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エンタープライズ向けに新モデル投入、“2ソケットの能力を1ソケットで”提供する技術とメリット

時代を塗り替えるAMD EPYCサーバー、その実力と「経済性」を知る

2020年07月01日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

提供: 日本AMD

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 「AMD EPYC(エピック)サーバー・プロセッサー」シリーズがいま、x86サーバー市場で大きな注目を集めている。特に、昨年8月に発表された“第2世代”のEPYCプロセッサー(EPYC 7002シリーズ)では、アーキテクチャの刷新で最大64コアを搭載し、処理性能が「前世代製品の2倍」と大幅に向上。次々にベンチマーク記録を塗り替え、競合する他社プロセッサーとの性能差をさらに広げている。

 “1ソケットサーバーで2ソケット相当の能力”を実現するEPYCプロセッサー搭載サーバーは、すでに世界中のメガクラウドやサーバーホスティング、インターネットサービス、スパコン/HPCなどの世界で採用が進んでいる。さらに今年(2020年)4月には、エンタープライズワークロードに適した新モデルも追加投入し、いよいよエンタープライズサーバー市場にも本格進出しようとしている。

 今回は、AMD EPYCプロセッサーの“圧倒的な強さ”と、その背景にある技術や採用実績、さらにTCO(総所有コスト)削減効果や独自のセキュリティ機能など、エンタープライズユーザーにもおすすめしたい理由について紹介しよう。

x86初の64コア搭載とPCIe Gen4対応、“最先端”を盛り込んだAMD EPYC

 EPYCは、AMDが2017年に発表した64ビットx86サーバー向けのプロセッサーシリーズだ。AMDは、このEPYCシリーズの継続的な投入でx86サーバー市場のプロセッサーシェア奪還を狙っており、すでに現在第4世代、2022年までの開発ロードマップを公開している。

AMD EPYCの長期ロードマップ。コアアーキテクチャの“Zen”を段階的に進化させ、サーバー向けプロセッサーとして高性能化を推し進める

 現行の最新世代である第2世代EPYC(EPYC 7002シリーズ、開発コード名“ROME”)では、新世代のコアアーキテクチャ“Zen 2”を採用することで、x86プロセッサーとして初めて最大64コアの高集積化を実現するとともに、コアあたりの処理能力も向上させた。さらに大容量のL3キャッシュメモリー、3200MHzの広帯域なメモリーバンド幅、128レーンのPCIe Gen4インタフェースなど、サーバー総体としての処理能力を大きく向上させる設計になっている。

 これにより、消費電力/発熱量(TDP)を空冷サーバーで稼働するレベルに抑えながら、前世代EPYCや競合プロセッサー比でおよそ2倍という、高い処理性能を実現している。

第2世代EPYCプロセッサー(AMD EPYC 7002シリーズ)の特徴。x86プロセッサーで初の最大64コア搭載とPCIe Gen4対応、さらに広帯域のDDR4メモリーバンドなどの特徴を備える

 サーバーメーカー各社も第2世代EPYCプロセッサーの採用を進めている。たとえばすでにDell Technologies、HPE、Lenovo、富士通といったサーバーメーカーが第2世代EPYC搭載の1ソケット/2ソケットサーバーを発売しており、そのラインアップは今後もさらに拡大していく見込みだ。

まずは仮想化/クラウド、スパコン/HPCの分野で注目を浴びたAMD EPYC

 早期からEPYC搭載サーバーのコストパフォーマンスの高さに注目してきたのは、パブリッククラウドサービスやホスティングサービスのプロバイダー、インターネットサービス事業者などだ。

 こうした企業では、データセンターに大量のサーバーを導入してクラウド基盤として活用する。その際、サーバー1台あたりの搭載コア数が多ければ仮想マシンの集約率も高まり、サーバー台数(=ラックスペース)の削減、つまりはコスト削減につなげられる。もちろん、大容量メモリーや高速なNVMe SSD、高速なネットワークインタフェースへの対応も必要だ。そうした観点からいち早くEPYCの優位性に気づき、導入を進めてきた。

 たとえばパブリッククラウド市場では、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud、IBM Cloud、Oracle Cloudといったメガクラウド各社が、EPYC搭載サーバーを採用している。クラウド市場は価格競争が激しいため、高性能なインスタンスを割安に提供できるEPYC搭載サーバーの採用が直接、優位性のあるサービスにつながる。たとえばAWSでは、同等のサーバーインスタンスよりも最大10%安価なEPYC版インスタンスをラインアップして、ユーザーにコストパフォーマンスの高さをアピールしている。

メガクラウド各社がEPYC搭載サーバーを採用し、価格競争力の高いクラウドサービスを実現している

 国内でも、2018年にヤフーサイバーエージェントが、プライベートクラウド構築を目的として第1世代EPYC搭載サーバーの導入を発表している。また第2世代EPYC搭載サーバーについては、レンタルサーバー事業者のエックスサーバー(XSERVER)がいち早く導入を発表した。そのほか、国内の大手金融商品取引プラットフォーム、決済プラットフォームなどでも第2世代EPYCサーバーが採用されている。

 他方でスパコン/HPC領域のユーザーも、EPYCプロセッサーが持つ魅力に早期から注目してきた。この領域では大規模な並列演算能力が求められるため、コア数やメモリーバンド幅、そして電力効率(消費電力あたりの処理性能)が重要な指標となる。高パフォーマンス、かつ電力効率の良いEPYCが注目されるのは当然だろう。

 国内では沖縄科学技術大学院大学(OIST)をはじめ、総合研究大学院大学 核融合科学研究所、東京大学 物性研究所、国立遺伝学研究所などで、第2世代EPYC搭載サーバーが採用されている。米国でも、エネルギー省管轄下のオークリッジ国立研究所が、2021年の完成を目指して第2世代EPYC搭載スパコンの構築に取り組んでいる。

 採用が好調な仮想化/クラウド/HPC分野に続いて、AMDが今年4月に発表したのがエンタープライズワークロード向けの新モデルだ。その特徴やメリットを紹介する前に、簡単にEPYCプロセッサーの技術やベンチマーク性能を紹介しておきたい。

旧来の限界を打ち破った大幅な性能向上の鍵は“新しいアーキテクチャ”

 近年、プロセッサーの性能向上ペースが鈍化していたなかで、なぜEPYCはいきなり大幅な性能向上を実現できたのか。AMDによると、その鍵は「ハイブリッド・マルチダイ・アーキテクチャー」の採用にあるという。

 旧来のプロセッサーでは、CPUコア、キャッシュメモリー、I/Oハブといったコンポーネントを単一のダイ上に搭載する設計だった。第1世代EPYCでは、これを4つの小さなダイに分割し、各ダイ(SoC)を統合して1つのプロセッサーを構成する方式に改めた。ダイのサイズが小さいほうがチップ製造は容易であり、この新しいアーキテクチャの採用によって、AMDは技術的優位性を手に入れた。

 そして、この考え方をさらに押し進めたのが第2世代EPYCだ。第2世代では、CPUコアとキャッシュメモリー、メモリーコントローラーとI/Oハブがそれぞれ別のダイに分割された。AMDではこれらを“チップレット”と呼ぶが、8つのCPUチップレットと1つのI/Oチップレットにより1つのプロセッサーが構成される設計となっている。

 こうした構成にすることで、CPUチップレットとI/Oチップレットがそれぞれ独立したスピードで進化できるようになる。実際に、第2世代EPYCではCPUチップレットを最先端の7nmプロセスに微細化することができ、コア数の倍増と処理性能の大幅な向上に成功している。

旧来のプロセッサー設計(単一ダイ)と、第1世代EPYCのマルチダイアーキテクチャ、第2世代EPYCのチップレットアーキテクチャ

第1世代EPYCは4つのSoC(Systems on a Chip)で構成していたが、第2世代EPYCでは機能ごとにダイ(チップレット)を分割し、CPUコアの高集積化を実現した。ちなみにピン配列は両世代共通なので、ソケット側の変更は必要ない

 第2世代EPYC搭載サーバーは、多彩な分野のベンチマークテストで世界記録を塗り替えている。HPC分野だけでなく、メディア&エンタテインメント(レンダリング処理)、エンタープライズ(Java、データベース/ERP、消費電力効率)、ビッグデータ分析、クラウド/仮想化などのベンチマークで、現在までに140超の世界記録を更新している。

 なお、競合プロセッサー「インテル Xeon Platinum」とのSPECベンチマーク比較においては、最上位の64コアモデルでおよそ2倍のスコアを記録している。簡単に言えば、競合の2ソケットサーバーが持つ処理能力を、EPYC搭載サーバーならば1ソケットでも十分まかなえるほどの能力差がある。

2ソケットサーバーでのインテルXeon PlatinumプロセッサーとAMD EPYCプロセッサーのSPECベンチマークスコア比較(整数演算のスループットスコア、詳細条件は本文末参照*)

エンタープライズ向けEPYCも新たに投入、業務システムのTCO削減にも効果

 それでは、第2世代EPYCプロセッサーのエンタープライズ向けモデル「EPYC 7Fx2シリーズ」の特徴を見ていきたい。

第2世代EPYCプロセッサーのエンタープライズ向けモデル「EPYC 7Fx2シリーズ」。コアあたりの性能(周波数)を高めた8コア/16コア/24コアの3モデルをラインアップ

 このエンタープライズ向けEPYCでは、1コアあたりの処理性能(クロック周波数)を高めているのが特徴だ。具体的には、これまでの第2世代EPYCプロセッサーはブースト時周波数が最大3.4GHzだったのに対し、7Fx2シリーズは3.7~3.9GHzとなっている。1スレッドあたりの処理能力を重視する、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)やリレーショナルデータベースといったエンタープライズのユースケースに適した設計だ。

 その一方で、7Fx2シリーズではプロセッサーの搭載コア数が最大24コアに抑えられている。これはコアあたりの周波数を高めたことによる制約なのだが、一方で、エンタープライズ分野ではアプリケーションのライセンスコストを抑制できる効果もある。

 「Oracle Database」など、エンタープライズアプリケーションにはサーバーの物理コア数に基づいてライセンスコストや年間保守費用を算出するものが多い。同じ性能が得られるならば、コア数が少ないシステム構成のほうがライセンスコストを抑えられる。これはシステム全体のTCOに大きく影響するはずだ。

 さらに、レガシーなサーバー環境のリプレースならば、第2世代EPYC搭載サーバーの高いパフォーマンスによってサーバー台数そのものを減らすこともできる可能性がある。ラックスペースの削減にもつながり、より大きなTCOの削減効果が期待できる。

 エンタープライズ領域ではセキュリティも気になるところだ。第2世代EPYCプロセッサーでは、CPUとは独立した「AMDセキュアプロセッサー(ASP)」を内蔵しており、“Root of Trust”として、BIOS改ざん攻撃の防止などハードウェアレベルの高度なセキュリティ機能を提供する。

 たとえば、独自の「AMDセキュア・メモリー・エンクリプション(SME)」機能がある。これは、CPUがメモリーにデータを記録する際、あらかじめ暗号化してから記録を行うというものだ。特に最近はメモリーが大容量化し、電源を落としてもデータが保持されるNVRAM(不揮発性メモリー)も徐々に利用され始めている。SMEは、こうしたデータを狙う攻撃者の先手を打って、ハードウェアでデータを保護するものだ。

 もうひとつ、仮想環境向けには「AMDセキュア・エンクリプテット・バーチャライゼーション(SEV)」機能も提供している。これは、ASPが仮想マシンごとに暗号鍵を生成して仮想マシンどうしを隔離し、仮想環境の管理者権限やハイパーバイザが攻撃者に侵害された場合でも、仮想マシンを保護できる仕組みだ。

AMD EPYCプロセッサーはハードウェアレベルの独自セキュリティ機能も搭載している

* * *

 上述したとおり、AMD EPYCは現在、さまざまなベンチマークで世界記録を塗り替え続けている。しかしそれだけでなく、x86サーバー市場の“時代を塗り替える”インパクトすら持つプロセッサーと言えるのではないか。現行の第2世代はもちろん、今後の第3世代、第4世代EPYCの進化にもぜひ注目しておきたい。

 現在、あらゆる企業にデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが求められており、新型コロナウイルスの感染拡大という出来事によって、その動きはさらに加速すると言われている。だが、企業のIT投資が急に増やせるわけではない。そうした状況下で、極めて「経済的」なEPYC搭載サーバーという選択肢があるのは心強いはずだ。

 読者の皆さんがAMD EPYCの実力を具体的に体感するにはどうしたらよいか。これはそれほど難しいことではない。まずはサーバーシステムの見積もりを依頼する際に、「EPYC搭載サーバーで構成するとどうなるか」と尋ねてほしい。その実力が数字として可視化されるだろう。

(提供:日本AMD)

*本稿記載のSPECベンチマークスコアについて:
Best published SPECrate2017_int_base performance as of March 2, 2020.

・AMD EPYC 2P processor scores reflect highest scoring processor at each available core level (core count is per processor):
AMD EPYC 7742 (64C) score of 701AMD EPYC 7642 (48C) score of 572AMD EPYC 7542 (32C) score of 436AMD EPYC 7302 (16C) score of 246AMD EPYC 7262 (8C) score of 134

・Intel Xeon Scalable 2P processors scores using the highest score in each metal class and series excluding the 9200 series (not available in the channel market to purchase):
Intel Xeon Platinum 8280L (28C) score of 364Intel Xeon Gold 6258R (28C) score of 334Intel Xeon Gold 5220R (24C) score of 259Intel Xeon Silver 4216 (16C) score of 186Intel Xeon Bronze 3206R (8C) score of 53.4

・SPEC, SPECrate and SPEC CPU are registered trademarks of the Standard Performance Evaluation Corporation. See www.spec.org for more information.

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