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中の人が語るさくらインターネット 第19回

お互いの領域での知見を生かす「学際的研究」が必要な理由とは、熊谷将也氏

材料工学から情報工学への挑戦、さくらのパラレルキャリア研究者

2020年05月18日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: さくらインターネット

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 さくらインターネット研究所 研究員の熊谷将也氏は、大学院で無機材料工学を学び、現在は理化学研究所 革新知能統合研究センター(理研AIPセンター)の客員研究員としても研究活動を行う「パラレルキャリア(=複業)」の研究者だ。さくらインターネットへの入社時に、パラレルキャリアで働きたいと自ら申し出たのだという。

 「材料工学」と「情報工学」という2つの領域を横断する学際的研究アプローチから、これまでになかった視点や創発のきっかけを生み出したいと語る熊谷氏。だが、2領域の研究テーマを追いかけるうえでは「葛藤もあった」と語る。そうした葛藤を乗り越え、いまどんなことを考えているのだろうか。

さくらインターネット研究所 研究員の熊谷将也氏。理化学研究所 革新知能統合研究センターで客員研究員も務める

「パラレルキャリアの研究者」は想定外の働き方だった

 熊谷氏は、2017年4月にさくらインターネット入社、同年6月にさくらインターネット研究所の配属となり、同時に理研AIPセンター 分子情報科学チーム(チームリーダー:津田宏治氏)の客員研究員にも着任している。さくらが2017年1月にスタートさせたパラレルキャリア制度を、初期から活用しているわけだ。

 大阪大学大学院時代の熊谷氏は、博士課程で金属などの無機材料工学、具体的にはエネルギー材料の一種である「熱電材料」の研究を行っていた。熱電材料とは、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換できる(電気を取り出せる)素材のことだ。たとえば自動車エンジンの廃熱活用といった用途が考えられ、変換効率の高い(一定の熱からより多くの電気が取り出せる)新材料を探索し、それを作るのが熊谷氏の研究内容だった。

 こうした研究内容は、インターネットやWeb、クラウドの世界であるさくらインターネットとはかなり“畑違い”のように思える。なぜさくらに就職することにしたのだろうか。

 「実は、高専時代にはプログラミングや画像処理、文字認識といった情報工学を学びました。大学院に進んだのちも、論文研究のかたわら趣味で自分のWebサイトを作ったり、大阪大学の学内ベンチャーで、顧客企業向けに提供するIoTセンサーデータの可視化システムを開発したりもしていました」

 自分のルーツには「新しいモノやコトを作り、世界を変えたい」という想いがあると、熊谷氏は語る。熱電材料を発見することも、Webサイトを開発することも、自分にとってはどちらも「ワクワクすること」であり、さらには研究者と技術者というどちらのキャリアにも興味があった。

 そしてこうした“二足のわらじ”の活動が、材料工学分野での新たな共同研究にもつながっていく。詳しくは後述するが、これは熊谷氏が現在、理研AIPセンターで取り組んでいる研究につながるものだ。

 「2015年の国際学会で東京大学の桂ゆかり先生とお会いしたことがきっかけで、論文研究と並行して、データサイエンスを利用した材料工学(マテリアルズ・インフォマティクス)の共同研究を始めました」

 このように、学生時代は材料工学と情報工学という2つの領域で活動していた熊谷氏。しかし、就職活動の時期を迎えたことで「どちらの道に進むのか」という大きな選択を迫られることになった。

 「あらためて『自分はどちらが好きなのだろうか』と悩み抜いた末に、材料工学も共同研究もあきらめて、情報系の道を選ぶことにしました。インターンでさくらに行き、内定ももらったので、Webエンジニアとして生きていこうと考えていました」

 しかしこのタイミング(2016年12月)で、さくらが「働き方改革」の一環となるパラレルキャリア制度の開始を発表した。まだ内定者の立場だったものの、熊谷氏が思い切って相談してみたところ、会社からは喜んで受け入れられたという。そして配属先も研究所になった。熊谷氏は「自分でも想定外のかたちで働くことになりましたね」と振り返る。

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