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ソフトバンクGが4.5兆円資産売却、「財務縮小」へ急転換の舞台裏

2020年04月01日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,村井令二(ダイヤモンド・オンライン

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新型コロナの影響で金融市場の混乱が予想される中、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は4.5兆円もの保有株の売却に乗り出した Photo:Bloomberg/gettyimages

新型コロナウイルスの感染拡大で金融市場が混乱する中で、ソフトバンクグループ(SBG)が4.5兆円の保有株の売却に乗り出した。紆余曲折を経て、資産を縮小する財務運営に急転換するまでの舞台裏を明かす。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

危機で浮上の「株式非公開化」
株価下落で孫社長の不満がピークに

「いっそ株式を非公開化したらどうか」

 3月23日に総額4.5兆円の保有株売却と計2.5兆円の自社株買いに乗り出したソフトバンクグループ(SBG)は、ぎりぎりの段階まで、究極の「株価対策」を模索していた。

 それが、孫正義会長兼社長が自ら資金を借り入れて市場の株式を買い取る株式非公開化の案だ。関係者によると、3月の3連休の中日にあたる21日までに、SBG幹部の間で議論されたという。

 孫社長が株式の非公開化を検討したのは、これが初めてではない。2008年のリーマンショック後の株価低迷や、傘下の米通信会社スプリントの業績低迷が顕著になった15年にも非公開化が議論されたことが分かっている。

 株価が「異常値」にまで落ち込む度、それに不満を持った孫社長が自ら資金を投じてMBO(経営陣による自社買収)に乗り出す案が浮上したが、いずれも見送られている。それが再び俎上(そじょう)に載ったのは、足元の新型コロナウイルス感染拡大による金融市場の混乱が深刻化している表れでもある。

 コロナショックで株価が下落する以前から、孫社長は、SBGの株価が「実力以下でしか評価されていない」と不満を募らせてきた。19年12月末時点で、中国・アリババ集団、国内通信子会社ソフトバンク、スプリント、英半導体設計会社アームなどSBGが保有する株式の価値は約27兆円だったが、SBGの時価総額はそれを大幅に下回っていたためだ。3月に入って株価が連日下落してその差が一段と広がり、孫社長が「株価対策」に再び動き出した。

 最初に手を打ったのが、3月13日に発表した5000億円を上限とする自社株買いだ。ちょうどSBGに出資する米ファンド、エリオット・マネジメントが最大2兆円の自社株買いを要求していたため、SBGはそれに応じたように見えるが、SBG幹部によると「エリオットの要求よりも、孫さん自身がやりたかったのが実態だ」という。

 だが、その狙いは裏目に出た。米格付け会社のS&Pグローバル・レーティングは17日、自社株買いの発表でSBGの財務の健全性に疑義が生じたとして、格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更。

 さらに、同じ17日にはSBGが米シェアオフィス大手のウィーカンパニーに実施していた最大30億ドル(約3200億円)のTOB(株式公開買い付け)を見直す可能性があると既存株主に通知したことが明らかになり、もともと不安視されていた財務悪化懸念が一段と高まり、株価下落に拍車がかかった。

 19日にはSBGの株価は3年8カ月ぶりの安値に落ち込み、時価総額は6兆円を割り込んだ。通信子会社ソフトバンクの時価総額を下回るレベルで、もはや、アリババ、スプリント、アームの価値は「ゼロ」と評価されたに等しく、SBG内部には激震が走った。こうして究極の策として再び浮上したのが冒頭の株式の非公開化の案だった。

新規の株式投資は抑制
資産売却と手元資金で「巣ごもり」

 結果的に今回も非公開化は見送られたが、その代わりの対策として、2兆円の自社株買いを追加実施する方針に落ち着いた。だが、それに至るまでにもSBG内部で紆余曲折があった。

 内情を知る関係者によると、最初に発表した5000億円の自社株買いで株価下落に不満を募らせた孫社長は即座に、自社株買いを追加投入して市場に真正面から対抗する構えを見せた。だが、それに財務部門の幹部が「待った」をかけたという。

 SBGは2月25日、保有するソフトバンク株を担保にしたマージン・ローンと呼ばれる手法で、金融機関から5000億円を調達。これにより、手元資金は1.7兆円超の水準まで確保しているが、それだけでは追加で自社株を実施するには足りない計算だったからだ。

 20~21年度の2年間に予定する社債償還は約1.5兆円にのぼる。SBGには「少なくとも2年分の社債償還資金を手元に置く」という財務規律があり、これを維持するためには、追加の自社株買いの原資を調達する必要があった。

「本当にこれ以上の自社株買いをやるなら、売るべきものは売って負債を減らしてもらいたい」。追加の自社株買いに前のめりな孫社長に対し、財務部門の幹部が釘を刺したことで、セットで保有株売却の方針がまとまった。

 最後は孫社長の判断により、今後1年間で4.5兆円にものぼる保有株を売却して資金を調達することにした。それと引き換えに実施する自社株買いは計2.5兆円で、これも空前の金額だ。残る2兆円は負債の圧縮や手元資金に充てる。

「新規投資は控えて、手元資金と資産売却でしばらくは“巣ごもり”する」。あるSBGの幹部は、新型コロナの感染拡大で金融市場の混乱が長引くことを見据えながら、「外出自粛」になぞらえる。負債の積極活用で新規投資を増やしてきた拡大路線から、財務縮小への急転換だ。

混乱下での株式売却
空前の実験がスタート

 もっとも、すでにSBGの新規投資は、実態として凍結状態にある。17年5月から運用を開始した10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」は投資枠の上限に達して19年9月末までに新規の投資を終了した。

 2号ファンドは19年7月に1080億ドル(約11.7兆円)の資金が集まる見込みと発表していたが、ウィーカンパニーの経営不振で、資金集めは頓挫した状態だ。現在、2号ファンドはSBGの自己資金の数千億円だけで運用している状態で、外部資金は調達できておらず、新規投資はほとんど進んでいない。

 こうした中で、3月28日には、SBGが出資する英通信衛星ベンチャーのワンウェブが、新型コロナによる市場混乱で資金調達が進まずに経営破綻し、米連邦破産法11条の適用を申請した。

 ビジョン・ファンドの投資先でも、ウィーカンパニーのシェアオフィスや、インドの格安ホテルOYO(オヨ)は、コロナウイルスの感染拡大が需要を直撃するとみられ、投資先の経営悪化が徐々に進行する恐れが高まっている。

 SBGが「巨額の保有株を売却して、大幅にディスカウントされた自社株を買う」(SBG関係者)という判断に傾いたのは、こうした危機のダメージを最小限に抑え込むのが本質だ。今後は、コロナショックで金融市場が混乱する中で、いかに株式売却を実現するかが最大の課題となる。

 1年間で4.5兆円もの保有株を処分する大掛かりな取り組みを実施するにあたっては、売却候補はおのずと限られる。具体的には、傘下のアリババ(2月12日時点の保有価値は16兆円)、ソフトバンク(同4.8兆円)、スプリント(同3.2兆円)の上場3社が筆頭だ。

 また、ビジョン・ファンド1号が保有する上場株8社も売却候補になるだろう。8社の累計投資額は19年12月末で95億8700万ドル(約1兆円)。これらを売却すれば、SBGはビジョン・ファンドの配当収入として現金を確保することができる。

 ただ、格付け会社のムーディーズは、金融市場の混乱の中でSBGが巨額の保有株を売却する点を懸念。「割安な価格で株式を現金化して残った投資先の価値が低下する恐れがある」として、3月25日にはSBGの発行体格付けを2段階引き下げた。

 これに対してSBGは「誤った憶測」と即座に反発し、ムーディーズへの格付け依頼を取り下げて、全面的に対立することとなった。

 今後1年間で投資会社のSBGは、4.5兆円もの保有株を売却して現金を確保して、新たな姿に生まれ変わることができるか。未曽有の危機になりそうなコロナショックに端を発した金融市場の危機を乗り切るために、SBGの壮大な実験が始まる。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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