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Slack Workstyle Innovation Day Onlineレポート第2弾

SOMPOシステムイノベーションズが実践する“大企業的ビジネス作法”から脱却する方法

2020年07月07日 09時00分更新

文● 指田昌夫 編集●大谷イビサ

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 オンラインで開催された「Slack Workstyle Innovation Day Online」で、SOMPOシステムイノベーションズの内山修一代表取締役社長が、2019年にSlackを導入した経緯を講演した。

SOMPOシステムイノベーションズ 代表取締役社長執行役員 内山 修一氏

IT企業でも業務の進め方は古かった

 SOMPOジャパンのシステム開発を専門に行なう企業であるSOMPOシステムイノベーションズは、「2025年の崖」といわれる、古く肥大化したレガシー基幹システムからの脱却に向け、オープンプラットフォームを全面的に採用するなど攻めの姿勢でIT開発に取り組んでいる。

 同社の課題は、技術とは別のところにあった。「優秀なエンジニア、パートナーに恵まれプロジェクトは順調に進んでいる。その一方で、業務の進め方は、大企業の古い歴史を引きずる大げさなものだった」と内山氏は語る。

 大規模プロジェクトの官僚的なオペレーションの中で硬直したフォーマットが、アジャイルな開発の進め方を阻害しているのではないか。内山氏は危機感を持っていた。「進捗管理も数十万行のWBS(Work Breakdown Structure:タスク一覧)を消し込んでいく形で進めており、旧態依然のやり方に疑問を感じていた」(内山氏)。

 そのため内山氏は、ワークスタイル変革に着手する。「目的はアジリティの向上だが、社員には『サクサク仕事が進んだら気持ちいいよね』と話している。仕事が効率化すれば、ワークライフバランスを改善し、自分への投資もできる。なによりスピードアップによる業務の貢献も認められる」(内山氏)。

 変革の中心は、社員間のコミュニケーション基盤として導入したSlackだ。Slackについて内山氏は、数年前から気になっていたが、なんとなく“エンジニア向けのツール”だと思って深く検討していなかったという。「だが、昨年Slack開催のセミナーに参加し、メルカリの活用事例を見て、その認識が誤りだと気づいた。ただのチャットツールではない。これならうちでもいけると確信した」(内山氏)と導入のきっかけを語る。

 Slackのレポートに「生産性が高いチームはモチベーションも高い」というものがあるが、内山氏はそれを自社で実践し、ワークスタイル変革とモチベーション向上を連動させて、いい循環を起こしていきたいと考えた。

あえて時間をかけて導入を進めた理由

 大規模システムの構築を主業とする同社の組織は、階層化したピラミッド状にチームが配置された構造を取っている。社員が約500名、パートナーを含めるとピーク時には2000名以上が連なるツリーの中で、膨大な数の決めごとが上意下達、あるいはチーム横断の形で流れている。その結果、行程ごとに数多くの会議と情報共有のメールが必要だった。

SOMPOシステムイノベーションズの課題

「あまりに会議が多いので、ある程度人が集まる時間で会議を定例化する。すると今度は欠席者へのフォローでメールがさらに増えるという悪循環に陥っていた」(内山氏)

 この状態を解決するために、Slack上にオンラインプロジェクトルームを作ることを考えた。当時現場のエンジニアからは、Slackを使いたいという声も挙がっており、すぐにでも導入できそうだった。しかし内山氏は、導入にあたって一気に全社に入れるのではなく「少し時間をかけることにした」という。

 その理由を内山氏はこう話す。「Slackの導入で一番効果を出してほしいと考えていたのは、部門のリーダーたちだった。彼らは改革がうまく進むためのキーマンなのだが、とにかく多忙にしているため、新しい仕組みを入れただけで放っておいても、覚えようとしない。そのため、彼らに納得して使ってもらうために、丁寧にプロセスを設計した」。

 具体的には、まず社内で誰もが認めるような成功事例を先行して作る。そして、その成果を持って、攻略したいキーマンに働きかけるというシナリオを作った。

 まず100名程度のチームでパイロットを走らせた。開発プロジェクトの定例進捗会議や課題検討会議をslackに乗せて、オンラインで進めた。2ヶ月ほど実施して、効果を確認したところ、会議時間を約320時間から約80時間に大幅削減することができた。同時に、会議室の制約から解き放たれることによるフラット化も効果があった。リアルの会議では、まずチーム内、次に上の層と、そして組織横断という段階を経て何回も開催する必要があったが、これらを1つにまとめることができた。

会議時間を約320時間から約80時間に大幅削減することができた

 また他にもメリットが確認できた。会議のスケジュールで業務がブロックされないため、業務をマルチタスク(同時並行)に進めることができる。逆に、場所と時間から解放されることで、slack上で進む個々の業務に関する議論は、むしろリアルタイムでやりとりされているという。

部門の導入をリードするアンバサダーを設置

 現在、同社ではこれらの成果を引き連れ、全社展開のプロセスを進めている。導入拡大に向けて、Slackのカスタマーサポートチームによる支援に助けられているという。たとえば、社内のミドル層に「アンバサダー」を設置することもSlackのアドバイスによって実施した。

「全社展開時は推進チームを作って、あとはレポートラインで落としていけばいいと思っていた。だがツールの変更は業務部門の仕事を変えることになるので、部門のコミットメントが重要だった。その意味でアンバサダーが利用拡大の中核を担う重要ポジションだと理解した」(内山氏)

 そこで、各部門からSlackを使いたいと志願した10名ほどにアンバサダーになってもらった。Slackを積極利用することはもちろん、全社共通で作った事例を各部門に落とすときの調整、周囲のメンバーの使い方サポートなどを行なっている。

段階的なアプローチ

 まだ導入の途中段階だが、内山氏は早くもSlackの全社浸透に手応えを感じている。「当初導入に懐疑的だった部門リーダーがいたが、コロナウイルスの感染拡大で全社リモートワークになり、Slackを強制的に体験することに。今ではむしろ率先して使っており、システム監視の通知に利用するなど、チーム内でさまざまな工夫をしているようだ」(内山氏)

 内山氏は、「コロナのような大きな課題に直面したとき、全社一丸となって取り組む必要がある。Slackはその際のチームビルディングとコミュニケーションの基盤として生かせる。チームの能力を引き出してイノベーションを生み出していきたい」と語り、今後は単なる時間短縮だけでないSlackの効果に期待している。

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