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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第50回

6月に聴くハイレゾ音源、世界の有名ホールの響きを聞き比べられる音源も

2020年06月14日 12時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送「ミュージックバード」(124チャンネル「The Audio」)で、4月から「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組で、第1日曜日に最新番組が放送。残りの日曜日に再放送が実施される。

収録風景

 ASCIIの連載と連動。麻倉怜士先生とe-onkyo musicの祐成秀信氏と二人で番組をお届します。

『ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第2番 他』
小澤征爾、マルタ・アルゲリッチ、水戸室内管弦楽団

特選

 2017年10月にリリースされたベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番でも演奏と録音にたいへん感動したが、それから2年が経過した同じ水戸芸術館でのライブも、まことに素晴らしい。センターに位置するアルゲリッチのピアノの輝かしいこと。音像的には大きなサイズだが、それはピアノから飛び出す音の粒子の勢いと、その量の多さが豊潤な音像を形成しているということであり、アルゲリッチの躍動的なピアノの魅力を音場、音像で巧みに描く名録音といえよう。軽やかに鍵盤を駆るアルゲリッチのピアニズムが実にリアルだ。古典派の協奏曲なので、エモーションもある範囲内に限定されているが、でも、熱き思いはハイレゾを通じて生々しく聴き取ることができる。ピアノのタッチ感のクリアさ明確さが、何の誇張感もなくビビッドに聴ける。小澤征爾の得意のモーツァルト:ディヴェルティメントK.136の第1楽章は、悠々としたテンポで、沸き立つような生命感に溢れた演奏。録音も臨場感再現が見事。ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第2番は2019年5月28日、その他は2017年5月9日と10日に録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA 96kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music

『The L.A. Network, Ella on our Mind』
The L.A. Network

特選

 カナダの高音質レーベル2xHDの38センチ/秒、2トラックの最新アナログ録音だ。Aubrey LoganとBill Cantosのエラ・フィッツジェラルド作品のデュオ。「アナログらしい」とは使い古された惹句だが、まさに本アルバムの場合は、それしか形容する用語がない。編集やオーバーダブは一切なしというのは、(私たちが主宰している)UAレコードと同じ方針だ。実際問題、楽譜に忠実に音を出さねばならないクラシックでは、部分的な入れ替えは日常茶飯事だが、その場の、その時のノリが最重要視されるジャズの場合は、そもそも編集やオーバーダブは音楽性の観点からそぐわない。瑕疵があった場合は、始めからテイクを録り直すことで対処する。でも、少しの瑕疵より、ノリが最優先される。

 そんな観点から本アルバムを聴く。アナログのしっとりとした音調が、大人のデュエットに似合う。正確な音程による男女歌手のハーモニーは、美しい。現代の録音だから、もちろんデジタルのハイスペックでもよいわけだが、あえてアナログで録ったメリットは、ボーカルの暖かな、ヒューマンな質感と、練り上げられた音の粒子感が何の人工的な痕跡なしに、自然に音場に浮き上がることだろう。実際にはファイルとしてはデジタルのリニアPCMで聴いているわけだが、大元のアナログ性も見事に伝えるのは、デジタルのおかげでもあるのは皮肉でもある。次はぜひLPレコードで聴いてみたい。2019年11月、ロサンゼルスのResonance Records StudiosでSTUDER・A-80・2トラック・レコーダーにて一発録音。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit、2.8MHz/1bit
2xHD、e-onkyo music

『Beethoven Around the World: The Complete String Quartets』
Quatuor Ébène

特選

 画期的なベートーヴェンだ。「画期的な」という意味は多数ある。まずいま世界でもっとも注目されているカルテット「エベーヌ弦楽四重奏団」の弦楽四重奏曲全曲アルバムという音楽的な側面。「エベーヌ」1999年、フランスのブローニュ・ビヤンクール地方音楽院在学中の4人によって結成された弦楽四重奏団。Ebeneとは「黒檀」を意味。弦楽器の指板の材質だ。

 2004年に名門、ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝し、一躍注目を集めた。その後、フランス作品、ブラジル作品、モーツァルト作品など話題のアルバムを続々、リリースしてきた。 弾力感とテンションの高い音楽性にて、作曲者の世界を情熱的に再構築してきたエベーヌ弦楽四重奏団の大プロジェクトが『ベートーヴェン・アラウンド・ザ・ワールド』。

 ニューヨークのカーネギー・ホールからの「2020年にベートーヴェン:弦楽四重奏曲の全曲演奏会を開催したい」 との提案に、「この際、世界で演奏し、録音して遺す」というプロジェクトにしようと発展。2019年4月から2020年1月まで、北と南のアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、アフリカ、インド、アジア、ヨーロッパの各地でワールドツアーを敢行。各場所の最終公演をライブ録音した。このうち、フィラデルフィアのキメルセンター、ウィーン・コンツェルトハウスのモーツァルトザール、サントリーホールのブルーローズ、サンパウロのサーラ・サンパロウ、メルボルンのリサイタルセンター、ナイロビ、フィルハーモニー・ド・パリの録音がアルバムに採用された。つまり本サウンドには、演奏の音だけではなく、会場の音響も同時に録音されている。そうした観点で会場別に聴いてみよう。

1. フィラデルフィアのキメルセンター。 弦楽四重奏曲第1番ヘ長調Op.18-1。直接音がクリヤーに収録され、剛毅で音楽的な表情がディテールまで、こと細かに聴ける。音的には切れ味がよく、立ち上がり、立ち下がりが俊敏。響きは比較的すくなく、直接音の明瞭度が高い。ステレオ感も明確。

2. ウィーンのコンツェルトハウス・モーツァルトザール。弦楽四重奏曲第7番ヘ長調Op.59-1、『ラズモフスキー第1番』7番。ひじょうに響きが多く、深く、楽団のサイズも大きく聞こえる。響きがスピーカー面だけでなく、手前方向にも拡がってくる。発音に豊かなソノリティが加わって、耳に到達する。実に臨場感が豊か。

3. 東京のサントリーホール・ブルーローズ。弦楽四重奏曲第9番ハ長調 Op.59-3『ラズモフスキー第3番』。近接マイクでの収録だろう、ひじょうに直接音が明瞭で、クリヤー度はとても高い。音像の輪郭も明晰。会場の響きは比較的少なく、響きの透明度は高い。そのため、エベーヌ弦楽四重奏団が持つ固有の音色感がより明確に識れる。

4. サンパウロのサーラ・サンパロウ。 弦楽四重奏曲第6番変ロ長調Op.18-6。響きは比較的少ない。ダイレクトな録音態度で個個の楽器の存在感が明確。音像も輪郭もしっかりとしている。剛性の高い空気感だ。

5. メルボルンのリサイタルセンター。弦楽四重奏曲第2番ト長調Op.18-2。響きは比較的少ない。音色的にはグラテーションが繊細で、彩りが高い。左のバイオリン、センターのビオラ、右のチェロと、配置も明確。音場の透明度も高い。オーディオ的にはもっともハイレゾンらしい音調。実に鮮明でハイテンション。

6. ナイロビ。弦楽四重奏曲第4番ハ短調Op.18-4。直接音と間接音がよい案配でバランスしている。ソノリティは豊かで、会場感もリアルだが、楽器発音もしっかりと捉えられている。音の粒子のスピードも速い。剛毅でハイレスポンス。エベーヌ弦楽四重奏団の情熱的な歌いが濃密に伝わる。

7. パリのフィルハーモニー・ド・パリ。弦楽四重奏曲第3番ニ長調Op.18-3。透明度が高く、繊細。響きもそれほど過剰ではなく、直接音は細身で繊細、表情が豊か。

 音楽性とオーディオ性のどちらも堪能できる傑作ハイレゾだ。ぜひ、全曲をダウンロードして聴いてみよう。

FLAC:96kHz/24bit、MQA Studio:96kHz/24bit
Quatour Ebene、e-onkyo music

『and alone』
松尾明

推薦

 ジャガシンガーMAYA氏が立ち上げたAMBIVALENCEレーベルの第1弾。 ビンテージマイクやマイクアンプ、ミキサーを使用、2インチテープによるアナログ録音と……で、音に徹底的にこだわった作品だ。一曲目の「Sonora」。静謐でひじょうに透明感の高いビブラフォンの音色は、聴く者の心に深く染みいる。ビブラフォンからの響きの拡がりが信じられない程の透明感を湛え、打楽器から発せられる音紋が幾重にも年輪のように重なり、音場内に明確な軌跡を残す。それが「見える」ほど、本録音は透明度と解像感が高い。マレットが音板を叩く瞬間の音の立ち上がり、その後の余韻の深さが見事に捉えられている。ごくこまやかな曲想の変化にも、敏捷に反応し、表情が澄明だ。

 録音したDedeスタジオは、私のUAレコードで、78回転のLPシングル「小川理子バリュション」をカッティングしていただいたところだ。録音スタジオも有し、その気になればダイレクトカッティングも可能だ。2019年11月6日、7日に録音。

FLAC:176.4kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:176.4kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
AMBIVALENCE、e-onkyo music

『ヴォイス・オブ・ホープ』
カミーユ・トマ、ブリュッセル・フィルハーモニック、ステファヌ・ドゥネーヴ、マチュー・ヘルツォーク

推薦

 人気急上昇中の女流チェリスト、カミーユ・トマのドイツ・グラモフォン第2弾アルバム。トルコ出身の鬼才ピアニスト、ファジル・サイの新作チェロ協奏曲《ネヴァーギブアップ》の世界初録音が話題。オーケストラの深く豊かなソノリティを従え、センターに安定的に定位した清らかな音色のチェロは静かな、そして深い感情を湛え、高稚なビロードのような質感の静謐な音は、さざなみのように音場に明瞭な波紋を残して拡がる。チェロは、もともと深く思いが表現できる楽器だが、カミーユ・トマのそれは聴く者の心をかきむしるようなストレートなエモーションを発露する。特に歌劇ノルマ: 清らかな女神よ---の熱きセンチメントは、深く心に染みいるものがある。高域の《思い》の籠もりには深く打たれる。

 音質は素晴らしい。チェロを中心にオーケストラがある距離を取って背後に存在し、すべらかで高密度な音のグラテーションが語られる、暖かな、血の通ったチェロの音色をハイレゾの表現力が巧みに伝えている。2019年4月、10月、ブリュッセルのフィルハーモニックで録音。

FLAC:96kHz/24bit
MQA:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon(DG)、e-onkyo music

『ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第1番 & メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第2番』
葵トリオ、小川響子、伊東裕、秋元孝介

推薦

 世界最難関のミュンヘン国際音楽コンクール(2018年)で優勝。室内楽部門では東京クヮルテット以来の快挙だった。暖かな音調、包容感のある音場。まるで小さなホールの前方の席でステージから発せられ、会場のあちこちで豊かな響きを付与された音楽を聴いているイリュージョンを感じる。マイスターミュージックの作品ならではの、楽器の音色を個別的に鮮明に捉えるのではなく、その場で演奏されている直接、間接のサウンドをトータルにキャプチャーする姿勢が、本作でも堅持されている。ピアノ、バイオリン、チェロの3つの楽器の音像はステレオ音場のセンターに蝟集(いしゅう)しているが、音場には豊かなソノリティがあり、ステージは横に広く、奥に深い。2020年1月16日、17日、横浜のフィリアホールで録音。

FLAC:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/24bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『Carol Sloane, Sophisticated Lady』
Carol Sloane

推薦

 アメリカのジャズシンガー、キャロル・スローンのデューク・エリントン作品集。1977年の初来日時の東京ライブで、初発はトリオレコード。そのライナーノーツにジャズ評論家の野口久光氏はこう書いている。「1977年10月、2年半ぶりに来日した≪ニューヨーク・ジャズ・カルテット≫はジョニー・ハートマンとキャロル・スローンというトップクラスのジャズ・ボーカリストを伴ってきたが、初来日のキャロル・スローンがこのコンサートの評判の的になった。第1部でN.Y.ジャズ・カルテットの演奏が大きくスペースをとり、第2部でキャロル、ハートマンが5曲ずつ歌ったが、彼女の歌に期待して行った人にはたった5曲ではいかにも食い足りない。ハートマンがもう一つ乗らず、前回よりもよくなかっただけにキャロルにもっと歌って欲しいと思ったファンは多かったようだ。そういうファンの失望、欲求不満に応えるかのように彼女は短い滞在中に日本で2枚のアルバムを吹き込んで帰った」。

 アナログマスターからのDSD起こし。 2xHDには、この手の変換作品が多いが、さすがはこのレーベル、けだるいエモーションが熱く、そしてクリヤーに聴ける。当時、名録音とされたアナログの極致的な音調は、まさに耳の快感だ。適度に力を抜き、リラックスした大人のボーカルと、潤いと暖かさがあるアナログ的な音調が実にマッチしいる。人肌感覚のボーカルの質感、生々しすぎない、親密さがも、とてもいい。Roland Hannaのピアノが暖かい。この魅惑的な音色美は、PyramixでのDSDリマスタリングが大いに効いていよう。1977年10月16日、東京録音。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:5.6MHz/1bit、2.8MHz/24bit
2xHD、e-onkyo music

『Travels[Live]』
Pat Metheny Group

推薦

 1983年にリリースされたパット・メセニーのライブ名盤が、オリジナルのアナログマスターテープから制作したDSD音源で登場。1982年7月から11月にかけて実施したツアーの模様が収録された今作は、1984年にグラミー賞ベスト・ジャズ・フュージョン・パフォーマンス賞を受賞。1982年のアナログ録音だが、成熟の極のアナログ収録技術はこれほどの高みにあったのかを、目の当たりに確認できる名録音だ。ライブ的な臨場感も十分にあり、各楽器の音像もクリヤーだというオーディオ的評価ももちろんできるが、ステージ上での名手たちの名演奏とはこういうものだという、奏者の間を結んでいる有機的な空気感が聴けるのが、なによりスリリングだ。アナログ→DSD変換系が、この濃密なステージングを生み出しているのだろう。オリジナル・アナログ・マスターテープから制作した2018年DSDマスターを使用。

DSF:2.8MHz/24bit
ECM Records、e-onkyo music

『【BEYOND THE STANDARD】ベルリオーズ:幻想交響曲、黛敏郎:舞楽(96kHz/24bit)』
アンドレア・バッティストーニ、東京フィルハーモニー交響楽団

推薦

 バッティストーニ/東京フィルのコンビは、実演ではハイエモーションで情熱的だが、本シリーズのセッション録音は、むしろ知的で、繊細、そしてウエルバランスなものだ。幻想交響曲の古今東西の録音史を紐解くと、狂気的で過激な熱い音色感のものもあるが、本録音は「BEYOND THE STANDARD」シリーズの持つコンセプトがそのまま聴ける。キーワードが「清涼」だ。ステージングは水平、奥行きにも広く、東京オペラシティ コンサートホールの特質である、厚いが同時に透明感の高い音場の音色が見事に捉えられている。演奏自体はバッティストーニらしくたいそう熱いが、その熱量をリニアに捉えると言うより、知的なオブラートで包み、端正な質感を聴かせる。2018年5月20日、2020年1月21~22日 東京オペラシティ コンサートホールで録音。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
DENON/Nippon Columbia Co.Ltd.、e-onkyo music

『Time』
宇多田ヒカル

推薦

 日本テレビ系日曜ドラマ「美食探偵明智五郎」の主題歌だ。エレピと軽いスキャットで始まり、かなり大きなボリュームでドラムスが入る。センターに睥睨(へいげい)するようにリズムを取るドラムスを背景にボーカルが入るが、ここではむしろドラムスの方が大きなボリュームで聞こえる。さらにエレクトリックベースが加わり、そこにシンセサイザーも入る……と、クレッシェンドを基調にした曲進行が見事だ。浮遊感のあるボーカルは音像も小さいが、進行するに従ってサイズが大きくなり、音密度も高くなる。ハイレゾらしい透明感と抜けのクリヤーにて熱くさを保ちながら、宇多田ヒカルならではの音楽と歌詞が一体になった説得力の濃さにノックアウト。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music

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