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「7日間ブックカバーチャレンジ」で露呈したルール重視の日本人のマジメさ

2020年07月23日 06時00分更新

文● まつい きみこ(ダイヤモンド・オンライン

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Photo : PIXTA

「読書文化の普及に貢献するために、1週間1日1冊、説明ナシで好きな本の表紙画像を、SNSにアップ。その際毎日1人の友達をタグ付けしてこのチャレンジへ招待する」というルールで、コロナ禍の外出自粛時にSNSを本で彩った「7日間ブックカバーチャレンジ」。そこには、“楽しむよりもルールが大事”な真面目過ぎる日本人の姿が見えた。

SNSに本の表紙があふれた
外出自粛期間

 コロナ禍の外出自粛中にはやったことのひとつに、SNS上で行う「7日間ブックカバーチャレンジ」というゲームがあった。今もまだ続けている人がいるので、「あった」というのは正しくないかもしれないが、3月から5月にかけてフェイスブックやツイッターに「本の表紙」がやたら目についた頃と比べれば、とりあえず流行は去ったといってもよいだろう。

 投稿のルールについては人によって多少、内容に違いが見られるが「読書文化の普及に貢献するために、1週間1日1冊、説明ナシで好きな本の表紙画像を、SNSにアップ。その際毎日1人の友達をタグ付けしてこのチャレンジへ招待する」が基本となっている。

 外出自粛で人とのコミュニケーションがオンラインに偏っていた中、紙のにおいを感じさせるゲームは、とても健全だと思ったが、「チェーンメールだ」「勝手にチャレンジを押し付けられて圧を感じる!」というアンチ派も多く見受けられた。

 ただ、あれだけ本の表紙がSNSの画面でにぎわっていたのだから、多くの人が共感したということだろう。このゲームの良しあしは、SNSをどう使うかといった世代ごとの価値観によって大きく違うし、それぞれのスタンスで判断を下してもらえればよいと思う。

 それよりも気になったのは、「時間があるときは読書!」という、一応司書資格を持つ私からすれは、閉塞感漂うコロナ禍でタイミングばっちりの企画を仕掛けたのは誰だろう?ということだった。

いったい誰が始めたのか
調査を始めてみる

「7日間ブックカバーチャレンジ」や類似ワードでサイト検索をしてみたら、「参加する際に気をつけたいこと」「チェーンメールはダメ」「出所が分からないものはシェアしない!」「勝手なタグ付けはプライバシー違反」というSNSのマナー論ばかりひっかかるが、#を付けた本の表紙の投稿は3月頃から始まり4月に入って増えてくる。インスタでは4万件以上、ツイッター、フェイスブックには無限の投稿があって、消えてしまうものもあるため誰が最初かを特定することは困難だった。

 そもそも、外出自粛の息苦しさを何とか楽しくしようという発想は海外のほうが強かったりする。ベランダで歌うイタリア人、家をレストランに見立てて夕食を楽しむアメリカ人、ヘアーモブといって散髪に行けないモジャモジャ頭をSNSで自慢し合うイギリス人、彼らの陽気な姿を遠い日本のスマホでのぞき元気をもらっていたくらいだ。「7日間ブックチャレンジ」も海外から日本へ流れてきた可能性は高い。そこで検索ワードを英語の「Seven-Day Book Cover Challenge」にしてみた。

そもそもの始まりは
コロナとは無関係だった!

 予想通り、海外の投稿が何件もひっかかってきた。ニューヨークタイムズ紙のブックコラム は4月5日付で「7日間ブックカバーチャレンジ」を取り上げ「これは、1週間毎日ソーシャルメディアのプラットフォームで本の表紙写真を投稿する無害なゲームです」と紹介していた。

 やはり、「外出自粛期間を家で楽しもうという欧米人の発想だったのだ…」と、投稿の日付に再度目をやると“Apr 5, 2019”とある。2019年?まだコロナの存在が確認されていない年ではないか。ということは、コロナ禍のロックダウンでゲームが始まったのではないということで、さらに調べを進めると、海外では2017年頃からSNSに多くの投稿が行われていた。

調べてダメなら
海外のブロガーに聞いてみよう

 こうなると、もう誰が始めたのかをサイト検索だけで追跡することは不可能である。そこで、検索トップに出る、「7日間ブックカバーチャレンジ」のルールを具体的に上げた2018年7月19日付のブログ「Cindy Goes Beyond」 を書いた作家のシンディ・ローダーデール・ムーアさんにメールで伺ってみることにした。彼女も友人からゲームを引き継いだようなのだが、何か情報がつかめるかもしれない。だが、彼女からは「こんな2年も前のブログへ日本から問い合わせが入ることに驚いたよ…」といった様子で、「友人からの誘いで、誰が始めたのか私もよく分からない」という返事が来た。

 他にも、ツイッターやインスタで見つけた2017年前後の海外の投稿者にメッセージを送ってみたが、誰もが自分が発案者ではないと言う。

読書活動が盛んな、オークランドのウエストレイクガールズハイスクールでは、司書が1冊30秒のコメント付きで20冊の本を並べ、気に入った表紙の本を生徒が借りる授業が行われていた

 そんなとき、カナダ在住の司書仲間が、子どもに本の表紙だけを見せて読みたい本を選ばせ、それが面白ければ、今度は友人にその本を薦めるというBOOKWEEKが欧米の学校教育にあることを教えてくれた。そういえば、以前ニュージーランドの学校図書館を訪問したときにも、似たような授業を見学した記憶がある。それを体験した子どもたちがSNSのゲームとして、広げていたことも十分に考えられる。

 結局、本の表紙を毎日SNSにアップするのは、ずいぶんと前から始まっていて、それを誰かが1週間限定で、他人にバトンタッチするゲームにしたのが、おそらく2016年頃だろう、というところで調査を止めた。こんな状況では自分が考えたと言う人が現れても、その信ぴょう性を確かめる手段がないと思ったからだ。

本の紹介を楽しむよりも
ルールが大切な日本人

 日本では、コロナの巣ごもりで盛り上がった、「7日間ブックカバーチャレンジ」。海外でも、ロックダウン中に投稿が多少増えたようだが、スペインで2018年2月、インスタに投稿をしていたPaulaさんによれば、「7日間ブックカバーチャレンジ」のブームはすでに過ぎていたという。

 もともとブックトークが盛んな欧米では、好きな本を読んで人に紹介するのは当たり前の文化なのかもしれない。それを公に広くレビューできるSNSは、承認欲求を満たす最高に楽しいツールで、スマホの普及に合わせて早々にはやったと想像できる。

 そういえば、「7日間ブックカバーチャレンジ」の目的という「読書文化の普及に貢献するため」は、日本独自のコメントだ。お気に入りの本を人に薦める楽しみよりも、目的やルールにこだわってしまう真面目過ぎる日本人…。しかし、一方で「そんなのあったよね」の一過性で終わってしまうのも日本人。根付かせるところまで上手にできないのは、これに限ったことではない。

オークランドのピジョンマウンテン小学校の図書館でおススメの本を手にする子どもたち。30カ国以上の図書館を視察しているが、日本の子どもがたまに言う「好きな本はない!」という発言は海外では一度も聞いたことがない

ちなみに、アメリカで「BOOK COVER CHALENGE」というと、普通は子どもが気に入った本の表紙を自分で好きに描いてみるという、本を身近に感じさせる教育プログラムのことで、コンテストも行われていると司書仲間に教えてもらった。これはとても楽しそうだが、日本では「著作権問題」や「作家への配慮」と、またまた楽しさよりもルールにこだわってしまうのだろう。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾(R))

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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