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「リーマン超え」コロナショック、政策対応は長期戦の覚悟が必要

2020年03月25日 06時00分更新

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

ステージが大きく変化
「戦時体制」採った米国

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、欧米などへの爆発的な感染拡大、WHOの「パンデミック」宣言と、世界同時株安で、3月中旬以降、ステージが大きく変化した。

 日本を含めG7諸国でも、2008年のリーマンショック時と同様に国際協調による金融・財政措置が採られつつある。

 特に、米国はまさに「戦時体制」に移行しつつある。

 3月6日の歳出規模83億ドルの追加歳出法の成立、13日の国家非常事態宣言、18日の第2弾の対策法の成立に加え、21日には国防生産法の発動、総額2兆ドル規模の第3弾の対策法の策定、病院船の派遣や軍の野戦病院の開設準備を決めた。

 新型コロナウイルス感染症の脅威を、当初、トランプ大統領が甘く見たことで、初動が遅れ、感染が急拡大、それを受けて株価が暴落、支持率も低下に転じ、11月3日の大統領選での再選に赤信号がともり始めたことが背景にある。

 ただし、欧米の中央銀行や政府の非常時対応にもかかわらず、世界的に株価の下落が止まらない。リーマンショックを上回る世界経済の落ち込みが懸念される事態だ。

コロナショックと過去のショック
金融市場の動揺はリーマン超える

 過去、ショックといえば、2008年のリーマンショック、2001年のITバブル崩壊、1998年の金融危機、同じく1998年のロシア危機、1997年のアジア危機、1990年のバブル崩壊、1978年10月から1982年4月の第2次オイルショック、1973年の第1次オイルショック、1971年のニクソン・ショックなどが発生している。

 大きな危機は、おおむね10年前後で発生している。10年タームは設備投資の循環サイクルにも近いのだが、10年もたつと過去の学習効果が剥落し、バブルが発生しやすくなる点に加え、景気循環等の要因が影響していると考えられる。

 こうした歴史はあるものの、「コロナショック」は、すでに世界の金融市場に対しては、リーマンショック並みないし、それを上回る規模で市場を揺さぶっている。

 シカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー指数、VIXは3月16日には、82.69と、過去最高水準で引けている。これまで、終値ベースの最高値は、リーマンショック後に米議会が自動車業界救済計画の採決を延期した2008年11月20日につけた80.86だった。

 ザラ場での最高値は、2008年10月24日の89.53だが、3月16日には、83.56と、最高値に迫った。

 ショックが起きた後、株価が底をつけたのは、リーマンショック時は、VIX指数の高値から4~5カ月後の2009年3月9日(NYダウ終値ベース、ザラ場では同年3月6日)だった。

 タイムラグがあるが、このコロナショックとリーマンショックを比較すると、VIX指数の上昇も株価の下落も極めて急であることが特徴的だ。

 リーマンショックの背景は、米住宅販売が2005年から頭打ちとなり、住宅価格の上昇が2006年夏に止まったことで、低所得者向けのサブプライムローンの延滞が2007年から増加したことがある。

 2007年8月には、住宅ローン担保証券(MBS)などに投資していたフランス金融大手BNPパリバ傘下のファンドが投資家からの解約を凍結すると発表したことで表面化。2008年になると、米大手投資銀行(第5位)のベア・スターンズが3月に経営危機に陥り、5月にJPモルガン・チェースに買収された。

 9月には、同4位の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11条を申請、経営破綻したことで、デリバティブや資産担保証券価格の大幅下落等を通じた信用危機が世界中に連鎖することとなった。

 その後、金融危機は欧州に伝播、ギリシャなどの欧州財政危機へと拡大、国際金融市場は正常化するまで長期間を要した。

 リーマンショック前の米株価の高値は2007年7月につけており、当初、株価の下落スピードは緩やかだった。また、危機の発端は、米住宅価格の下落であり、その兆候は2006年頃から表れていた。

 加えて、米政府やFRBが当初はリーマン・ブラザーズの救済に前向きだったことで、筆者も含め、リーマンショック後の世界経済への影響が、過小評価された経緯がある。

際立つ伝染や波及の早さ
石油ショックに近い

 それに比べると、今回は展開が全て急である。その違いは、「Contagion(コンテイジョン)」のスピードの差にあると考えられる。

 コンテイジョンという言葉は、欧州財政危機の当時、ギリシャ危機がスペインやポルトガル、イタリア、さらにフランスなどに伝染する可能性を指す意味で多用されたが、本来は、伝染病(感染症)の伝染(感染)を表す用語だ。

 新型ウイルスの伝染スピードは、当然ながら、金融危機、信用危機、財政危機の伝播のスピードよりも極めて早いし、感染による世界経済への波及も、リーマン当時よりも比較にならないスピードで進行している。

 リーマンショック後の個人消費の減退は、米国での住宅価格の下落に続き、株価の下落に伴う「逆資産効果」や雇用の減少などを通じ、徐々に世界に拡散していった。

 今回の場合、米株価が過去最高値をつけたのは、NYダウの場合、今年2月12日、S&P500種指数とNASDAQ総合指数は2月19日と、ほんの少し前までは株価は上昇していた。住宅価格に至っては、最新の統計ではまだ上昇中だ。

 とりわけ今回、消費が急速に減少しているが、それは、COVID-19の感染拡大防止のため、各国政府が都市閉鎖などのシャット・ダウンや日本の自粛要請のように、強制ないし半強制的に、企業や個人の行動を抑制していることに尽きる。

 コンテイジョンのスピードが早いのは従来、大災害や戦争などのショックが起きた時だが、その意味では、コロナショックは第1次オイルショック(第1次石油危機)に近いと考えている。

 ただ原油価格の動きは、石油ショックの時とは真反対だ。当時は原油価格が暴騰する一方、今回は暴落している。

 また、国内だけだが、やや似ているのが、東日本大震災後の状況だろう。

感染症の打撃では
新型インフルエンザ禍に近い

 一方でウイルス感染拡大が経済に打撃を与えた例も過去にも何度か起きている。その中で比べると、規模が小さいが今回に近い状況が、2009年の新型インフルエンザのパンデミック時だ。

 2009年4月に米国で初めて確認された新型インフルエンザA(H1N1/H1N1pdm09ウイルス)は、世界中に急速に感染し、6月、WHOがパンデミック(フェーズ6)を宣言。世界中で15万1700~57万5400人が2009年に死亡したとみられている(米CDC)。

 2010年8月10日にWHOはパンデミックの終息を宣言したが、ただし(H1N1)pdm09ウイルスは季節性インフルエンザウイルスとして、現在でも継続的に流行している。

 新型インフルエンザは若年層に大量に感染したが、基本的に弱毒性であり、季節性インフルエンザよりも、高齢層等の致死率が低く、抗ウイルス薬が効果を示したことから、対策は徐々に縮小された。

 しかし今回の新型コロナの場合は、新型インフルエンザと同様に論じることはできない。(図表1参照)

 WHOの発表では、感染力はインフルエンザよりはやや低いものの、同じコロナウイルス感染症であるSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)等とは比べものにならないほど強い。

 潜伏期間時や軽症者も感染させる力があり、退院後の再陽性の事例も多数確認されている。

 特に致死率に関しては、現時点で4.0%程度と高く、重篤化時は、酸素吸入器や人工呼吸器が必須となることから、患者が多数発生し、医療崩壊が起きた際には、武漢市や現在のイタリアのように、致死率が跳ね上がりかねないなどのリスクが高い。

 しかも、感染者が南半球まで広がった今、SARSのように、北半球の夏に世界中で終息することを期待するのは、すでに無理な状況だ(図表2)。

 現状では、早期のワクチンと抗ウイルス薬の開発と臨床試験を進め、来年までに ワクチン接種と軽症段階での抗ウイルス薬の投与ができるようにするしかない。

 ワクチンの開発は全世界で取り組まれているが、健康な人も接種するワクチンは副作用リスクなどの解明のための臨床試験に最低でも半年はかかる。今シーズンの実用化は困難だろう。

政策対応は「長期戦」
テレワークや有給休暇取得

 こうしたことを考えると、COVID-19対策は長期戦とならざるを得ないだろう。

 対策を考える上での基本的な戦略としては、期限を決めた強力な封じ込め策を実施するか、あるいは長期戦を覚悟した対策を採るか、の2つしかない。

 早期に判断する必要があるが、筆者は現状では長期戦を採る。

 中国国内の状況を見ると一目瞭然だが、強力な封じ込め策で新規の発症者(国内分)が一桁になったといっても、いまだ、北京や上海でも人影はまばらだ。

 海外とは相互に入国禁止や行動制限措置が取られ、企業活動や学校は再開されたとはいえ、会社はテレワーク、学校はオンライン授業の状況だ。

 こうした状況を考えると、中国が大規模な内需拡大策を実施して世界経済の回復をけん引したリーマンショック時のように 日本でも需要回復のために大規模な公共投資などはまずできない。

 日本国内では需要喚起策として消費税率(現行10%)を5%やゼロにすべきとの意見を散見するが、外出制限の中で、消費が増えるのかは疑問だ。

 海外から付加価値税(消費税)の税率をゼロにしろという対策案は聞こえてこない。

 しかも、2019年度と2020年度の税収が大幅な不足となるのは必至の状況で、減税などの原資は全て、赤字国債の発行に頼らないといけないことになる。

 現役世代や将来世代につけ回しするだけであり、またそういう状況で彼らが車を買うなど消費を増やしたり、結婚し多くの子供を持ったりするとは考えにくい。

 それよりは、長期戦を覚悟した対策、具体的には、テレワークや時差出勤、有給休暇の完全取得、オンライン授業等へのシフトによる満員電車の解消、営業時間や入場客を限定したイベント、劇場、映画館、スポーツジムの再開、営業継続などにより、持続可能性の高い政策に切り替えるかという判断が重要だろう。

 そしてその前に、会社の倒産を防ぐための資金支援や失業したサラリーマンやフリーランス、パートタイマーらへの所得補償などは従来とは異なる基準で大規模に実施すべきだろう。

 観光や外食業への補助金やイベント中止等への補償も検討すべきだ。

感染のモニタリングは必須
欧米に比べ検査件数少な過ぎる

 長期戦を戦う上では、国内の感染の広がりのモニタリングが必須だろう。情報なくして、戦略や戦術を立てようがない。

 スイスの製薬大手ロシュは3月13日、同社が開発した新型コロナウイルスの検査システムが米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可(EUA)を受けたと発表した。

 1台で、24時間に1440件ないし4128件の検査能力がある機器が使用可能になり、米国内の研究機関や大学がすでに100台以上を保有しているという。

 トランプ大統領は国家非常事態宣言を発表した記者会見で、「1カ月以内に500万人分の検査が可能になる」としている。

 米国は、国家非常事態宣言で、CDC(疾病管理予防センター)、NIH(国立衛生研究所)、FDA(食品医薬品局)に加え、連邦緊急事態管理庁(FEMA)、生物兵器に対応した軍も出動が可能となり、一気に検査件数が増える可能性がある。

 これ対して日本での検査件数は、2月18日から3月20日までの32日間で3万8601件、1日平均1206件にすぎない(3月22日現在)(図表3)。

 検査の実施に関しては、さまざまな意見があるが、少なくとも、欧米と比較に足るような件数が実施されていないと、海外から透明性に疑念が持たれる可能性が高く、東京オリンピックを含め、今後の日本の政策に対して諸外国に協力や支援を求める際には、マイナスになるのではないか。

 14日の安倍首相の会見では「今月中には、1日当たり8000件まで検査能力が増強できる見込み」とのことだが、早期に検査件数を増やすことを期待したい。

大型の需要対策は
感染終息のめどが立った段階で

 こうして考えると、当面の政策対応としては、感染防止や医療面では、ワクチンや抗ウイルス薬の開発・生産支援や、海外で一般化しつつあるドライブ・スルー検査などの拡充、簡易ベッドを含む感染症病床の大幅拡充、医者や看護師経験者の臨時登用、自衛隊の災害出動準備など、感染予防と感染後の治療体制の整備に戦力を集中投入すべきだろう。

 そして経済面の対応は、当面は対症療法的な止血処理を拡充するしかない。

 売り上げが急減した企業やそのために失業したり収入が大きく減ったりしたフリーランスやパートタイマーらに、資金繰り支援を行うとともに、保険でカバーされない人々には給付金を供与し、当面の生活の糧を得てもらうことだ。

 大震災時の応急仮設住宅への避難者に食料を配給したり、電気代やガス代などを免除したりしたのと同様、従来と異なる発想で実施する必要があろう。

 その後、感染の終息のめどが立った際や、開発されたワクチンの接種がスタートした後、一気に大型の経済対策を実施するという戦略を取る他ないと思われる。

(SMBC日興証券金融財政アナリスト 末澤豪謙)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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