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増える「巣ごもりアルコール依存症」、医師が語るお酒との付き合い方

2020年05月30日 06時00分更新

文● 高橋 誠(ダイヤモンド・オンライン

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「巣ごもり」や在宅勤務で過剰飲酒、アルコール依存症が増える危険がある?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

緊急事態宣言は解除されたが、人口全体の60~70%が抗体を持つまで終息しないといわれる新型コロナウイルス感染症。第2波を見据えた医療、経済対策も急務だ。在宅勤務の孤独感が長期化する中、過剰飲酒、アルコール依存症が激増する危険がある。「生活習慣病行動変容」研究の第一人者、東京慈恵会医科大学教授・行動変容外来診療医長・慈恵医大晴海トリトンクリニック所長 横山啓太郎医師に、未曽有の試練を乗り越える処方箋を聞いた。(医療・健康コミュニケーター 高橋 誠)

Zoom飲みで
「ソーシャルドリンカー」になろう

 ソーシャルディスタンス対策は、突然人と人との距離を遠ざけたり、近づけたりした。急にテレワークで家に閉じ込められ、孤独と向き合うことが課せられる。多くのサラリーマンがストレスを溜め込んでいる。適度な距離を保っていた夫婦に、巣ごもりで新たなストレスが生まれた。その結果、飲酒やDVに走ることも起こりうる。距離感の変化によるストレスに対し、どのように行動変容(行動・生活習慣を変えて病気や症状を改善すること)を起こすべきか、その後の人生が変わるかもしれない。

 知人の50代会社員男性は、2日に1本ウイスキーを空ける日々を送っている。アルコール依存症であるから、家族の支えが必要だ。そのためには家庭が円満であることが何よりも大切であり、ソーシャルディスタンスならぬ、適度な“ファミリーディスタンス”も考えなければならない。

 横山医師は「1918年3月、スペインかぜ(インフルエンザ)の症例が米国で最初に報告された。インフルエンザは2年間で米国全土に拡大し、50万人以上が犠牲となった。1920年に米国では禁酒法が発令されたが、市民のアルコールに対する渇望は収まらなかった。人々は品質が悪くても、価格が高くても、闇のアルコールに走った。このように感染症によるストレスと飲酒量は明らかに因果関係がある。マフィアのボス、アル・カポネは禁酒法時代の人間の行動変容を見極め、“酒の密売”でのし上がった」と歴史の教訓を指摘する。

「どうしても飲みたいという場合は、独りで飲酒するのでなく、SkypeやZoomを使ってオンラインで飲み会をするのも良いだろう。“楽しかった”とはまる人もいる。複数人での飲み会なので、せいぜい缶ビールや缶酎ハイ1缶、 ワイングラス1杯、程度の“ソーシャルドリンカー”として節度を保てるメリットがある。独り飲みのアルコール依存症、予備軍の方が、飲酒量を抑えるために試す価値がある」と推奨する。横山医師自身もいち早くオンライン飲み会を実践している。

症状、感情を抑えるために
飲酒する悪循環

 アルコール依存症の患者数は、現在日本国内で80万人以上、その予備軍も含めると約440万人にもなるといわれている。

 アルコール依存症は、一度に大量にお酒を飲む急性アルコール中毒とは異なる。WHOはアルコール依存も薬物依存の一つと考え、「生体と薬物との相互反応から生ずる精神状態および身体状態であって、反応がつねに強迫的である」としている。

 すなわち、飲酒をしないと精神的、あるいは肉体的に耐えがたい状態をアルコール依存症と言う。アルコールが抜けると、イライラして衝動的な感情を抑えられない、他の人を攻撃する、不眠やうつに悩まされる、頭痛、吐き気、下痢、手の震え、発汗、頻脈・動悸などの離脱症状が出てくる。それを抑えるために、また飲んでしまう。

 横山医師は、「自分ももしかすると…と思い当たる方は、アルコール依存症治療で有名な久里浜医療センターの依存症スクリーニングテストで、自己診断されたら如何だろうか?簡単な項目に回答するだけで依存度がチェックでき、行動変容につながる」と提案する。このテストでは面白いことに食事が不規則な方は、それだけで「アルコール依存症要注意群」となり、規則正しい食生活の大切さも示唆している。

アルコールに
頼らないための7つの方法

 厚生労働省が推進する「健康日本21」では、アルコール依存症の発症リスクが少ない「節度ある適度な飲酒」は、壮年男性の場合、純アルコール量換算で1日ビール500ml(日本酒1合弱、25度焼酎なら100ml、ワイン2杯程度)とされている。意外と抑えぎみの指針であり、この範囲に収まらない方は多いであろう。節度ある飲酒を保ち、健康管理を助ける羅針盤として、横山医師が「行動変容外来」で実践している7つの手法を紹介する(『健康をマネジメントする』横山啓太郎著/C.C.C.メディアハウス刊より抜粋)。

1.セルフモニタリング

 ダイエットやアルコール制限は記録することが、成功の基。自分のことをとにかく記録してみよう。

 そもそも、食事の時間も朝食と昼食の間は3時間しか空いていない、という方も多い。本当に空腹を満たすべく食事をしているのか考えてみよう。飲酒にしても同様で、細かく記録することで、惰性で飲むことを制限できることがある。

2.統制法(環境調整)

「飲酒のトリガー」となる刺激を除去し、適切な行動を生起しやすい環境を整える。行為(What)を要因(Why)に結び付けることから始める。

 過度の飲酒に走るときには、まずその要因を聞き出し、除去できるようにする。飲酒量の増加のきっかけが孤独であれば、家族とのコミュニケーションを多くする。要因がストレス発散であれば、飲酒を他の行為に置き換える。例えば、無糖コーラを飲んだり、入浴したりする。

 この過程では、患者に能動的に考えてもらうことが大切だ。3日坊主になりそうなことは行わず、例えば、家でのストレッチも呼吸筋ストレッチなど様々なメソッドを取り入れてみる。新しい趣味や勉強などができるチャンスととらえる。もし挫折しそうになったら、飲酒による結果と代替行為による結果を想像することも有益だ。

3.反応妨害/習慣拮抗法(3分やり過ごすこと)

 問題となる行動をとりたくなったときに、別の行動をとって気を紛らわせる方法のこと。酒を飲みたくなったら、体を動かす、シャワーを浴びる、ガムを噛むなど、飲酒と両立できない行動をとってみる。

4.認知再構成

 酒を飲みたい状況や自分の気持ち、考え、行動を記録し、その結果どのようになったか、他の考え方ができないかを考える。

5.問題解決技法(PDCAサイクル:計画・実行・評価・改善)

 PDCAサイクルに当てはめて解決方法を考えてみる。問題の同定と解決法の列挙(Plan)→ 実行に移す(Do) → 成果の評価(Check)→ 評価を踏まえて改善策を実行に移す(Act)。この一連の流れを繰り返し行う。

6.再発防止訓練

 否定的な考えを積極的・前向きな言動に変換し、再発を防止する方法である。禁酒はできないという否定的な考えを「Jack」と名付け、飲みたくなったら「Jackが来た」と思い、その考えを捨て去ることが良いだろう。

7.モチベーション強化

 Withコロナ時代は、全く異なる価値観が現れ、社会構造も大きく変化することが予想される。アルコール依存症にならないためには、「今の不安を将来の希望に置き換える」ことが必要である。

 逆境に置かれた状況では、「好きなもの」を見失わないことが、目的達成のための資質といわれている。ヴィクトール・E・フランクルは、ナチスの強制収容所で希望を持ち続けた人たちの資質を記述している。その後、その資質をアーロン・アントノフスキーは健康と結びつけ、スティーブン・R・コビーは成功と結びつけている。

 巣ごもり生活で重要なのは、どうやって自己肯定感を育てるかである。この感染症との戦いには、「共存」という形で必ず終わりが来る。

 以上、「アルコール依存症から脱出」する方法である。

飲めないつらさを客観的に見る
10のメンタルシフト法

 私たちは長期化する「Withコロナの時代」を迎え、メンタルシフトをする必要がある。

「毎晩飲み歩いた時代も良かった。しかし今は家に居ながらにしてオンラインで仲間と飲めるので便利で、新たな楽しみになった」

 Beforeコロナの回顧や郷愁は、今の楽しみや希望に置き換えたい。

 最後に、横山医師が自ら実践しているメンタルシフト法を紹介する。

1.つらさ、悲しみを心の外側から見る
2.ネガティブな思考を、その反対側から客観視する
3.空間軸と時間軸を利用する/貴方は貴方のままで良い
4.“気分が良くなる”ものリストを作る
5.他人へのイラツキは、誰かのための親切な行いに転化する
6.自分の置かれた状況への不満は、他者への感謝の気持ちに転化する
7.やる気が出ない時は、まず10分間何かをやってみる
8.自分の時間割を作る/タイムマネジメント
9.湧き出る心配は、「心配タイム」として1日のスケジュールに組み入れる
10.それでもダメなら走る

 つらさ、悲しみ、ネガティブな思考といったワードを「飲酒の欲求」と置き換えると、アルコール依存症からの脱出の一助になるだろう。アルコール依存症とその予備軍の方々が過剰飲酒を抑え、「ソーシャルドリンカー」になるためのエッセンスとして、フィットする項目から実践されたらいかがだろうか。

◎横山 啓太郎(よこやま・けいたろう)
1958年生まれ。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。2016年、大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長に。2019年には寝たきりのリスクを減らす新型人間ドック「ライフデザインドック」を慈恵医大晴海トリトンクリニックにてスタートさせた。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医。主な研究分野は、慢性腎臓病の進展制御と合併症研究、Ca制御機構に関する研究、血管石灰化研究、生活習慣病行動変容。
ブログ「医新伝心」(https://ishindenshinishindenshin.hatenablog.com/)にて、最新情報を発信中。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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