなくならないようにすることを重視すれば、状況によって経済再開はもっと段階的にゆっくりと実行して、という判断もできるだろう。

消費減少の打撃緩和策必要
回復への期待感、どうつなぎ留めるか

 4~5月の緊急事態宣言の教訓として、消費マインドが異例の状態になり、消費が冷え込んだことがある。

 所得がそれほど減っていない人たちまでが、今後、雇用や所得が悪化することを見越こして、消費を控えたためだ。

 消費性向は過去に例を見ないほどに低下した。国民1人10万円の特別定額給付金も、消費には回らずに貯蓄としてため込まれた面がある。

 緊急事態宣言を再発出する場合には、消費減少などの経済の打撃を緩和する対策がやはり必要だ。

 人と人との接触を極力8割削減するという前回の方針を繰り返せば、観光や飲食、レジャーなどのサービス産業は立ち直れないくらいに疲弊するだろう。

 政府の観光などの支援策「GoToキャンペーン」は世論から激しく批判されているが、再び緊急事態宣言を出すならサービス産業の需要刺激策を探らないで、乗り切れるとは思えない。

 観光業の支援の切り札は、2021年夏に延期された東京五輪の開催である。ところが、政府がまた緊急事態宣言に踏み切ると、予定されていた開催もいよいよ怪しくなってしまう。

 サービス業に対して有効な需要刺激策があるのかどうか、知恵の出しどころだが、家電、自動車の販売に対して、かつてのエコポイント、エコカー減税のような刺激策を打つという考え方はできる。

 巣ごもり消費で、一部家電やゲーム機、パソコンなどは追い風が吹いているから、刺激策は不要という見方もあるが、なんらかの対策が必要だろう。

 需要対策が何も打てないとなると、観光業をはじめとするサービス事業者に対しては、休業給付金のような支援を追加しなくてはいけない。しかし、100万~200万円の金額の給付金では、経営悪化のダメージを穴埋めすることはできないだろう。

 仮に緊急事態宣言の再発出で感染拡大を抑えることに重点を置くにしても、人々の将来の景気回復の期待感を何とかつなぎ留めることも大きな課題である。

(第一生命経済研究所首席エコノミスト 熊野英生)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ