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Jリーグ再始動!選手・サポーター・裏方の「サッカー版ニューノーマル」

2020年07月03日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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一足先にJ2とJ3が再開。コロナ禍前とは全く違った光景が広がっていた 写真:西村尚己/アフロ

新型コロナウイルスの影響を受けて、2月下旬からすべての公式戦を中断してきたJリーグが帰ってきた。6月27日および28日に開幕節以来となるJ2の11試合、約3カ月半遅れの開幕となるJ3の9試合がそれぞれ行われた。無観客試合の呼称がリモートマッチに改められたスタジアムの雰囲気や、ピッチ上でも確保が求められるソーシャルディスタンスなど、コロナ禍に見舞われる前とはまったく異なる光景は、4日に再開を迎えるJ1へとつながっていく。(ノンフィクションライター 藤江直人)

3密排除のガイドラインは70ページ!

 止まっていた時計が125日ぶりに動き出した。ともに開幕節となる明治安田生命J1リーグ4試合、同J2リーグ11試合が行われた2月23日以来となる、サッカーのある光景が戻ってきた。ファン・サポーターが待ち焦がれてきた再開のピッチはしかし、ちょっとした違和感を生じさせていた。

 これまでのように両チームが列をなしてエスコートキッズを伴い、審判団を先頭に入場してくるわけではない。すべてのスタジアムで、両チームの選手たちがバラバラにピッチへ足を踏み入れてくる。キックオフ前恒例の集合写真も、いわゆるソーシャルディスタンスを保って撮影されている。

 すべては公式戦の再開へ向けてJリーグが定めた、70ページで構成される「Jリーグ新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」で、微に入り細をうがつ形で定められたプロトコルだ。ガイドラインの目的は言うまでもなく、サッカーから密閉・密集・密接の“3密”を極力排除することにある。

 濃厚接触を避けるために給水のペットボトルも共用が禁止され、それぞれに選手の背番号が記された専用ボトルが用意される。かかわる人数を可能な限り減らすために、ピッチの周囲でスタンバイし、スローインのボールを渡すボールボーイも地元の子どもたちではなくクラブのスタッフが務める。

 しかし、どれだけ事前に徹底していても、人間の本能にはかなわない。ゴールが決まった後に味方同士で抱き合い、時には重なり合って喜びを共有するゴールセレブレーションもガイドラインで禁止されているが、何人もの選手が“密”を作りかけては気がつき、距離を取った儀式に切り替えていた。

「やっぱり実際に抱き合って喜び合いたい、という気持ちはありますけど。ああいう形になってしまったのは、今はしょうがないと思っています。解禁されたら、みんなとしっかり……」

 こう語りながら苦笑したのは、約3カ月半遅れの開幕戦で左サイドバックの先発を射止めた、福島ユナイテッドFCのルーキー吉田朋恭(産業能率大卒)だ。前半45分にデビュー戦で初ゴールを決めた直後にひじをくっつけ合う、本人をして「ああいう形」と言わしめた儀式で喜びを共有していた。

ジュビロが調子を崩した予想外の事態

 4日に再開するJ1を含めて、すべてのカテゴリーで最低でも2節は無観客試合改めリモートマッチで開催される。政府が定める「イベント開催制限の段階的緩和の目安」に、ひと足早く開幕したプロ野球とともに従っているもので、今月10日からは制限を設けた上で観客を動員していく。

 各クラブも趣向を凝らして無人のスタンドを盛り上げた。例えばヴァンフォーレ甲府は、掲出が許可されているスポンサー企業のバナーでバックスタンドを埋め尽くした。試合をライブ配信したDAZNを介して常に映し出された、カラフルで賑やかなバックスタンドの光景は露出効果も十分だった。

 その甲府をはじめジェフユナイテッド千葉、ファジアーノ岡山など10クラブは大手楽器メーカーのヤマハが開発したリモート応援システムを採用。自宅で視聴しているファン・サポーターがスマホの専用アプリ越しに送った声援や拍手を、スタジアムに設置したスピーカーから響かせている。

 いつもは大歓声でかき消される、ピッチ上で飛び交う選手や監督の声が筒抜けになるのもリモートマッチの面白い点だが、J2の京都サンガF.C.対ジュビロ磐田では予期せぬ珍事も起こった。

 ジュビロのフェルナンド・フベロ監督が選手たちへの合図として、開始直後から何度も指笛を響かせていた。これが主審のホイッスルに酷似していて、選手たちが勘違いしかねないとして前半40分すぎに試合が一時中断。審判団が注意を与えるとともに、その後は禁止とする事態が生じた。

 さすがに想定外だったのか。前出のガイドラインでは観客動員後のファン・サポーターによる指笛を禁じていたものの、監督によるそれには言及されていなかった。指笛禁止に最初は驚いた表情を見せたフベロ監督は主審の指示を受け入れた上で、いい場面を作れずに敗れた試合をこう総括している。

「指笛を注意されたことで何かが起こった、ということは特にありません」

 昨年8月に就任したスペイン出身のフベロ監督は、試合中に見せる派手なゼスチャーと指笛がすぐに象徴となった。ただ、観客が入っていたこれまでは一度も問題視されることはなかった。

普段は拾われない声も全国へ

 試合を戦い終えた選手たちはロッカールームに戻るとともに、監督やコーチ陣、リザーブの選手たちと同じくマスクを着用しなければならない。ロッカールーム内でもできれば2m、最低でも1mのソーシャルディスタンスを保ち、シャワーも原則としてひとつずつ間隔を空けて使用する。

 試合後の各種メディアによる取材は、従来は両クラブの監督が会見に出席。選手たちはミックスゾーンと呼ばれる取材エリアを必ず通り、メディアの質疑に応じる形式が取られてきた。しかし、新型コロナウイルスは長年の習慣となってきた取材方法を根底から変えた。

 すべてのスタジアム内でミックスゾーンがまず廃止され、試合の前後にメディアが作業するプレスルームも閉鎖。取材はすべてオンライン形式で行われ、選手エリアに設置されたパソコンと、記者席でメディアがそれぞれ起動させているパソコンをつなげて質疑応答が行われる。

 取材に応じるのは両クラブの監督と、その試合で活躍した選手を中心に1チームにつき原則2人。ただ、目の前のパソコンと向き合う方式に不慣れなクラブも多かった。

「これ、猫背になっちゃうよ」

 中には画面をのぞき込むあまり、前屈みになりながら、思わず漏らした言葉がしっかりとマイクに拾われた監督もいた。

 リモートマッチの間は不要不急の人間の来場はNGで、例えば選手の家族や代理人、クラブのマスコットも足を運ぶことは許されていない。Jリーグ幹部も対象に含まれていて、村井満チェアマンも「特別足を運ぶ理由はないので」と、全試合をDAZNで視聴する観戦方法に努めている。

 そこまで厳しくするのか、と思われがちな徹底ぶりはリモートマッチの期間中はサッカー界から新たな感染者を出さず、順次観客を動員していく次のステージへ、速やかにつなげていく青写真が描かれているからだ。その意味ではファン・サポーターにも、ステイホームでの応援を呼びかけている。

 ファン・サポーターが自主的に作成する横断幕を、スタジアムの内外へ掲出することを禁じたのも、“密”が生じる可能性を極力排除したからにほかならない。それでもスタジアム周辺に集まってしまう場合は、ガイドラインで「当該試合を延期する措置などを検討する」と明記されている。

J2北九州を襲った不安

 J2の再開およびJ3の開幕を前にして、Jリーグは大規模な一斉PCR検査を実施している。6月18日から21日にかけて、J1クラブを含めて全56クラブ、総勢3070人から唾液を採取しての検査を実施。全員の陰性が確認された同26日までに、実はちょっとした騒動があった。

 J2のギラヴァンツ北九州は選手の1人に再検査の必要性が生じたとして、23日に予定していた全体練習を急きょ中止。選手たちを自宅にとどめた上で、オンラインによるフィジカルトレーニングに切り替えた。再開初戦を4日後に控えて、調整スケジュールに微妙な狂いが生じてしまった。

 緊急事態宣言が解除された後に第2波に襲われたこともあり、北九州は行政を含めて神経をとがらせていた。そこへ1人を除いて全員が陰性という連絡が入り、陽性かもしれない、と大騒ぎになった。

 実はその1人は「要・再検査」ではなく、採種した唾液から新型コロナウイルスの感染有無を確認するのに時間がかかっていた状態だった。ただ、初めてのPCR検査とあって、早めに知らせた方がいいのではないかというJリーグの判断が、結果として齟齬(そご)と誤解を生み出してしまった。

 北九州は結局、27日のV・ファーレン長崎戦に1対2で惜敗。PCR検査の騒動がどう影響したかは定かではないが、後味の悪い負けとなってしまった。

「全員が確定する前に部分的に情報を抜いてクラブへお伝えしたために、1人の結果がはっきりしませんという伝え方が『陽性なのでは』と受け取られ、今回の北九州のようなアクションになりました。結果の伝達方法をスマートな運用にすることができず、ご心配をおかけしてしまいました」

 PCR検査を担当するJリーグの藤村昇司特命担当部長は、初めての経験から得た教訓をこう語る。Jリーグは2週間ごとに、年内いっぱいをかけてトータルで14回の一斉PCR検査を実施。陰性反応を示すことが、試合に出場するための条件として定められている。

 1回あたりの最大検体は3580で、費用は全額Jリーグが負担する。保険適用外の場合、1人あたり1万7000円かかるので、単純計算で約8億5000万円の費用が発生する。第2回のPCR検査はJ1再開前日の3日に行われ、8日の午後1時に結果が公表される予定になっている。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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