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「ごっつぁんカレー」開発秘話、海洋高校相撲部が復活をかけて発売

2020年07月06日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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相撲部の活動費を捻出するために、学校とOB、教員が一丸となって取り組んだ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

相撲部の悩みの種だった食費や遠征費

 新潟県立海洋高校は、パンフレットやホームページに「海を学ぶ人のための学校」「海を知る。海に学ぶ。地域とともに次世代を担う海のプロを育成します」とある通り、水産科専門の高校だ。学校は旧能生町、現糸魚川市にある。

 スポーツの分野で海洋高校といえば、相撲の強豪として知られる。昨年は国体で個人・団体とも新潟県が優勝した(団体は4連覇)。メンバーは全員が海洋高のOBだ。個人で優勝したのは、海洋高から日体大に進んだ中村泰輝。中村は昨年、1年生ながらインカレ(大学選手権)に優勝し、29年ぶりの1年生横綱に輝いた。

 私は数年前から海洋高校相撲部の取材を続けている。選手の大半は、県内外から海洋高校の相撲部を目指してやってきた力士たち。中には、中学時代からこの地にある能生中学に入学し、高校生たちと一緒に寝食を共にし、稽古を重ねる少年もいる。中村泰輝も出身は石川県津幡町だが、小学校を卒業後すぐにこのルートに進み、海洋高校相撲部の門を叩いた。

 いまは部員が6人と少ないが、たいていは10人以上が合宿所(総監督がかつて経営していた元旅館)で生活している。訪ねて驚かされるのはやはり、彼らが食べる食事の量の多さだ。同校相撲部のOBで、元教員でもある田海哲也総監督によれば、「30キロの米が2日でなくなる」というから、食費だけでも大変だ。さらに、毎月のように全国各地で親善大会などが開かれ、遠征費も必要だ。

 しかも、能生町は、夏は暑く冬は積雪もあり寒さが厳しいため、夏の冷房費、冬の灯油代もかなりの額になる。県立高校だから学校の予算は限られている。学校隣接の寮費と同じ合宿所代をもらっているが、それだけでは賄いきれない。できるだけ父母に負担をかけないよう、OBや地元の後援会を組織して支援を頼んでいるが、毎年の活動費をどう工面するかは田海総監督の悩みのタネでもあった。

ビジネスの基盤はOB・学校が一体の産官学企業

 これを解決する一案として、開発・発売されたのが《海洋高校ごっつぁんカレー》だ。

 レトルトパックをお湯で温めて食べるカレーだ。パッケージには、白いシャツ姿(夏の制服)の3人がおいしそうにカレーを食べる写真に添えて、『新潟海洋高校相撲部開発』の文字が躍る。

 宣伝文句によれば、「地元産の甘えび醤油を使ってカレーのこくを引き出したシーフードカレー。エビ、イカ、ホタテなど具だくさん」。この商品が独特なのは、高校生が開発したことに加え、売り上げの一部が同高相撲部の活動資金に寄付される『支援型商品』という新しさだ。

 ごっつぁんカレーの開発に関わったのは、去年の3年生3人。いまは尾車部屋で序二段力士の竹岡勇人、鳴門部屋の序ノ口力士・深沢成矢、早稲田大学相撲部1年の栗田裕有だ。

 3人は、全国高校相撲十和田大会で団体準優勝。栗田は全国新人選手権大会100キロ未満級で優勝している。また栗田は高校3年生のとき、糸魚川市のビジネスプランコンテストでグランプリに輝いた経験もある。プラン名は、「ちゃんこで感じよう糸魚川!」だった。そんな彼らが、海洋高校水産資源科食品科学コースの授業の一環として取り組んだシーフードカレーを商品化したのが、ごっつぁんカレーだ。

「数年前にも、相撲部の生徒が開発した《ニンニク味噌》が商品化されています。この時はまだ仕組みが曖昧でしたが、今回は明快に、売り上げの3パーセントが相撲部の活動資金になるという、はっきりした形もできあがりました」(田海総監督)

 販売するのは、株式会社能水商店。行政と学校とOBが一体となって立ち上げた産学官提携の会社だ。能水の名は、海洋高校の旧名である能生水産高校に関係している。いまも同校のOB会は能水会と称する。その名を取って社名にした。

 社長はつい2年前まで海洋高校食品科学コースの教員だった松本将史さん。授業で生徒たちと商品開発に取り組みながら、その商品を本格的に販売して生徒に利益を還元できるように、産学官提携組織の立ち上げを提唱。しばらくは教員をしながらOB会が主宰するこの活動の陣頭指揮に当たっていたが2年前、ついに教員を辞して会社組織に発展させ、その責任を負う選択をしたのだ。

 会社ではあるが、まるで高校教育の延長線上にあるような、実践教育の場にもなっている。実際、高校生たちは授業と部活動を通して能水商店の企業活動の一部に参画しながら学習している。

成功の鍵は相撲部と地域が一体となった土壌

 数年前、海洋高校は生徒不足に直面し、学校の存続が危ぶまれた時期があった。

「当時は、普通高校より予算が3倍もかかる水産高校をなぜ残すんだ。統合したほうがいいといった不要論が大勢でした。ところが今は、反対が『応援』に変わりました」(田海総監督)

 個性ある教育内容が、進路を検討する中学生たちの注目を集め、入学後のやりがいが後輩たちに伝わり、志願者は着実に増えている。

 教員たちも県内外にまで学校の案内に奔走し、今では半数近い生徒が県外から集まっている。近隣の普通高校が定員割れする中、海洋高校はここ数年、定員を上回る志願者を集めている。

「こういう取り組みをすることで高校が生まれ変われるんだという希望になりました」。元教員であり、OBである田海総監督も誇らしげに言う。

 もちろん、相撲部の活躍も地域に元気と勇気を与えている。相撲部の高校生はOBの社会人選手も含めて、地域のお祭りやイベントに積極的に参加し、ちゃんこを作ったり、少年少女に相撲を教えたりもする。日頃から交流があるから、試合の時は懸命に応援もしてもらえる。そういう土壌があるところに、今回のごっつぁんカレーが発売されたわけだ。

 販売価格は480円(税別)。当初10万箱を予定している。「もっと安いほうが」との声もあったが、主なご当地カレーはおおむね500円以上だとわかり、この価格に落ち着いた。

 それにしても、同じスポーツでも種目によってこれだけ環境が違うかと驚かされる。野球部であれば、現状の体制では部活がビジネスを行って活動資金を集めるなど、到底許されない取り組みだ。強豪校の選手がパッケージに顔を出し、「僕たちが作りました!」と言って宣伝したら、それだけで出場停止になるだろう。商品の宣伝や販売に高校球児が関わることは許されない。

 しかし、相撲部なら許される。売り上げの一部が活動費となり、利益が選手個人に入るわけではないから、問題はないという見解だ。まして、「ごっつぁんカレー」を作った3人はもう卒業している。後輩たちの活動のために、自分たちの努力が役立っている形だ。

(作家・スポーツライター 小林信也)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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