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マスク寄贈で日本礼賛もその後はバイキン扱いへ、中国共産党の思惑とは?

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今年1月、中国・武漢から始まった新型コロナパニック。当初は対岸の火事とみなしていた日本からマスクを寄贈され、中国では日本礼賛報道があふれたが、その後ムードは一転。中国よりも“ぬるい”対応に終始する日本への批判報道が続出した。共産党の規制がきつく、報道の自由がない中国だから、この変節の背後にも共産党の思惑があるはずだ。

「気持ち悪いくらい」の
日本礼賛から一転して批判へ

中国の主要都市からは人が消えゴーストタウン化した Photo by Sanmiguel.Chikuzen

 中国武漢発の新型コロナウイルスの流行地はヨーロッパへ移った。また、これまで比較的、感染者が少なかったベトナムやタイでも感染者が急増し、歓楽街のネオンが消え、22日からは飲食店の店内飲食が禁止となるほど影響が拡大している。

 主に発生国である中国国内で感染拡大していた1月中旬、まだ日本国内でマスク不足が起こるとは夢にも思わなかったときに、中国の各都市と姉妹都市提携をする日本全国の自治体がマスクなどを寄贈した。

 その影響で中国では、日本を肯定的に報じる報道が埋め尽くした。過去にないくらいの日本礼賛報道と言ってもいい。史実にまったく基づかないファンタジーとして知られる抗日ドラマも、一部放送を取りやめるほどだった。

 中国深セン在住の日本人は、「見ていてむずがゆくなって、ちょっと気持ち悪くなるくらいだった」と報道内容を振り返る。

 しかし、この異例のムードは、マスク寄贈以外にも理由が2つある。1つは4月に予定されていた習近平主席の訪日(その後、3月に入って延期が発表された)を意識した配慮。もう1つは、新型コロナウイルスが武漢から中国全土へ広がったのは、北京政府の初動の遅れや情報隠蔽の結果ではないかという、国内から政府に対する反発への一種のガス抜き的な意味合いもあったとみられる。

 この日本礼賛報道が一変したのが2月末だ。2月28日頃には、日本をバイキン扱いしたり、中国中央テレビ(CCTV)では、マスクをせずに外を出歩く日本人の映像を繰り返し流し、「日本人は危機感がない」「日本政府の対応は甘く、感染を拡大させている」などと批判へ転ずるようになった。

知日派中国人も日本に疑惑の目
中国では徹底した対策を実施

 韓国へのバッシングも起きた。2月25日頃にネットメディアで報じられた「大量の韓国人が中国へ難民として押し寄せる」というフェイクニュースだ。実際には、韓国人ではなく、中国朝鮮族で、官製メディアは「韓国人」「難民」などの表現は使っていない。

 しかし、いかに民間のネットニュースとはいえ、報道の自由がない中国は中央政府が強力な検閲と管理をしているので、当然ながら政府の意向に忖度したものが中心となり、それに反するものは報道することが難しい。

 2月末になると筆者の中国人の知り合いからチャットアプリ「WeChat」で「日本は大丈夫か?」「日本人は危機感がない」「心配だ」というメッセージが次々と届くようになる。

 筆者が日常的に情報交換をする中国人の多くは、日本への留学経験があったり、頻繁に訪日するような、いわば日本をよく知る人たちなので、正直驚いた。

 3月初旬、イランやイタリアで感染者が爆発的に増え始めた頃から、中国政府は「中国は新型コロナウイルスとの戦いに勝利した。今や中国が世界一安全な場所になっている」と、盛んに官製メディアで発信し、10日には習近平主席が初めて武漢入りした。

 加えて、中国が国内向けに言う中国式社会主義(デジタル権威主義)vs民主主義という対立構図を描き出して、民主主義の日本や韓国、欧米は危機管理に欠落があり、大切な国民の命が守れないと、国内へアピールし始めている。

 確かに、中国のコロナウイルス対策は、他国では類を見ないほど徹底されたものだ。1月23日に武漢での現代史でも異例の都市封鎖後、北京や上海、青島、大連、延吉などの地方都市でも部分的な都市封鎖が始まり、現在も継続されている。

 たとえば、人口600万人ほどの大連(中心部は約300万人)などは、官製発表ではもう1カ月ほど感染者が19人から増えていないと強調しているものの、バスや地下鉄は乗車前に検温とマスク装着確認、飲食店は店内飲食禁止、移動制限、マンションの敷地(多くの中国の新しいマンションは小学校のように壁と門で外来者を管理している)に部外者を入れないなど、部分封鎖に近い状態だ。

「一発で倒産」レベルの罰金も
ウイルスより怖いのは当局

 韓国や日本での感染者(クルーズ船での感染者も含む)が増加していると報じられると、マンションの入り口に韓国や日本から来た人の立ち入りを禁止するとの看板も登場するなど、殺伐とし始めた。

 政府によってインターネットへの接続制限が行われている中国だが、VPN(バーチャルプライベートネットワーク)などを通じて日本のサイトやNHK、民放各局のテレビ報道へ接することできる中国在住の日本人ですらも、日本政府の対応は甘い、徹底対応している中国のほうが安全だと口にする人が増えていた。

 3月上旬に複数の中国人に話を聞くと、この新型ウイルスは怖いと、未知なるウイルスへの恐怖を語る。しかし、さらに話を聞いていくと、もっと怖いのは公安や政府など公権力であることも浮かび上がってくる。

 ある飲食店のオーナーは、店内飲食停止の要請があったため、換気して席数を減らすなど注意して営業を続けていたら、公安が踏み込んできて違反営業としてオーナーと客も拘束されたという。スタッフが添乗員として世界中を飛び回る旅行会社では、社員など関係者から1人でも新型コロナウイルス感染者が確認されると一発で倒産するほどの罰金が科されるため、社員を出社させられなかったという話も聞いた。

 文面上は柔らかい文体で書かれていたが、実際は、強制力ある禁止だったわけだ。特に中国は政府や公安の力が強大なので反抗できるものではない。

 まだまだ終息が見えない新型コロナウイルスだが、今回の件で、習近平政権は今後の国内統治への自信を深めたのではないか。つまり、共通の敵に対する恐怖心を巧みに活用すれば、現代でも中国共産党政権が内政をコントロールできると再認識したのではなかろうか。

 中国政府は、大切なのは国民の命を守り抜くことと、最初に国内へ宣言している。政府として当たり前のことをそうも堂々と言われてしまえば、普段はあまり政府を信用していない中国人でも表立って反対できる人は少なくなる。

 海外旅行もスポーツも映画も、すべて政府にとって内政手段の1つという中国が、今回の新型コロナウイルスを最終的にどう終息させるかが、今後の共産党の支配寿命を左右することになるのかもしれない。

(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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