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地方移住の新トレンド、自治体が提案する「お試し移住」って?

2020年03月23日 06時00分更新

文● 真島加代(ダイヤモンド・オンライン

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生活の拠点を地方に移す「地方移住」がライフスタイルのひとつとして定着している昨今。本格的に移住を始める前に、その土地での生活を体験できる“お試し移住”を提案する自治体が増えている。お試し移住の特徴や地方移住の最新事情について聞いた。(清談社 真島加代)

東日本大震災後に
移住希望者が若年化

「お試し移住」にトライして盛岡市のさんさ踊りに参加する移住希望者・ウッチーさん。その後、実際に移住を決めた

 かつての“地方移住”は、リタイア後の中高年が生活の拠点を地方に移すというイメージが強かった。しかし近年は“老後の夢”だけとは限らないという。

「当初の地方移住は、定年退職者が老後のセカンドライフをのんびり過ごすために都市部から過疎地域へ移住する、という流れが一般的でした。移住対策も、一部の自治体が取り組んでいるという状況でしたね。しかし、2011年の東日本大震災をきっかけに、都心から過疎地域への移住を希望する若者が増え始め、流れが変わり始めました」

 そう話すのは、国内の移住や交流情報を発信する「ニッポン移住・交流ナビ」を運営する一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)の平野玲妃氏。一方、2014年に日本創生会議は「2040年には全国896の市区町村が『消滅可能性都市』に該当する」と発表。少子化対策と東京への一極集中対策の重要性が説かれた。

「その後『まち・ひと・しごと創生法』が施行され、各自治体は東京への一極集中を是正して、地方のやる気を引き出す戦略を策定しました。移住者の受け入れ体制の整備が進んだことも、子育て世代や若年世代の移住が増加した要因のひとつと考えられます」

 また、近年の傾向として、過疎地域が抱える課題解決のために起業を志す移住者もいるという。

「ただ、東京一極集中は継続、加速傾向にあり、依然として移住のハードルは高い状況です。今後、地方自治体では、すぐに移住をしたい人だけでなく、将来的に地方に移住したいと考えている『関係人口』の創出、拡大に力を入れていくようです」

 その施策のひとつともいえるのが“お試し移住”だ。お試し移住では、数日間過ごせる宿泊施設を安価に貸し出してもらえたり、地方の企業で就業体験ができたりと、さまざまな方法で“お試し”ができるという。

3日~7日間無料で
住居が借りられる秩父市

 平野氏はお試し移住のメリットをこう話す。

「JOINが首都圏に住む人を対象に行ったアンケート(*)では、移住をしたくないという人の多くが『働き方や暮らし方を変えたくない』と回答しました。やはり、移住先での暮らしが具体的に想像できないと、地方移住への不安を払拭するのは難しいようです。その点、お試し移住ならば実際に地方での居住や仕事を体験できるので、移住後の生活をイメージできるのが大きなメリットですね」

 もちろん、お試しした結果、地方移住の夢を諦めるケースもある。冬の寒さや夏の暑さなど想像以上の過酷な自然環境を体感して断念する人や、仕事面で自分の求める条件が合致しない人など、理由はさまざま。どちらにせよ、観光ではうかがい知れない、地域の環境や特色をしっかり見極める機会になる。

秩父市が提供しているお試し住居・秩父杉の家「絆」。2階の窓からは雄大な緑が望める。「『絆』は、地元工務店が建てたモデルハウスを市が借り上げて移住希望者に貸し出しています」(三ツ井氏)

 実際のお試し移住の事例を紹介しよう。埼玉県秩父市では、お試し居住物件として秩父杉の家「絆」(ホームページはこちら)を提供している。申し込みをして利用許可が下りれば、3~7日間は無料で「絆」を利用できるという(飲食代・消耗品は利用者負担)。

「いきなり移住するのではなく、まずは秩父での暮らしを体験してもらうのが目的。秩父産の杉、檜を使っているのでとてもあたたかい印象です。周囲は閑静な住宅街なので、実際の秩父の暮らしに近い住環境で過ごすことができます」(秩父市役所地域政策課・三ツ井卓也氏)

 2018年7月から提供を開始し、2019年11月末までに78組218人が利用している。秩父圏外に住んでいる人を対象としており、20代カップルや60代夫婦、40代の家族など、利用者層の幅は広い。そのうち、8組13人、利用者の約10%の世帯が秩父市での新生活をスタートさせたという。

「利用者からは『冬にも利用して厳しい寒さを体験したい』、『幼い頃から遊びに来ていた秩父に住みたいと思っていたので、お試し居住を体験しました。厳しい自然環境のマイナス面をいかにプラスに変えていけるかなど、住みたい気持ちと照らし合わせて家族で考えるいい機会になりました』など、真剣に移住を検討する声もありますね」(同・三ツ井氏)

 お試し期間中に物件探しや空き家物件を見て回り、スーパーで買い物をするなど“秩父暮らしの相場”を確認する利用者もいるそう。三ツ井氏は「日帰りや1泊2日ではわからない面を体感してほしい」と話す。

「お試し期間は『秩父暮らしの厳しさ』をぜひ体験してみてください。夏の暑さや冬の寒さは、移住を視野に入れて過ごさないと、なかなか意識できないと思います。7日間もあれば、仕事探しや物件探しにもトライできますよ!」(同)

 盆地の秩父は、都内に比べて“夏は暑く、冬は寒い”街。冬の明け方は氷点下になる日もあるので、そうした住環境の厳しさに目を向けて過ごしてみると参考になるかもしれない。

(*)…2019年4月、首都圏に住む20~50代の男女500人を対象に実施。

働きながら移住を考える
「ワーキングホリデー」も増加

 岩手県では、同県での住み心地と仕事を体験できる「ワーク&ステイPROGRAM ワーホリ! いわて」を実施している。2019年の夏にスタートしたばかりのプログラムだが、U・Iターンを希望する大学生、社会人が参加したという。

「2019年夏は、花巻温泉や岩手ファーム、盛岡の地ビールを造るベアレン醸造所など16の企業が受け入れ先になりました。参加者のみなさんが自ら率先して職場の人や地元の人と交流していく姿が印象的でしたね。体験期間が終わってからも、休日に岩手に来ている学生さんもいます」(ふるさといわてワーキングホリデー事務局・牛崎志緒氏)

岩手県のプログラムでは地元企業での就労も体験できる。ウッチーさんは、盛岡市のさわや書店で7日間働いた

 企業によってまちまちだが、体験期間は2~4週間。参加者には1日3000円の宿泊費と職場までの交通費が支給される。盛岡市にある「さわや書店」で7日間働き、盛岡の伝統的な祭りや盛岡ツアーに参加したウッチーさんは、岩手県への移住を決めたひとりだ。

「最初は不安もありましたが、終了してみればまったく心配無用でした。振り返ると盛岡に住んでいる人、いいなあという感想しか出てきません」(ウッチーさん)

 2020年の年始にも冬季のワーキングホリデーが実施された。ワーキングホリデーには、その地域の住環境を体験しながら地元の人との交流ができるというメリットもあるようだ。

「移住先で新たなチャレンジを志すみなさんを受け入れたいという自治体は、全国にたくさんあります。JOINのイベントをはじめ、自治体が行う就業体験や先輩移住者との交流、物件巡りなど、さまざまなプログラムで交流を深めれば、今抱えている不安が解消されるかもしれません」(前出・平野氏)

 移住するにも、その街の環境や人に触れなければ具体的なイメージはつかめない。少しでも移住の夢を抱いているなら、まずは“お試し移住”にトライしてみるのも手かもしれない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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