メルマガはこちらから

PAGE
TOP

IT系でも知財活用は時価総額に跳ね返ってくる 企業価値を最大限にするポイントとは

モバイル・インターネットキャピタル株式会社 Chief Investment Officer 元木 新氏 インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンクhttps://ipbase.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。


 モバイル・インターネットキャピタル株式会社は、IT分野のスタートアップへの投資を手掛ける創業20年のベンチャーキャピタルだ。IT領域でも知財の重要性の認識は高まっているが、実際には知財を活用するまでにはなかなか至っていない。資金調達やEXIT時に知財を活用して投資家から評価を得るには、どのような戦略が有効なのか。同社で投資先スタートアップへの知財支援に取り組んでいるChief Investment Officer兼マネージング パートナーの元木 新氏にお話を伺った。

モバイル・インターネットキャピタル株式会社 Chief Investment Officer 元木 新(もとき・あらた)氏
慶応義塾大学大学院理工学研究科 修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科 ビジネス専攻MOT(技術経営)コース修了。日本技術貿易株式会社にて、電気・情報分野の特許/論文情報を利用した調査コンサルティングに従事。技術の先行例調査、特許権侵害防止調査、最先端技術の動向/情報の収集・分析、知財戦略の構想策定・実行支援のコンサルティングを経て、2011年6月からモバイル・インターネットキャピタル株式会社に参画。

VCの視点で創業期からEXITまでステージに応じた知財戦略を支援

 モバイル・インターネットキャピタル株式会社は、IT領域のスタートアップへの投資を目的に、1999年に設立された国内でも老舗の独立系VC。設立から20年間で4号のファンドを設立し、ファンドの累計総額は約250億円を突破。2019年8月には5号ファンドを立ち上げている。投資対象は、通信技術分野からメディアやEコマースなどのサービス領域まで幅広く、シードからプレIPOまで全ステージをカバーしているのが特徴だ。

 元木氏は、出資時の知財デューデリジェンスの充実を図るために2011年から参画。投資をする際の知財デューデリジェンスのほか、EXITに向けて、投資先スタートアップへの知財啓蒙や知財ポートフォリオの整備といった支援活動に取り組んでいる。

 「2011年当時のIT系ベンチャーは知財意識が低かったので、まず知財戦略のミーティングを投資先とは何度も実施しました。最初の目標は特許出願。次に特許出願を活用した資金調達、権利化、ポートフォリオの構築、特許権の活用までを目指しています」(元木氏)

 近年は、IT系スタートアップも知財意識が高まり、特許出願には積極的になっている。ただし、特許権の活用にまでは至っていないため、今後、権利の活用まで進めていくことが課題だと元木氏は強調する。

 また、スタートアップが成長していくと、社内の知財マインドの醸成という課題も発生する。会社が小さいうちは経営者自らが特許出願をするので、事業戦略と特許戦略は一致させやすい。しかし、会社の規模が大きくなり、従業員が特許出願をするようになると、事業戦略を意識せずに無駄な特許を出願してしまうことがある。元木氏は、こうした過程にあるスタートアップに対して、事業戦略と知財戦略の一致、社内に眠っている知財の掘り起こし、組織としての知財マインドの醸成といった課題に取り組んでいるそうだ。

企業価値として知財を最大限に活かすためのポイント

 こうしたスタートアップ知財支援の成功事例として、Webマーケティングの「SHOWCASE」とネット証券「One Tap BUY」の取り組みを紹介してくれた。

 SHOWCASEは、上場時の目論見書に「特許戦略」の項目を記載。IT系の企業が目論見書で特許戦略をアピールするのはかなり珍しいケースだが、参入障壁を作るために特許戦略をしていることがひと目でわかり、機関投資家からの一定の評価を受けたという。「バイオや医療系では当たり前のことですが、IT系でもうまく知財を活用すると時価総額に跳ね返ってきます」と元木氏。

 単に特許を持っているだけでは、投資家には評価してもらえない。スタートアップが知財を投資家へアピールするには、伝え方にも工夫がいる。投資家へのプレゼン資料に、これから進めようとしている事業を包含している特許であると説明できるスライドを入れるのも効果的だ。

 One Tap BUYでは、シード期の支援として、サービスの参入障壁を構築するため、特許出願を実施し、その後、ポートフォリオの構築をサポートしている。One Tap BUYの場合、創業者の林和人氏が知財戦略について考えをもっていたので、元木氏は出願のタイミングについてアドバイスしたそうだ。

 「知財はタイミングが重要です。製品のローンチと特許出願のタイミングは近いほうが効率的。早過ぎるとムダになるケースがあるので、見計らいながらやるのが正解です。同時に将来的なポートフォリオまで考えておくと、知財戦略を進めやすくなります」(元木氏)

 事業戦略に叶う知財戦略を立て、タイミングよく遂行していくには、元木氏のような専門家からのアドバイスがないとなかなか用意ではなさそうだ。スタートアップは早い段階から社内に知財担当者を設置したほうがいいのだろうか。

 「社長が知財を理解していることがいちばん大事です。最初のうちは社長主導で、社内で一定のフローができてから、知財担当者を立てるといいでしょう。インハウスの弁理士を立ててからも、複数の特許事務所と接点を持ち、使い分けできるようにしておくのがベストです」とのこと。

 いずれにせよ、自社と相性の合う弁理士との出会いが必要だ。モバイル・インターネットキャピタルでは投資先のステージや事業目的に合わせて、弁理士や特許事務所の紹介も行なっている。

5G、ブロックチェーン技術で知財の重要性はより高まる

 この数年でインターネットビジネスは大きく変わってきている。モバイル・インターネットキャピタルでは、5Gやブロックチェーンなど、新しい技術を今後の投資のメインテーマとして注目している。当然、それに関連した新しい特許がたくさん生まれてくるので、知財の重要性は今後さらに高まっていくことが予想される。

 たとえば元木氏の分析によると、北米では、ブロックチェーンのSTO(Security Token Offering)領域の特許出願は、2015年くらいから動きがあるそうだ。

 「新しい領域が立ち上がってきているので、アイデアを持っているスタートアップは、しっかりと特許出願してほしい。海外の動向、各国の法制度の流れによっても特許出願の方向性は変わってきます。日本のスタートアップには、これらの対抗策を考え、先回りして特許出願をするくらいの合理性をもってほしい。5Gに関しては、キャリア依存のビジネスにはなりますが、先に特許出願して事業連携で活用するような強かなスタートアップが出てくることに期待しています」とアドバイスした。

 最後に、スタートアップエコシステムの発展に向けた、モバイル・インターネットキャピタルとしての今後の取り組みについて伺った。

 「海外企業への知財のライセンスアウトに挑戦したいです。日本のIT系スタートアップの特許権の海外へのライセンスアウトは過去に象徴的な例がありません。ライセンスアウトのモデルを作り、海外から移転収益をしっかり得られるようになると、スタートアップにとって知財活用の意義はいっそう深まるのではないでしょうか」と展望を語ってくれた。

■関連サイト

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー