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「生産品質」「改善事例」から「雑談」まで、多数のチャンネルを活用して情報共有を促す

旭鉄工が語る、製造業のカイゼン現場におけるSlackの活用方法

2020年07月07日 07時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 Slack Japanが2020年6月24日に開催したオンラインカンファレンス「Slack Workstyle Innovation Day Online」では、愛知県碧南市に本社を構える中堅自動車部品会社、旭鉄工の社長を務める木村哲也氏が講演を行った。

 旭鉄工はトヨタ自動車向けのエンジンやミッションなど、さまざまな種類の自動車部品を製造する年商約150億円、従業員数約450名のメーカーだ。木村氏はトヨタの技術部に18年間勤務し、車両の開発を担当。その後生産調査部で3年間トヨタ生産方式の修得と実践を行ない、2013年に旭鉄工に移籍した。

旭鉄工/i Smart Technologies 代表取締役社長 兼 CEOの木村哲也氏。「旭鉄工カイゼン活動でのIoTとslackの活用」と題した講演を行った

IoT活用で大幅な生産性向上、さらにSlackとの連携活用にもチャレンジ

 旭鉄工は、IoTを活用して生産性向上を果たしたメーカーとして知られている。2018年までに、延べ100の製造ラインについてIoTによるカイゼン活動を行い、平均で43%、最も改善効果が高かったラインでは280%(3.8倍)もの生産性向上を実現している。この取り組みにより、同社の売上高に対する労務費の割合は年々下げ続け、2020年は2015年との比較で月あたり2500万円、年間3億円もの労務費削減に成功している。

旭鉄工ではIoT活用により製造ラインの生産性改善を果たしてきた

 このようなめざましい効果は、旭鉄工が自社開発した「iXacs(アイザックス)」というモニタリングサービスによるところが大きい。生産設備に取り付けたセンサーから無線で工場内の受信機にデータを飛ばし、それをAWSクラウドにアップロードする。これにより、生産設備の稼働状況をPCやスマートフォンでリアルタイムに確認することができる。

 iXacsで確認できる項目は、稼働状況、生産個数、停止時間、サイクルタイムなどだ。生産状況を一覧で確認できたり、見やすいグラフにすることができる。

旭鉄工が自社開発した「iXacs」の概要。生産設備に取り付けたセンサーのデータを可視化し、詳細な稼働状況の把握を可能にする

 そして、IoTとslackの連携も実現している。工場内には「Amazon Alexa」のスマートスピーカーが設置してあり、社員が「社長を呼び出して」と呼びかけると、木村氏のスマートウォッチに「〇〇から呼び出しです」とSlackのメンションメッセージが表示される。

 もちろんSlackの活用はこれだけではない。生産品質に関する情報を集約するためのSlackチャンネルを設置し、社員が日報に書く不具合情報を共有して、対策にあたることができる。このチャンネルの情報に応じて、社内の掲示ボードは前日の品質が良かった場合は緑色のランプで、逆に悪かったときは赤色のランプで縁取りがなされ、赤い警告ならば危機感が増す。単なる可視化ではなく、さまざまな工夫を施した仕掛けを作って、日々の品質改善にあたっている。

生産品質についての社内情報をSlackチャンネルで集約。前日の結果に応じて現場のボードを緑/赤に光らせ、現場従業員への注意喚起を図る

「IoTで可視化」だけではカイゼンにつながらない、“3匹のサル”とは

 だが、現場の状況を「可視化しただけ」で改善につなげるのは難しいという。木村氏は企業のカイゼンを阻む要因を「3匹のサル」にたとえた。

 この3匹のサルとは、1匹目が「見ザル=可視化していない」状態、2匹目が「言わザル=共有していない」、そして3匹目が「使わザル=実行しない」だ。たとえば製造業向けのIoTツールは数多くあるが、その大部分は「見ザル」部分の解消しか考えておらず、その結果、生産性の向上に結びつかない。「見ザル」だけでなく「残りの2匹も退治しないと改善の効果は少ない」と木村氏は言う。

カイゼン=生産性向上を阻む“3匹のサル”

 また木村氏は、IoTに取り組む多くの企業から「知識や事例が足りないために改善できない」という声も聞くと語る。そういう声を上げる企業では、知識が属人化されていて特定の人の頭の中にしかなかったり、事例が蓄積されていても紙でファイルされており、非常に検索性が悪いことが多いという。結果として、知識や事例が従業員全体に共有されず、改善につながらない。

 そこで旭鉄工では、知識の共有を図るために、従業員が自ら基礎知識を修得できる「i Smart Academy」というe-Leaningシステムを作った。前述したiXacsの使い方講座が23コマ、加えてIoTのカイゼン講座が29コマという充実した内容である。

 またカイゼン活動事例の共有については、2016年から「横展(横展開)リスト」を作っている。これはExcelベースのものだが、どんなラインでどんなカイゼン活動を行ったかという情報が数百事例蓄積されている。

 これに加えて今年は、Slack上に「製造改善事例」というチャンネルも設けた。テキストだけでなく写真も用いて、個別の事例をわかりやすく情報共有している。このチャンネルを見た他部署の従業員が、これならば自分のラインにも適用できそうだと改善事例を取り入れ、社内での横展開が進んでいるところだという。

 なお、3匹目のサルである「実行」については「あえてアナログ」の仕組みをとっている。製造ラインの状況報告や改善についての会議内容、あるいは社内でのカイゼンプロジェクトの実施結果などは、すべて紙に印刷して貼りだしている。

 「もちろん、カイゼンに関わるデータはすべてデジタルで集めているが、ここはあえてアナログでの結果共有にこだわっている。目的によって、デジタルとアナログを使い分けていくことが大事だと思っている」(木村氏)

同じ情報共有でも「あえてアナログ」を残している部分もある

社内での人気ナンバーワンは「雑談チャンネル」、社外とのやり取りにも利用

 旭鉄工ではSlackを、社内コミュニケーションの潤滑油としても活用している。社内だけで119ものチャンネルが存在するが、「業務だけでなく雑談も大歓迎」だと木村氏は公言する。実際、毎日更新しているチャンネル別書き込み数ランキングでは「雑談チャンネル」が1位になることが多いという。また、Slackで使えるオリジナル絵文字も社内で流通させるなど、遊びごころにもメーカーらしいこだわりが感じられる。

社内コミュニケーションにSlackを活用。「雑談も大歓迎」のスタンスで、従業員の活発な書き込みを促す

 木村氏が社長を務めるもう1社のi Smart Technologiesでは、旭鉄工で磨き上げてきたカイゼンの仕組みを他社にもサービスとして提供している。木村氏は「カイゼンにはコツがある、というのがわたしの持論」だと述べ、そのコツを広めるのが同社の目標だと説明する。

 「たとえば工場内の人の動作を改善するなら、まず足の動きにムダがないかを見る。次に手の動き、そして目が余分なものを見ていないかを確認する。この切り口で、同じように工場の自動機(生産設備)についてチェックしてみると、ムダな動きばかりしていることがわかる。自動機の動作は(その導入と構築を請け負った)システム会社が“コピペ”しているケースが多く、個々の生産現場に合わせてプログラミングされていないためだ。こうしたノウハウ、ものの見方を提供している」(木村氏)

 旭鉄工のカイゼン活動にとって、Slackはマシンデータとの連携や社員間のコミュニケーションツールとして欠かせない存在となっている。木村氏は「slackはすごく情報共有がやりやすい。メールよりも圧倒的に速いし、検索性も高く非常に重宝している。社内だけでなく、社外のパートナー企業とも、Slackを使ってコラボレーションが進んでいる」と語った。

社内だけでなく、社外のパートナー企業や顧客とのコミュニケーションにもSlackを活用している

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