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創業エンジニアが残すスタートアップ開発ログ 第4回

株式会社グラファー プロダクトマネージャー 畠山陽佑氏

「最短1分手続き」利用者の体験を最適化するGovtechスタートアップのプロダクト

2020年07月07日 09時00分更新

文● 畠山 陽佑 編集●ASCII STARTUP

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0→1は、起業家だけでは生まれない。先進スタートアップの創業期エンジニア・CTOは、どのような目線で製品やソリューション開発に取り組んでいるのか。最前線の開発者の生の声から、テックスタートアップの現在を追う本連載。第4回は、行政の手続きを効率化するサービスを提供するグラファーのプロダクトマネージャーである畠山 陽佑氏。

 はじめまして、畠山陽佑(@keyama4)と申します。

 私は現在、行政の手続きを効率化するサービスを提供する株式会社グラファーというスタートアップで、プロダクトマネージャーをしています。

 現在は社員30名前後の規模になりましたが、売上0の創業初期から参画し、サービスの企画・開発・マーケティングなど事業に関わるすべての意思決定、実行に携わり、コードも書いています。

 経歴としては、株式会社リクルートに新卒で入社し、複数のtoB向けサービスのエンジニアリングやチームマネジメントに携わった後、業務範囲を広げるためメガベンチャーに転職。新規事業のSaaS開発でプロジェクトの企画やフルスタックでの開発経験を積みながら、「いつか自分で0から事業を創る」という学生の頃からの想いをいつ実行に移そうか機会を伺っていました。

 そんな中、弊社CEOの石井大地と出会いました。石井はプロダクトマネージャーとしてプロダクトの企画・開発・顧客対応など事業に関わるすべての業務を自ら実行した経験があり、かつ具体的な成功事例を有していました。まさに自分が挑戦したいことをそのまま経験している人物。そんな石井に惚れ込み、事業領域も確かなマーケットがあると感じ、想いを実行に移すことを決意します。

目指すは利用者の体験を最適化した新しい行政手続きのインフラ

 昨今の新型コロナウイルスで話題になった給付金や助成金などの申請で、「もっと簡単にできたら良いな」「もっとわかりやすくならないかな」と思われたことはないでしょうか。住民票や戸籍謄本など、国や自治体から発行される書類を取得するために、午前休を取って役所まで行った経験のある方もいらっしゃるかもしれません。引越しや子育て、お店の開業や従業員の雇用など、私たちの生活や仕事の中で、行政手続きは避けて通ることができません。

 日本には55,000種類以上の手続きがありますが、多くの手続きは「窓口に並ぶ」、「紙の書類に手書きで記入する」といったアナログなやり方が主流です。いまだに電子申請は普及しておらず、行政手続きのために費やされる事業者の人件費等のコストは年間5~10兆円*にも及びます。(*当社試算)

 グラファーは、こうした面倒で、不便な行政手続きを利用者の体験に最適化されたサービスを提供することで、変革すべく立ち上がったスタートアップです。

利用企業数1万5000社を超える最初のプロダクト

 そんなビジョンを持つ会社に入って、はじめに思ったことは「さて何をしよう」でした。「プロダクト0・売上0」とまさに創業初期。最初の事業すら決まっていません。

 議論の末、まずは「マーケットに世界観が受け入れられるかを検証しよう」という方向性になりました。そこで最初に選んだのが、会社運営の様々なシーンで必要になる「法人登記簿謄本の請求手続き」でした。

 方向性を決めてからは早かったです。

 まずは従来の取得手段を徹底的に調べるところから始めました。登記簿謄本の取得に必要なプロセスやステップを一つひとつ洗い出し、それにかかる時間を測定し、人件費や移動にかかる交通費などの隠れたコストを計算し、ストレスがかかるポイントを洗い出しました。

 仮に謄本取得のため法務局へ行き窓口に並ぶとしたら、発行手数料の1通600円に合わせて、往復の移動や待ち時間、交通費をすべて合わせると、実際には数千円のコストがかかっていることになります。

 このように手間のかかる法人の登記簿謄本ですが、実は法務省からオンラインで請求できるサービスも提供されています。しかし、「平日の限られた時間にしかアクセスできない」、「請求のたびに銀行振込が必要」、「操作が複雑」、「スマートフォンに対応していない」などの様々な問題があり、広く普及するに至っていません。

 こうした従来の取得手段を分析し、これまでにない価値を提供できるかを徹底的に自問自答し、最適なUXを考え、MVP(Minimum Viable Product;顧客を満足させられる最小限のプロダクト)を決めました。

 MVPの提供価値は「初回利用でも最短1分で請求可能」

 従来の取得手段では、数十分から数時間を要します。それが、私たちのサービスを利用すれば、ユーザーは法人を検索して指定し、必要な登記簿謄本の通数を入力するだけ。後はECサイトのようにクレジットカードで決済ができ、数日後に指定の住所に登記簿謄本が届きます。とにかく導線をシンプルに設計し、ユーザーに不要な情報は与えず、ストレスなくすべての作業を完了してもらえるような体験を意識しました。

 MVPを決めたら後は開発するのみ。従来の登記簿謄本の取得にかかる手間を数十分の一に圧縮したプロダクトはマーケットにどのように受け入れられるのか。1秒でも早くリリースさせたくてウズウズしていたのを覚えています。

 そこから2週間でプロダクトを開発し、1か月も経たないうちにリリースに至りました。当時の私は、まさか入社月に自分が0から考えたサービスをいきなり世に出すことになるとは思ってもいませんでした。リリース初期は知人の利用から始まり、徐々に利用企業数が増え、すぐに100社を超えました。

 良い利用体験を提供できれば手数料を支払い、サービスを使ってもらえる。確かな手応えを感じました。

 このグラファーで最初のプロダクトとなった「Graffer 法人証明書請求」は、印鑑証明書の請求や登記情報のPDFデータの提供など、ラインナップを拡充させ、現在は15,000社以上の企業にご利用いただいています。

 また、10,000社の利用実績ができたタイミングで顧客ロイヤリティを計るNPS調査を行ったところ、94%が「知人に紹介したい」という結果となっています。

現在、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、法務局の窓口混在を回避するための特別対策として、期間限定で法務局の窓口料金よりも安価にサービスを提供しています。

 当時を振り返ると、最初の方向性が決まったあとは、一人で顧客体験の流れを作り上げました。

 一般的なプロダクト開発と捉えられる部分に加え、広告のメッセージやサービスのランディングページもプロダクトの一部と捉え、サービスの認知から利用までの一連の顧客体験をデザインする。

 具体的には、MVPの提供価値検討から始まって、フロントエンド・サーバサイドの開発、デプロイまでで終わらず、ユーザーテスト・LPの内容、さらにはGoogle広告のキャンペーン設定まで一気に駆け抜けた形です。はじめての弊社サービスということもあり、プロダクトの顔となるLPはCEOの石井とかなり細かく議論をして作りました。

 この経験から、エンジニアの「作り手」視点から「利用者」視点に焦点を切り替え、プロダクトを創る感覚を獲得することができました。今も私が大切にしているプロダクト創りのベースとなっています。現在は、最初のプロダクト開発の経験を踏まえて、複数のプロダクトの企画・開発を行っています。

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