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コロナでデマとネットリンチを加速したテレビ、専門家が残念な点を指摘

2020年05月21日 06時00分更新

文● 岡田光雄(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

新型コロナウイルスが感染拡大を続ける中での2月末、トイレットペーパーやティッシュペーパーが入手困難になるというデマが拡散され、人々は買い占めに走った。この騒動はあるツイッターの投稿がキッカケで始まったとされており、デマの発信源とされる一般男性は大炎上した。ただし、今回の騒動の元凶は個人ではなく「テレビ」だった。「ネット社会研究」を専門とする東京女子大学現代教養学部の橋元良明教授に聞いた。(清談社 岡田光雄)

トイレットペーパー不足の情報源
半数近くがテレビでツイッターはわずか

「トイレットペーパーとティッシュペーパーが品薄になります」

 これは2月27日にツイッターに投稿された一文。その内容は「トイレットペーパーやティッシュの製造元である中国が生産停止しているため、日本に輸入されてこなくなる」というものだった。しかし実際にはトイレットペーパーの98%が国内生産であり、原材料も国産。在庫は十分な状態だったにもかかわらず、一部の人々は買い占めに走ったわけだ。

 その結果、投稿をした男性は炎上。本人が自宅の住所や電話番号、職場など個人情報をネット上で公開していたこともあってネットリンチの対象となり、偽物のツイッターアカウントまで出現するに至った。

 実は男性が投稿した27日午前10時より前から、既に同様の投稿内容は散見されていた。そのため、彼がデマの発生源であるかどうかは疑わしいのだが、その後に彼のツイートをテレビが注意喚起の趣旨で報じたことにより、事態は最悪の方向に広がってしまった。

 調査会社サーベイリサーチセンターが全国20代以上の男女4700人に実施したインターネット調査「【緊急調査】新型コロナウイルス感染症に関する国民アンケート」(調査期間:2020年3月6日~9日)によれば、「最初に原材料不足によってトイレットペーパーが不足するといううわさを聞いた情報源」は「テレビ」が最多で46.7%、「ツイッター」はわずか8.0%。「トイレットペーパーの品切れが発生している状況を知った情報源」も「テレビ」が36.0%と最多で、「ツイッター」は5.0%だった。

 なぜデマを注意喚起したはずのテレビの影響で、人々は買い占めに走ってしまったのか。それはテレビの報じ方に問題があったからだ。

「トイレットペーパーは中国で生産」
83.5%の人が信じなかった

 当時のテレビによるトイレットペーパー品薄報道について、「ネット社会研究」を専門とする東京女子大学現代教養学部の橋元良明教授は次のように振り返る。

「ネット上にデマが広まった2月末は、コロナの影響でテレワークする人が出始め、もうすぐ学校が休校になるという時期でした。そうした理由から家族の在宅時間が増えるという事情もあり、一部の人々がトイレットペーパーの買い占めに走ったことは事実ですが、それは局地的な話でした」

「そんな中、テレビは買い占めを控えるようにと呼びかけつつも、店の空っぽの棚や行列に並ぶ人々の映像をしきりに流し、まるで『買い占めが日本全国で生じています。もうすぐ買えなくなりますよ。皆さん急いで買いに行きましょう!』と言わんばかりに、視聴者の不安をあおる報道を展開したのです」

 ただし、こうしたテレビ報道を見た視聴者の多くは、デマをうのみにしたわけではない。「自分も動かなければ取り残される」という不安や焦りから買い占めに走ったのだ。以下は橋元教授の研究グループが全国15~69歳の男女(3192人)に実施したインターネット調査の結果だが、これからもその傾向がうかがえる。

【「トイレットペーパーは中国で生産」という情報を信じて購入した人の割合】
信じた(計):16.5%
  信じて、購入した:5.9%
  信じて、購入しようとしたができなかった:4.2%
  信じたが、購入しようとはしなかった:6.4%
信じなかった(計)83.5%
  信じなかったが、購入した:12.9%
  信じなかったが、購入しようとし、できなかった:10.8%
  信じず、購入しようともしなかった:59.9%
    ※購入した・しようとした(小計):33.7%

「今でも多くの人たちは、インターネットよりもテレビの情報の方が信頼度が高いと思っています。しかも文字とは比べ物にならないほど、映像が与えるインパクトと説得力は絶大なため、不安をあおり、都合よく事実を切り取って誇張した報道をすれば、視聴者はそれを事実だと錯覚してしまうのです。

 もちろんテレビ局もそのことを十分理解した上で、そういう報道をしているのでしょう。わざと過激な映像を流し、それについて文化人にコメントさせて権威付けし、視聴率を稼いでいるのです。メディアの責任という観点でいえば、テレビが持つ強い影響力・説得力を使って、トイレットペーパーの1世帯当たりの平均消費量や生産量、在庫数など需給のデータを用いながら、人々に冷静さを求めるべきでした」

 しかし結果を見れば、多くのテレビ局は「中国が生産元なので品薄になる」というデマツイートを引用しつつむやみに情報を拡散させ、視聴者のミスリードを誘い、社会の混乱に拍車をかけ、デマの発信者とされる人物へのネットリンチを加速させたのだ。

横行するネットリンチ
旧2ちゃんねるに学ぶリテラシー

 一方で、ネットリンチの話でいえば、SNSにも問題がある。『ネット炎上の研究』(田中辰雄/山口真一著、勁草書房)によれば、「炎上参加者はネットユーザーの0.5%」にすぎないという。しかし、法治国家日本のネット上では当たり前のように私刑が行われ、大きな話題となる。著名人の炎上やバカッター騒ぎしかり、今回のトイレットペーパー品薄騒動もその典型例だろう。

「日本はムラ社会ということもあってか、SNS上には他人を攻撃することによって日頃の不満やストレスを発散しようとする人がいます。テレビ報道では一般人のツイートがデマの発信源として引用されましたが、そもそもSNSはデマがはびこる場所です。読者の中には、自分が過去にした投稿を読み返したら、不確かな情報の1つや2つをうっかり流していたという人もいると思います。

 そうした投稿もネットやテレビでさらし上げられる可能性が常にあるということを肝に銘じておきたいところ。SNSを使う以上、炎上は“明日はわが身”なのですが、ネットリンチに加担する人はおそらくそういう感覚がないのでしょう」(橋元教授)

 また橋元教授は、デマに翻弄されないためにはニュースソース(基データ)の確認が不可欠だと念を押す。

「基本的には『SNS上の誰かの投稿』など信用せず、気になったことはちゃんとしたニュースソースに当たってから引用することが大切です。たとえその投稿に『NHKによれば~』『行政当局によれば~』などと権威付けされた枕ことばが付いていたとしても、それがウソや間違いかもしれませんからね。

 そうしたネットリテラシーを培うために参考になるのが掲示板の5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)です。元々ユーザーたちの中には大学院卒など高学歴の人が多いといわれており、傾向として権威を振りかざすマスメディアの鼻をあかしてやろうとする気概があります。『ウソをウソと見破る』文化も根付いているのでしょう」

 新型コロナ騒動はまだ当分終息しそうもなく、この先もデマは飛び交うだろう。テレビをはじめマスコミにとって、不安や恐怖は最大のネタなのだ。

 しかし、公共の電波を使うテレビに求められる役割は、国難に直面する今こそ正しい情報をミスリードすることなく多くの人に届けること。それにもかかわらず、一般人のツイートを引用してパニックをあおり、結果的にネットリンチを扇動したテレビは、社会的責任を果たしているといえるのだろうか。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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