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三陽商会、委任状争奪戦に会社側勝利でもささやかれる「レナウンの次」

2020年05月28日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,相馬留美(ダイヤモンド・オンライン

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“勝利宣言”をする大江伸治社長。委任状争奪戦では株主は会社案を選んだ。大江氏は、在庫管理の徹底と不採算事業の整理と撤収、百貨店の赤字店舗の撤退を、1年で一気に進めると明言している Photo by Rumi Soma

三陽商会と大株主のRMBキャピタルが経営陣の刷新を巡って争った委任状争奪戦は、会社側の勝利に終わった。しかし、新型コロナによる傷は深く、三陽には喜びに酔っている余裕はまったくないようだ。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)

「不退転の覚悟を持って必ずやり遂げたい」。三陽商会の大江伸治新社長は、上機嫌でこう語った。

 5月26日、大株主のRMBキャピタルとの委任状争奪戦に発展した三陽の定時株主総会は、会社案が過半数の賛成を得て幕を閉じた。

 三井物産の口利きにより、元ゴールドウイン副社長だった大江氏が三陽に入社した今年3月、同社は惨憺たる状況であった。2020年2月期の通期決算は4期連続の最終赤字。加えて新型コロナウイルスの脅威が日本でも深刻化し、外出自粛が売り上げを直撃した。

 4月14日の決算発表では、大江氏を新社長とする経営体制の刷新と、抜本的な構造改革を掲げた「再生プラン」を発表した。ところが、RMBキャピタルが異を唱え、経営陣の刷新を求めて委任状争奪戦への参戦を宣言。1カ月にわたる戦いの火ぶたが切られた。

 両者の主張を比較すると、実は争点は少なかった。火種となったのは、中山雅之前社長の処遇である(図参照)。

 今回賛同を得た会社案では、旧経営陣の一人である中山氏が、営業赤字のおとがめもなく副社長として残ることになる。

新型コロナで大幅減収、ささやかれる「レナウンの次」

「株主総会対策に数千万円の費用を使った。中山が辞めてくれれば済んだ話なのに」

 ある三陽の社員はこう嘆く。内部から不満が出るのも無理はない。会社の本業は、新型コロナの影響でぼろぼろだからだ。

 三陽の主力販路である百貨店や直営の路面店が時短営業あるいは休業し、売り上げが激減。結果、売上高の前年同月比は3月が56%、4月は19%にまで落ち込んだ。「シミュレーションでは5月は前年比25%としていたが、それよりは高い数字になると思う」(大江氏)というが、非常に悪い数字であることに変わりはない。

 春夏物仕入れの支払いで、3・4月だけで80億円以上キャッシュアウトしているとみられ、持ち合い株式の売却を進めたり、秋冬物の仕入れを全てストップしたりしており、財務は綱渡りの状況だ。

 さらなる手は、資産の切り売りである。

 一部報道で、東京・銀座にある三陽の旗艦店「ギンザ・タイムレス・エイト」のビルの売却話が伝えられた。ここはかつて三陽がライセンス契約していた頃、バーバリーの旗艦店だった場所である。

 株主総会では、「銀座の一等地にあるビルは一度売却すれば二度と手に入らない。(中略)売却に慎重になるべきでは」と株主からの発言があった。これに対し中山氏は、「不動産や有価証券の流動化を検討している」と答えている。

 三陽の執行部は、実際に売却する方向で動いていた。価格は120億円で、売却先は大江氏と関係が近いとされるヒューリックが候補の一つだった。しかし、「仲介を通じて話は来ましたが、弊社としては興味がなく、交渉は一切しておりません」(ヒューリック広報)。不動産の市況が良くないにもかかわらず、既に不動産売却まで視野に入っていることは確かだ。

 三陽と不動産には深い因縁がある。17年、杉浦昌彦社長(当時)が、逮捕歴のある知人男性に東京・青山の自社ビルを売却しようとしたことで引責辞任。その後、18年に当時人事総務本部長だった中山氏が主導して約33億円で売却した。「数カ月後に100億円程度で転売されたのは社内の“伝説”」とある社員はぼやく。財務・資本戦略を苦手とする三陽が、銀座の不動産を売ってしまえば、虎の子は本社のある東京・四谷の物件くらいだ。

 株主総会で激突したRMBキャピタルは、「ビル売却を経営陣に要求した事実はなく、むしろ売却に断固反対であり、売る必要もないと経営陣に伝えている」(同社の細水政和パートナー)と以前から不動産の売却に猛反対していた。

 資産リッチといわれている三陽だが、新型コロナの傷から脱出できなければ、早晩行き詰まってしまう。

 株主総会直前に956円を付けていた三陽の株価は、会社側が勝ったにもかかわらず、総会終了後にずるずると下がり、26日の終値は897円まで落ち込んだ。

 とはいえ、大江体制は確立した。「中山氏を残したのは、イエスマンで使いやすいからだろう」と三陽の幹部は苦笑する。

 大江氏入社と前後し、常務執行役員をはじめ露骨な降格人事が行われ、一部の反対分子は粛清された。もはや大江氏に盾突く人間はおらず、急速なリストラと構造改革が粛々と実行されることになる。

 1年で百貨店からの150店舗の撤退、赤字店舗の撤退とそれに伴う人員整理など、出血を止める徹底的な規模縮小策だ。

 事業拡大の失敗による赤字の連鎖、百貨店依存と過剰在庫、繰り返される早期退職の募集、株主提案による混乱――。この姿は、1990年代から長らく経営難であり、5月15日に経営破綻したレナウンの姿と重なる。「今後の三陽の生きる道がどこにあるかというと、(中略)ハイエンド、アッパーミドルという方向性」と大江氏は強調した。

 大江氏の古巣のゴールドウインで現在大人気のブランド「ザ・ノース・フェイス」の販売開始は78年。構造改革の果てに描く未来は、時間をかけた高価格帯のブランドづくりだろう。

 しかし、そこにたどり着くまでに待ち構えるのは体力との闘いだ。新型コロナという爆弾を抱え、新生・三陽は前途多難なスタートを切ることになる。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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