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ZOZOの次はアマゾン離れ?ナイキ撤退が示唆するプラットフォーマーの綻び

2020年03月08日 06時00分更新

文● 沼澤典史(ダイヤモンド・オンライン

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スニーカーブランド大手のナイキが、アマゾンでの販売を打ち切ることを明らかにした。相次ぐ模造品の流通などに不満が募ったためだというが、この動きは加速するという見方も多い。世界最強ともいわれたアマゾンにほころびが見え始めているのだ。そんなブランドのアマゾン離れの実態や今後の展望を、ファッションビジネスコンサルタントの北村禎宏氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)

脱法行為はOK!?
アマゾンの体質

ナイキに追随するブランドは出るだろうか?カギを握るのは「ビジネス・エシックス」である Photo:AA/JIJI

 GAFAの一角として既存のビジネスモデルを根こそぎ変え始めているアマゾン。ECはもちろん、プライムビデオ、ミュージックなど世界中の人々の生活に密接したサービスを展開中で、もはやなくてはならない存在ともいわれている。

 そんなアマゾンからナイキが撤退すると報道されたのは昨年のこと。アマゾンは巨大なプラットフォームとして、利便性も高く売り上げも見込める販売チャンネルのはずだが、なぜナイキはこのような決断をしたのか。

「ブランドイメージが損なわれるという危機感が大きな要因でしょう。ブランドメーカーは世界でも多くありますが、ナイキはその中でもトップクラス。アマゾン内の模造品の多さなどにより、そのブランドイメージが損なわれていると感じたのでしょう」

 アマゾンではかねて偽物の急増が問題視されてきた。昨年からは偽物の排除を目的としたプログラム「Project Zero」を日本でも開始。商品情報を継続的に自動スキャンすることで偽造品の疑いがある商品を検知するシステムや、ブランドオーナーが偽造品の疑いがある商品をサイト上から削除できる権限を持たせるなどの対策を練っている。しかし、北村氏はこのアマゾンの対応について懐疑的だ。

「きちんと対応していると言いながら、事実上放置に近い状態ではないでしょうか。モール側に直接の法的責任はないですから。ご存じの通り、アマゾンはイギリスでも日本でも法人税を回避しています。“違法行為はしないが脱法行為は否定しない”という遺伝子があるとすれば、真剣に取り締まっているかどうか、大きな疑問が残ります」

プラットフォームへの展開から
ブランドビジネスの本来回帰へ

 ナイキがアマゾンから決別した今回の出来事は、今後のビジネスモデルについて示唆的だと北村氏は指摘する。

「ここ数年で急激に発展したのは、アマゾンや楽天、ゾゾタウンなどのプラットフォームビジネス。ブランド側からすれば、短中期的な売り上げが見込めるため参加する企業も多かった。しかし、そのプラットフォームビジネスによって、皮肉にもブランドビジネスの本来のあり方が見直されるようになってきたのです」

 ブランドには出所表示、品質保証、広告宣伝の3つの機能が備わっている。ナイキやルイ・ヴィトンなど有名ブランドは、これらの機能による「ブランド力」のおかげで価格競争に左右されない。また、消費者も信頼して高い金額を払い商品を購入するのである。これがブランドビジネスの基本的な姿だ。

 しかし、模造品がはびこるアマゾンや値引きが横行するプラットフォームにブランドの商品があると、おのずとその機能や存在意義は損なわれていく。ブランドビジネスモデルが成り立たなくなるのだ。

 同様のケースがゾゾタウンの「ZOZOARIGATO」キャンペーンだ。過剰な値引きキャンペーンによってブランド価値が損なわれると考えた「オンワード」「ミキハウス」「4℃」などの有名ブランドが、次々とゾゾタウンから撤退したのも同様の理由だろう。

「現在、消費者(Consumer)に直接商品を販売する仕組みであるD2C(Direct to Consumer)のムーブメントが広がっています。他社を介さず、自社のECサイトなどで販売する仕組みです。特にアパレル業界は、顧客情報を利用したプロモーションや、商品に販促物を同封するなどして顧客を獲得してきました。Amazonや楽天のようなプラットフォームを通すと顧客情報も提供されず、販促物も同封できない。ネットも発達し、自社サイトで販売、プロモーションができるのに、『なぜアマゾンを通す必要があるのか?』という疑問が生じるのは必然です」

 実際、ナイキは自社サイトとアプリに投資を行っている。国内総合アパレルTSIも自社ブランドサイトの通販に力を入れ、ビームスも直営サイトを全面リニューアルするなど、ブランド力のある企業は独自サイトを拡充させているのだ。

目先の利益とブランドイメージ
選択を迫られるブランド

 北村氏は「ブランド企業の今後は『ビジネス・エシックス』がカギとなる」と話す。
 
「今まではコンプライアンスやCSRなどが叫ばれてきましたが、これからは『ビジネス・エシックス(企業倫理)』が企業にとってキーワードになると思います。エシックスは営利よりも『ブランドかくあるべし』という崇高なもの。そうしたエシックスを貫徹した企業が、社会の信頼や認知を受けて100年企業となっていくでしょう」

 アマゾンによる売り上げを捨ててまでブランドイメージを守ったナイキは、自社のビジネス・エシックスにのっとったということだ。

「そういう意味で、今回ナイキは多くのファンの心をわしづかみにしたと思います。ファンにとっては『ナイキ、アッパレ』という心持ちでしょう。ナイキからすれば、『アマゾンで買う客は、うちの客じゃない』ということです。ブランドビジネスは消費者を選別することでもあります。ナイキは、そのような覚悟を決めたのでしょう」

 今後、ナイキに追随してアマゾンから撤退するブランドは増えるのだろうか。北村氏は「残るも離れるも、どちらが正しいとは言えない」と前置きしつつ、展望を語った。

「アマゾンなどプラットフォームに残って短中期の利益を上げるのもひとつの選択。それとも、目先の利益を捨ててブランドの矜持を保つか。どちらも間違っているとはいえません。ブランドは今まさに、『売り上げか、エシックスか』というジレンマと戦っているんです。ただ、個人的にはゾゾ離れが起きた“前夜”と同じような空気を感じていますね」

 隆盛を誇ってきたプラットフォームビジネスのほころびが徐々にあらわになっている。この流れに我々消費者も無関心ではいられないだろう。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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