プリンターの売上がPCの売上を上回る
このHP Inc.の売上を2013年からの範囲でまとめてみたのが下表で、おおむね500億ドル台の売上をコンスタントに実現している。
HP Inc.の売上(単位:ドル) | ||||||
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年度 | 売上 | 営業利益 | 純利益 | Personal System | Printing | |
2013年 | 552億7300万 | 35億1600万 | 51億1300万 | 321億7900万 | 241億2800万 | |
2014年 | 566億5100万 | 42億5600万 | 50億1300万 | 343億8700万 | 232億1100万 | |
2015年 | 514億6300万 | 39億2000万 | 45億5400万 | 315億2000万 | 212億3200万 | |
2016年 | 482億3800万 | 35億4900万 | 24億9600万 | 299億8700万 | 182億6000万 | |
2017年 | 520億5600万 | 33億6800万 | 25億2600万 | 333億2100万 | 187億2800万 | |
2018年 | 584億7200万 | 38億3100万 | 53億2700万 | 376億6100万 | 208億5800万 | |
2019年 | 587億5600万 | 38億7700万 | 31億5200万 | 386億9400万 | 206億6600万 |
2016年だけ少し落ち込んだが、昨今はまたリカバーしてきており、その意味でも順調と言える。内訳は、Personal Systemsが大体300億ドル、Printingが200億ドルといった比率になっており、割合としても悪くない。
ちなみに2019年の数字であるが、営業利益を部門別にみると、Personal Systemsが18億9800万ドルで営業利益率は4.9%、一方Printingsは32億200万ドル16.0%と段違いである。
もっともPersonal Systemの営業利益率は2018年は3.7%、2017年は3.6%とさらに低かったことを考えると、これでも大分改善されたことになる。いかにPCビジネスそのものが儲からないかという話ではあるが、その中でもいろいろ努力してきたことがわかる。
そのPersonal Systemの売上の内訳が下表である。昔のデータだとこうした詳細が記されていないので、いつからかという話ははっきりしないのだが、2013年の時点でノートPCはデスクトップの売上を上回っており、2019年にはほぼ2倍近い売上比率となっている。
Personal Systemの売上(単位:ドル) | ||||||
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年度 | ノート | デスクトップ | ワークステーション | その他 | ||
2013年 | 160億2900万 | 128億4400万 | 21億4700万 | 11億5900万 | ||
2014年 | 175億4000万 | 131億9700万 | 22億1800万 | 13億4800万 | ||
2015年 | 172億7100万 | 109億4100万 | 20億1800万 | 12億9000万 | ||
2016年 | 169億8200万 | 99億5600万 | 18億7000万 | 11億7900万 | ||
2017年 | 197億8200万 | 102億9800万 | 20億4200万 | 11億9900万 | ||
2018年 | 225億4700万 | 115億6700万 | 22億4600万 | 13億100万 | ||
2019年 | 229億2800万 | 120億4600万 | 23億8900万 | 13億3100万 |
デスクトップの売上そのものが下がったか? というとほぼ横ばいで、その一方でノートの売上が順調に増えていった結果、という感じになっているのがおもしろい。またワークステーションはこれも20億ドルほどの市場規模が常に存在するというのも興味深い。
謎なのは「その他」で、年次報告を見ても“Others”で括られて詳細が不明なのだが、11~13億ドルという数字は「その他」でまとめるには小さくない金額な気がする。おそらくは周辺機器(ドッキングステーションやハブ、ケーブル、USBストレージの類)と思われる。
同様にPrintingの内訳を示したのが下表である。こうしてみると改めて「プリンターというのはサプライビジネス」というのがわかるが、もうインクやトナー、プリンター用紙などが圧倒的に大きい比率になっており、これに比べるとプリンター本体のビジネスはずっと小さいことがわかる。
Printingの売上(単位:ドル) | ||||||
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年度 | サプライ | コンシューマー向けプリンター | ビジネス向け向けプリンター | |||
2013年 | 157億1600万 | 24億3600万 | 59億7600万 | |||
2014年 | 149億1700万 | 23億4500万 | 59億4900万 | |||
2015年 | 139億7900万 | 18億7500万 | 53億7800万 | |||
2016年 | 118億7500万 | 23億5000万 | 40億3500万 | |||
2017年 | 124億1600万 | 24億1200万 | 39億7300万 | |||
2018年 | 135億7500万 | 27億1600万 | 45億1400万 | |||
2019年 | 129億2100万 | 25億3300万 | 46億1200万 |
プリンター本体にしても、コンシューマー向けプリンターは毎年20億ドル程度に過ぎず、ビジネス向けの方が倍以上の市場規模になっている。
もっともHPのビジネス向けプリンターやプロッターは、筆者もかつてお世話になった(建築用のA2図面などは、コンシューマー向けプリンではどうにもならず、HPのプロッターが必須になる)からあまり悪くいうことはできないのだが。
余談であるが、この収益構造がわかると、主要なプリンタメーカーが互換インクベンダーのビジネスを潰しにかかろうとするのも無理ないのがわかる。要するにプリンター本体を売っても売上はさして大きくなく、それよりもインクの売上の方がビジネスにつながるからだ。
そもそもこの「サプライで儲ける」ビジネスをスタートしたのがHPだけに、こうした互換インク対策もある意味万全である。
HPはインクやトナー、そのカートリッジなどに絡めて4000件以上もの特許を取得し、互換メーカーには特許侵害として訴訟を起こすという形でサプライビジネスを守っている。
実際、2005年にはInkCycleとの訴訟が和解、Cartridge Worldに特許侵害を通告といった話がコンスタントに出てきている。
これは別にHPだけではなく、キヤノンやEPSON、Brotherなどでも同じような話は耳にされたことが多いかと思う。
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