このページの本文へ

CEOと製品担当VPが語る社名変更の理由と新たなビジョン、「Claris Connect」の先にある将来像

クラリス「FileMaker 19」発表、クラウドは東京リージョンも提供開始

2020年05月26日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 クラリス・ジャパン(旧社名 ファイルメーカー)は2020年5月21日、ローコードアプリ開発基盤/データベース製品の最新版「Claris FileMaker 19」を発表した。また、FileMakerで開発したアプリ(カスタムApp)をホストできる新世代のクラウドサービス(PaaS)「Claris FileMaker Cloud」を、東京リージョンで提供開始している。

 さらに、昨年8月の社名変更に合わせて提供を開始したワークフロー自動化SaaS「Claris Connect」においては、今回新たに国産クラウドサービスの「クラウドサイン」や「Chatwork」との接続コネクタが追加され、今後もさらに日本市場向けサービスのコネクタを追加していく予定だという。

クラリスは「FileMaker」「Claris Connect」などの製品/サービスを通じて「ワークスペース・イノベーション・プラットフォーム」の実現をビジョンに掲げる(画面はWebサイト)

 米本社Claris InternationalのCEOで、クラリス・ジャパンの社長でもあるブラッド・フライターグ氏は、「今回の新製品/サービスのローンチは、Clarisにとってかなり大きな発表」だと語る。フライターグ氏と米Clarisで製品責任者を務めるシュリニ・グラプ氏に、発表された新製品/サービスの特徴や日本市場での狙いだけでなく、“新生クラリス”の目指す方向性について聞いた。

米Claris International CEO 兼 クラリス・ジャパン 社長のブラッド・フライターグ(Brad Freitag)氏

米Claris International プロダクトマネジメンおよびデザイン担当VPのシュリニ・グラプ(Srini Gurrapu)氏

誰もが使える「ワークプレイス・イノベーション・プラットフォーム」を目指す

 アップルの子会社でクラリス・ジャパンの親会社にあたる米Claris Internationalは、昨年(2019年)8月にFileMakerからの社名変更を行った。それに合わせて、ワークフロー自動化技術を持つStamplay社の買収も発表した。このStamplayが提供していたSaaSが、現在のClaris Connectのベースとなっている。

 フライターグ氏は社名変更に関するブログ投稿において、FileMakerという単一の製品ではなく、問題解決者が能力を十分に発揮できるマルチサービスプラットフォームの提供を目指すことが社名変更の理由だと説明している。

 今回のインタビューでフライターグ氏は、クラリスのビジョンについて、FileMakerによるカスタムAppの開発、Connectによるクラウドサービス間のインテグレーション、そして今後はさらに“インテリジェントオートメーション”の製品を投入し、統合的な「ワークプレイスイノベーションプラットフォーム」を構成することで、顧客におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)をサポートしていくことだと説明した。

FileMaker、Connect、さらに将来のインテリジェント自動化製品を、統合的な「ワークプレイスイノベーションプラットフォーム」として提供していくビジョン

 これまでFileMaker製品では、アプリ開発の高度なスキルを持たない“シチズンデベロッパー(市民開発者)”、ビジネスユーザー層でもカスタムAppを簡単に開発できる、ローコードの開発環境を提供してきた。この方向性は今後も変わらず、Connectやその先に登場する製品においてもターゲットユーザー層は同じだと説明する。

 「今後数年間で、Clarisのコミュニティを(およそ5万人から15万人へと)3倍の規模に拡大すること。それが現在の目標だ」(フライターグ氏)

FileMaker 19:JavaScriptライブラリへの対応でリッチなUIも簡単に実現可能

 それでは今回発表された製品/サービスについて見ていきたい。まずはFileMaker最新バージョンのFileMaker 19からだ。

Claris FileMaker 19の新機能(一部は将来リリース予定)

 FileMaker 19では「プラットフォームが非常にオープンなものになった」とフライターグ氏は説明する。具体的には、スクリプトとWebビューアの機能でJavaScriptをサポートし、既存のJavaScriptライブラリやオリジナルのコードををカスタムAppに組み込み、リッチなインタフェースを実現できるようになった。

 「JavaScriptライブラリに対応したことで、初めてアプリ開発を行うユーザーであっても、地図やアニメーション付きグラフ、ビジュアライゼーションなどの機能をドラッグ&ドロップで組み込むことができるようになった」(フライターグ氏)

スクリプトやWebビューアの機能がJavaScriptに対応。既存のライブラリをドラッグ&ドロップでカスタムAppに組み込める

 また、アップルのAI/機械学習フレームワーク「Core ML」にも対応し、Core MLモデルもカスタムAppに組み込めるようにしている(現状ではアップルのiPhone/iPadやMac上のみで実行可能)。ビルトイン済みのモデルも、ユーザーが独自に作成/カスタマイズしたモデルも利用が可能だと、グラプ氏は説明する。

 「(FileMaker 19では)Core MLのインタフェースを構築した。これにより、たとえば画像認識やオブジェクト認識、オブジェクト検出、レコメンデーションといったAIモデルを、カスタムAppの中へシンプルに組み込めるようになった」(グラプ氏)

 さらに、iOSの「Siriショートカット」や「NFC読み取り」といった機能をカスタムAppで使える機能も追加されており、画面操作の難しい現場でも音声操作でアプリの機能を実行させたり、ICタグや社員証への端末タッチでデータを読み込ませたりすることができる。

アップル「Core ML」のAI/機械学習モデルをカスタムAppに組み込める。また「Siriショートカット」にも対応

 もうひとつ、ローカルのFileMaker Proで開発したカスタムAppをワンクリックでクラウド展開する機能も備えている。これは、後述する新世代のFileMaker Cloudサービスとの組み合わせで実現されるもの。

 今後出荷/追加予定のものとしては、Linux版のFileMaker Server製品、さらに「Web Directオーサリング」機能がある。Web Directオーサリングは、WebブラウザだけでカスタムAppを構築できるという機能だ。

FileMaker Cloud:シンプル、セキュリティ、高可用性を実現した“第2世代”

 今回は、新しい世代(第2世代)のFileMaker Cloudサービスが東京リージョンで提供開始となったことも発表された。これはクラリスがホスト、管理、展開するマネージド環境を使い、ユーザーがカスタムAppをホストできるクラウドサービスだ。

 第1世代のクラウドサービス(FileMaker Cloud for AWS)は2017年から提供されているが、第2世代のサービスはそれとは大きく異なり、PaaSに近いイメージとなっている。前述したとおり、FileMaker 19からワンクリックでカスタムAppをクラウド展開できる。グラプ氏は「シンプルな使い勝手、セキュリティ、高可用性」の3点が第2世代の特徴だと説明する。

 「第2世代のFileMaker Cloudは、シンプルに利用できることを重視して開発してきた。セキュリティやデータのプライバシーといった点はクラリスが責任を持って管理し、ユーザー自身で責任を負わなくてよい。また、可用性についてもクラリスがモニタリングしている」(グラプ氏)

 またフライターグ氏は、「特に日本市場では『日本のローカルデータセンターが使いたい』というニーズが高い」と述べ、東京リージョンでの提供開始によってFileMaker Cloud活用がさらに加速することへの期待を示した。

今回のインタビューはオンラインで行われた

Claris Connect:日本市場でニーズの高いアプリのコネクタも拡充開始

 Claris Connectは、サードパーティ製クラウドサービス間やFileMakerとの間をノンコーディングで“つなぐ”ことにより、ワークフローを自動化するSaaS型ツールだ。グラプ氏は、ConnectもFileMaker Cloudと同じクラウドプラットフォーム上で展開しており、シンプル、セキュリティ、高可用性という特徴は同じだと語る。また今後、東京リージョンからの提供もロードマップに入っているという。

 「FileMakerにはデータAPIがあるが、これまで他のクラウドサービスと統合してワークフロー自動化を実現するためには、スクリプトをかなり作り込む必要があった。Connectによって、これがローコーディングで実現できる」(フライターグ氏)

Claris Connectは、多数のサードパーティ製クラウドサービス間やFileMakerの間をつなぎ、ワークフロー自動化を実現する

 ワークフロー自動化ツールは競合も多い分野だが、その中での強みはどこにあるのか。フライターグ氏は次のように説明する。

 「まず、すでに大きな規模を持つFileMakerコミュニティの存在。これまでもコミュニティからは、他のクラウドサービスとの連携に対して強いデマンドがあった。Connectによってアプリ開発が加速するだろう。また、提供するコネクタの種類も、現在の57種類からさらに拡大していく。そして、将来的にはこれが、あらゆる業務領域における“インテリジェントオートメーション”の基盤となる。単にクラウドサービス間を統合できるだけでなく、この3つが一緒に機能する点が、クラリスとしての強みだ」(フライターグ氏)

 さらに、Connectでは「オンプレミスエージェント」が提供されており、オンプレミス環境にあるFileMaker Serverとも接続が可能だ。

 コネクタに関しては、すでにTwitter、Slack、Dropbox、Box、Twilioなど約50種類をラインアップしているが、今回、日本市場向けサービスのコネクタとしてクラウドサイン、Chatworkも追加された。さらに今後、LINE WORKS、SmartHR、YuMake、PostcodeJP API、駅すぱあとなど、国内ユーザーからニーズの強いのコネクタも開発意向を表明している。

* * *

 各製品/サービスの価格(税抜)は、FileMaker Cloudが月額1950円から(支払いは年単位、5ユーザー以上から)。オンプレミス製品のFileMaker Serverはボリュームライセンスで、ユーザーライセンスの場合1ユーザー/月額で1600円以下(支払いは年単位、5ユーザー以上から)。パッケージ製品のFileMaker Pro 19は希望小売価格が5万7600円。Claris ConnectはEssentials(ライトプラン)が月額1万160円、FileMakerボリュームライセンス購入者向けのFileMaker Plusが月額5130円などとなっている。

カテゴリートップへ

ピックアップ