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「町中華」がコロナにも負けず、しぶとく生き残る4つの理由

2020年06月19日 06時00分更新

文● 岡田光雄(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

新型コロナウイルスによる影響で飲食業界が大打撃を被る中、「町中華」と呼ばれる地域に根ざした大衆的な中華料理店は意外にも開いている店が少なくない。そもそも町中華は、コロナがはやる前から閑散とした住宅街や田舎町でポツンと何十年も続いていたり、グルメ番組「町中華で飲(や)ろうぜ」(BS-TBS)が人気だったりと、根強いファンが多いビジネスだった。昭和、平成、令和を経てこれだけ多種多様な飲食店が増えたにもかかわらず、なぜ町中華はしぶとく生き残ることができているのか。(清談社 岡田光雄)

町中華に定義はないが、
創業30年以上の店が多い

 町中華とは何か――。その定義は難しい。たとえばラーメンやチャーハンはほぼ確実にどこの店にも置いているが、オムライス、カツ丼、カレーライスなど中華料理とは関係ないメニューを提供している店も多い。

 これまで300軒以上もののれんをくぐってきた「町中華探検隊 隊長」の北尾トロ氏は、「正直、町中華にそこまで明確な定義はないんです。強いていえば、『昔から続いている町の中華料理店』『個人営業やのれん分けでやっている店』みたいな感じですかね。店によっても味はバラバラですが、あのクセになる化学調味料の味付けがなんとなく“町中華の味”を全国統一にしているのでしょう」と説明する。

 町中華の事業者数を表した統計は存在しないため、正確な数字は定かではないが、「町中華全盛期(1970~80年代)と比べると数自体は減っている」という。しかし、このご時世にラーメン店や餃子専門店ではなく、町中華が新規オープンするのはかなりまれなことで、新陳代謝がほぼ皆無な業種だ。また、駅前の一等地をチェーン店が占拠する時代ということを考えれば、見方によっては大健闘しているともいえるだろう。

「この6年間で数々の町中華を回りましたが、創業30年以下の店に出合ったことはほとんどなく、店主の多くが60~70代。今も続けられている店は、競争に勝ち抜いた“勝ち組”というわけです」

大してうまくもないのに
常連客や外国人客でにぎわう

 老舗の町中華店がまだこれだけ生き残ることができている理由の1つ目は「味」だ。

「先ほど化学調味料の話をしましたが、肝心なのはクセになる味付けです。誤解を恐れずにいえば、大してうまいとも思っていないのに、週に1度はなぜか食べたくなる。そんな店にこそ町中華の真髄があると思っています」

 2つ目に「地元の常連客の存在」である。

「基本的に町中華に通う常連客は、引っ越しや転勤がない限りは何十年と同じ店に通い続けます。地元のお客がしっかりついてくれているので店は宣伝する必要もなく、逆に常連客が座れなくなってしまう心配をして、行列ができることを避けるぐらいです」

 3つ目は「家賃や人件費がかからないこと」。

「一昔前まで、町中華店はとても稼げる商売で、出前スタッフだけで3人も雇っている店もありました。その時期に開店時の借金を返し終えて、持ち物件で商売しているところも多くあります。また今は家族経営に切り替えて切り盛りしているところがほとんどなため、人件費や家賃を支払う必要もなく、経営的にも安定しているようです」

 4つ目は、「接客マニュアルがないこと」だ。

「一見、寡黙に見える店主でも、実は話し好きで気さくな人も多いため、そうした人柄や人情を理由に通っているお客さんもいます。また個人店では、店主はテレビを見ながら自由気ままに接客し、いきなり夫婦げんかが始まるなんてこともザラです。そうした光景は、昔から町中華に通う人にとっては日常的に見られる“古き良き”楽しみの1つですが、30代半ばより下のチェーン店しか知らない世代にとっても新鮮に感じるようで、新しいファン層も取り込んでいます」

 またコロナがはやる前は、一部の町中華では外国人客の姿も見られたという。

「たとえば上野や御徒町あたりの町中華では、中国人観光客の団体さんが入っていました。おそらく日本人がアメリカのすし店でカリフォルニアロールを食べるような感覚で、彼らは日本の町中華の味を楽しんでいるのでしょう。よく欧米系の観光客が餃子を食べながらビールを飲む姿も見られましたね」

このまま自粛ムードが続けば
閉める店が相次ぐ可能性も

 ここまでしぶとく続いてきた町中華文化だが、それは今までの話。今後は閉める店が相次ぐ可能性もあるという。その原因の1つが「後継者問題」だ。

「町中華店の代替わりは難しいといわれています。店主のお子さんも料理人であることが多いのですが、店主は『店を継いでくれ』とは言わず、『専門店のほうが今の時代には合うから、ラーメン店をやったほうがいい』とアドバイスするそうです。自分の店ののれんを守りたい気持ちはありますが、数百万円の費用をかけて厨房の機器をリニューアルして後を継がせたところで、長続きできるか心配なのでしょう」

 それに町中華はさびれた場所に立地していることも多い。「今でこそ何でこんなところにわざわざ出店したのか…というような店も見かけますが、創業当初は栄えていたり、立地的に良い場所だったりしたところがほとんどです」。近所の店が時代の流れとともに消えていく中で、町中華だけが生き残ったというケースも珍しくないのだという。

 そして原因の2つ目は「コロナ」と「東京オリンピック・パラリンピック」だ。

「ご高齢の方が多い町中華の店主の中には、『東京オリンピックまで頑張ったら、店を閉めよう』という人も結構いました。そんな最中に起きてしまったコロナ騒動。自粛ムードが漂う中、世間の目も厳しいため店を開けづらく、ご高齢の店主は律儀な人が多いこともあり、急遽店を閉めることにしたというケースも少なからず出てきています」

 夫婦で都内の町中華(席数10席規模、JR中央線の駅から徒歩8分)を営む店主(60代)に話を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「コロナの影響で客足は多少減っている。1日の売り上げの平均は、コロナ前は3万円程度だったが、コロナがはやってからは1万円を切る日もある。うちは持ち物件じゃないので家賃が毎月10万円かかっているが、出前もやっているので何とか持ちこたえている。うちの料理を頼んでくれるお客がいる限り店は開けようと思うが、このまま自粛ムードが続けば今後どうなるかはわからない」

 何十年も続けてきた町中華が、東京オリンピックなどの花道を最後にするのではなく、新型コロナの自粛ムードに押されてひっそりと閉店するというのは何とも切ない話だ。あの“火力”と“化学調味料”で実現する奇跡の味を、10年後も食べられることを願わずにはいられない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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