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TOB反発の前田道路社長ラストメッセージ「破滅の道、技術者は流出する」 今枝良三・前田道路社長インタビュー

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今枝良三・前田道路代表取締役社長 Photo by Masato.Kato

準大手ゼネコンの前田建設がグループ傘下で道路業界2位の前田道路に対してTOB(株式公開買い付け)を行っている。これに前田道路は猛反発し、「親子ゲンカ」状態。TOBの期限を3月12日に迎える直前、ラストメッセージとして前田道路の今枝良三社長が吠えた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 松野友美)

ホワイトナイト探しは実質断念
「非常にうまくないなぁと」

――前田建設によるTOB(株式公開買い付け)の期限が3月12日に迫っています。前田建設によるTOBに対抗するための「ホワイトナイト」(友好的に買収などを行う第三者)探しはどうなったんですか。

 最初はやっていました。でもね、いろんなシナリオを作ってみたら、TOBに対抗するためには4000億円以上の金が要ると分かった。それだけの資金を調達できる相手方というのは、非常に限られてきます。

 それと、例えばファンドが話に乗ってくれたとして、彼らが株式を売却して利益を得るイグジットをした後、当社には社債が2000億円以上残るんじゃないかと。これは、当社の年間売上高に相当します。

 私たちの世代で返せればいいが、後輩たちにそういう負の遺産を残すというのは、非常にうまくないなぁと。そういう試算をする中で、社員代表である労働組合から反対意見があったのも事実です。

――総額535億円もの特別配当の実施だったり、同業大手であるNIPPOとの資本業務提携の協議開始だったり、矢継ぎ早に策を出してきました。

 僕らは前田建設にTOBを取り下げてほしい。取り下げ事由となるのは、純資産の10%以上が減少した場合。そのために自社株買いをしたら、前田建設にとって前田道路の価値を上げるだけ。で、高額配当の実施を発表した。

 特別配当は1株650円。高額配当の金額をどうするのかというのは、いろんな議論があった。前田建設から自社株買いをやるには540億円くらいの資金が必要になると考えていた(ダイヤモンド編集部注:資本関係解消案として、1月20日に前田建設へ提案していた)。それと同等分を、少数株主さんも含めた現在の株主に、きちっと分配するのが資本の論理だろうと。

 なお、もともと予定していた配当は130億円相当。これは、配当株主価値の向上というか、株主に報いるという面から考えていたものです。

――特別配当は財務を圧迫します。

 うちの会社の一番の魅力は、僕は「人」。社員と彼らのモチベーションを維持できれば、今までの延長線上ならば年間で売り上げ2200億~2300億円、最終利益110億円(税抜き前)くらいを出していける。であれば、特別配当による圧迫は3年間で解消できると思っています。

 経済状況が世界的にも厳しくなることを加味しても、3年~4年のレベルでしょう。ましてやNIPPOとの資本業務提携が進めば、もっと経営効率が上がる。そうすると3年くらいで取り戻せると考えています。これは、先輩たちも言っています。

――前田道路は有利子負債がなく、現預金と有価証券の合計が994億円(2019年3月期)。“金余り企業”と言われます。これまで自社株買いをしてきましたが、将来の成長を考えると、技術投資するなど他にも投資のやり方があったのではないでしょうか。

 まず、談合を機に、いろんなペナルティを受けて事業が停滞した5年間があった。

 それと、われわれの事業は許認可事業の面がある。例えば工場の設置や設備の更新にしても、いろんな制約があって、それをクリアしていくのに数年、下手すれば10年くらいかかる。だからなかなか設備投資ができなかった。

 私が社長になったとき(2015年)にももう潤沢な内部留保があったが、きちっと研究開発に使われていなかった。災害だとかM&Aだとか万が一の時に備えて貯めていこう、という考えもあった。とはいえ、自分たちも投資を、きちっと計画立ててやっていくべきだったとも思います。

――今後の投資計画は?

 発表している通りにいく。大きな局面があればやっぱり変えざるを得ないけれど。この騒動があっても、やっぱり研究開発と設備投資というのは、続けていかなきゃいけない。

――前田建設によるTOBが成立してもですか。

(前田建設に前田道路株の)51%を取られたら、(投資計画は)ない。僕ら(現在の経営陣)も前田道路にいないだろう。

「破滅への道は、
歩まないでください」

――そもそもなぜ、TOBに発展したのでしょうか。

 最初のきっかけは、アクティビストが当社にTOBをかけるから、前田建設がホワイトナイトとしてTOBをしましょうという話だった。これは友好的TOBで、当社の株の51%を取って親会社になりますよ、と言われていた。

 実際、昨年の株主総会の頃から、当社に対してアクティビストは自社株買いの提案などをしてきたりした。でも、アクティビストが「TOBをかける」と公言することはなかった。うちとしては前田建設がそういうふうに思っていただけじゃないかな、とあくまで想像しています。

――TOB期限直前の今、発信したいメッセージは?

 これまで「1回立ち止まってよく考えて」と言ってきました。今ボールを持っているのは前田建設だから、どっちに投げる?どういう球種で投げる?と、前田建設の判断を受け止めるだけ。もう決めなきゃいけないときです。われわれは2000人以上の社員を抱えている。前田建設も4000人以上の社員とその家族の将来を占うようなとき。それから株主さんのことをきちっと考えてください。

「破滅への道は、歩まないでください」と言いたい。本当に冷静になって、先々のことを、思案して判断していただきたい。破滅するか、破滅しないかは、まぁ分からないけども。TOBをそのまま突っ走ったら、お互いに経営的には非常に不利な状況になります。

 前田建設は、たぶんうちの事業のことを分からないと思う。分かっている人は、今、上層部にあまりいない。そうなると、この人手不足の状況下で、うちの技術者などの人材は同業社、行政へ流出するでしょう。どこも人手不足で人材が欲しい状況ですから。

――2月27日に道路最大手のNIPPOと資本業務提携に関して協議を始める発表をしました。前田建設は前田道路との協業を強化しようとしている。ゼネコンよりも同業の道路会社と組むほうがメリットがあるのですか。

Photo by M.K.

 前田建設はよく「シナジー」という言い方をしています。しかし、私は波及効果や相乗効果は同業同士のほうが断然あると思う。少子高齢化の中で、同じ業種と組むことで経営の効率性が高まる。

 ゼネコンは建築の業績が良くて、経営陣も建築主体の人が多い。社長らトップはほとんど建築屋さん。土木主体の会社、経営トップに土木屋さんがいるのは、道路会社。(道路会社同士だと)共通点がいろんなところであり、技術的な面でも話が通じる。そこが重要だと思います。

 うちはもともと、前田建設から分化した会社ではありません。前田道路が苦しいときに助けてはくれた。だから彼らは「恩義があるだろう」という言い方をするけど、もう半世紀も前の話を持ち出すのか、と。今も筆頭株主であり続けて、それなりの配当も出してきた。うちが再上場してからずっと配当を出してきたわけです。その恩恵は、当然筆頭株主(である前田建設)は受けている。もう満足のいくくらいもらったでしょ、というのが僕の本心。

――前田建設の土木部門への評価は?

 土木の売り上げは、うちとどっこい。でも、(前田建設は)「脱請負」と言って、上流の発注者側に近いような仕事を求めているから方向性が違う。僕らは請負業に徹していこうという格好です。ニュアンスが異なります。

 道路会社とゼネコンでは、根本的な考え方がちょっと違う。ゼネコンは、仕事やプロジェクトがあるところで工事をして、利益をとり、売り上げを伸ばしていく。上からバーッと行って、ガバーッと取ってくるような感じ。

 道路会社は、資材の製造もやっているから、地方に拠点がある。当社は、工場と施工の拠点を合わせると、200カ所くらいある。NIPPOは250カ所くらい。道路会社は地方の小さな会社の集合体みたいなものだと思っていただければいいかなと思います。

 僕たちはやっぱり地方に根付いて、手を汚して、額に汗をかいて、請負業に徹するというのが、素直な経営スタイル。前田建設は違うところにメリットなどを求めている。だから、前田建設と一緒にやるとなると、われわれは手足になって、前田建設が上から僕らを使う、というスタイルになるじゃないですか。だから従業員たちは反対しているんじゃないかと思う。

 株主の目線だと、また違う。今の資本構成から見ると、前田建設と一緒になったときの企業価値と、独自でやってNIPPOと協調する企業価値を比べて、賛否が分かれるのかもしれない。

「うちは特別な技術があるわけでも、
特別安い、速い、うまいわけでもない」

――他の道路会社との提携も考えましたか。

 いろんなことは考えた。でもNIPPOの単体の売上高や事業内容を当社と比較すると、多少、工事部門は向こうのほうが大きいけれど規模的には似通っている。だから対等な関係で話ができるというのが一番の魅力でした。規模が違うと、「飲み込まれる」という意識が相手方に働く。それは平等な関係じゃない。

――NIPPOと組むことの具体的なメリットは何ですか。取引先が増えるのでしょうか。

 NIPPOの取引先を分析すると、うちの顧客層とは割と違う。NIPPOは官庁工事の比率が30%くらいで、当社は9%。どちらかというと、NIPPOは大きな仕事。うちは請負金が500万円以下の小規模工事が半分くらいある。工事部門の売上高1500億円の半分くらいを占めているんです。受注先が違う2社が提携するのは、合理性があると思います。

――NIPPOと資本提携するのは、道路会社同士なので市場の寡占になる恐れもあります。

 まだスタートの段階だから、監督官庁に「こういうモデルはどうですか?」という事前相談をしなきゃいけないと思います。それは弁護士も交えて、今から体制づくりを考えたい。

 提携を発表する前に具体的な話はしていません。キックオフの笛を吹きますよ、という発表だったんです。そのように発表しておかないと、「あいつらはまた談合をしているんじゃないか?カルテルしてるんじゃないか?」という疑念を持たれるから。

Photo by M.K.

――地方に根ざした会社として、地方の地場ゼネコンと提携していくことはありますか。

 地場ゼネコン、地場の中小の建設会社との協力体制や付き合いはあります。製品製造部門だと、その地場ゼネコンがお客さんだったりする。その会社が仕事をやりきれなければ、そこの仕事を手伝ったり、技術の提供をすることもあります。逆に、われわれが国などの大きなプロジェクトを取れたとしたら、手伝ってもらうこともある。

 共同出資で会社を作っていくというのもあるし、プラントであればJV(共同企業体)を組んだりするなど、いろんなことができると思います。

――協力関係にある地場の建設業が、NIPPOの協力会社と重なることは?

 ある。競合する部分もあると思います。このあたりはこれから精査します。

 うちの会社はね、特別な技術があるわけでもない。特別安いわけではない。特別速いわけでもない、特別うまいわけでもない。だけど、やると言ったらきちっとやる。そういう評価を受けています。

――それは、他社には真似できないこと?

 うん。それがうちの魅力。公共工事といったら、3月の年度末が忙しいけれど、前田道路にお願いしたら、夜も昼もなく仕事をやってくれて絶対に間に合わせてくれる。悪い言い方だけど「ケツを割って逃げたりしない」という見方をされていると思う。

 数万円から500万円以上の工事でも、どれもやる。大きい工事だけじゃなくて、ちっちゃい工事もやるから信用してもらえる。地元のお得意さんには「1万~2万円の工事もやりますよ」と言っている。駐車場に穴が開いたから穴埋めるとか、コンビニの車止め(縁石)が外れたから直しに行くとか。コンビニの仕事って結構あるんですよ。

――大きな工事が中心のNIPPOから「小さな工事は効率悪いだろう」とか、「もっと稼げる仕事に目を向けろ」などと思われないでしょうか。

 NIPPOの社長にとってはそういうところが魅力だったみたいですよ。実は、僕が名古屋の部長だったころに、NIPPOの吉川芳和社長と一緒に防衛省の仕事をやったことがあるんです。そのとき、事故が起きて、その対応を2人で担当しました。

 それからお互いにポジションが上がって一緒に仕事する機会はなくなりました。今、個人的には年賀状のやり取りくらいですが、かつて苦しい事態を仕事仲間として一緒に乗り越えたという信頼関係がある。あの経験はずっと覚えています。

――TOBが成立したら、NIPPOとの話はなくなりますか。

 分かりません。吉川社長が「シナジーはない」と判断すれば、それはあります。

Photo by M.K.

――今の心境を一言で表現すると?

 …疲れたね。もう追い回されているって感じ。マスコミからも(苦笑)。

 いろんな人からメールをもらいました。OB、前田建設に関係した人、上司だった人、同級生だったり。「頑張れよ」とか。親父も「大丈夫か?」とか聞いてきたね。

 そんな中ではあるけれど、前向きな仕事をやりたい。企業価値を上げるような、みんなのためになるような。その一つが、NIPPOとの資本業務提携です。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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