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業務を変えるkintoneユーザー事例 第67回

YouTube Liveも行なわれたkintone hiveのトップバッター

「肌触りのよいkintone」が実現した海苔屋の基幹システム

2020年02月26日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 kintoneのユーザーイベント「kintone hive」の季節が今年もやってきた。新型肺炎の影響で開催が危ぶまれた2020年2月25日の「kintone hive nagoya Vol.4」だが、予定通り開催され、YouTube Liveによるオンライン配信も行なわれた。まずはトップバッターである坂井海苔店のkintone事例をレポートしよう。

帳面での管理をExcelに……でも続かなかった

 昨年同様、名古屋駅からもほど近いZepp名古屋で開催されたkintone hive。昨年と同じく挨拶に立ったサイボウズ名古屋所長の吉原克志氏は、チームワークにこだわるサイボウズの紹介や中京地区での活動を紹介しつつ、kintoneの契約者数が1万4000社を突破したことをアピールした。

サイボウズ 名古屋所長 吉原克志氏

 昨年の登壇は4社だったが、今年は6社に増加。しかも応募は12社もあったということで、中京地区でのkintone導入が確実に進んでいることがうかがえる。そんなkintone hive nagoya Vol.4のトップバッターとして登壇したのは地元名古屋にある坂井海苔店の坂井宏氏だ。

坂井海苔店の坂井宏氏

 今年で創業100年を迎えるという坂井海苔店は、海苔の加工・販売を手がける従業員12名の中小企業だ。坂井氏は「今では想像できないかもしれませんが、名古屋湾では海苔が養殖されており、それらを仕入れて販売したのが当社の始まり」(坂井氏)と紹介する。現在は、養殖された海苔を漁業協同組合が検査・等級付けを行ない、入札を経て、坂井海苔店のような業者に卸されている。坂井海苔店では、仕入れた海苔を原料として販売するだけではなく、最終製品として加工して販売しているという。

 坂井氏が坂井海苔店に入社したのは2009年。当時はすべて紙の帳面で行なわれていたため、危機感を持った坂井氏はExcelでの管理を導入した。しかし、作業負荷が重かったため、結局受け入れられなかった。「帳面での管理を止めず、Excelでの業務を推進したため、ただですら大変な作業がもっと大変になり、続けられませんでした。『今の業務で十分なのに、なぜ変えるのか?』という声も社内にありました」と坂井氏は語る。

 同社の従業員の平均年齢は50代で、ITにも弱かった。伝統的な職人気質の会社で、変化を嫌う風潮があったという。また、社内のコミュニケーションも不足しており、目の前の業務を黙々とこなしている状態。もちろん紙の帳面なので、業務全体が見えにくく、必要な情報がそれぞれの頭の中にある属人化した状態だったという。「製造現場では、なにを、いつ、どれだけ作ればよいかという情報が不足しており、担当者に問い合わせが殺到していました。しかも商品点数が増えていたため、情報管理に対応できず、製造停止や作りすぎに陥りました」と坂井氏は振り返る。属人化した業務をいかに標準化するかが、同社の長年の課題だった。

業務の属人化が大きな課題だった

業務フローの作成から工程管理、在庫管理、仕入管理まで

 そんな同社の転機は2017年に訪れた。同社はいわゆるPOSレジを使っていたが、うまく使いこなせず、売り上げを紙に記入していた。集計や会計作業が大変で、当然時間もかかっていた。しかし、たまたま出会ったソフトウェアレジの「AirRegi」を導入したことで、集計時間がこれまでの1/3にまで削減された。この「驚くほどスムーズな業務をみんなで実感した」(坂井氏)という成功体験により、kintone導入の検討にまで歩みを進められたという。

転機はAirRegiの導入だった

 kintone化の課題は、そもそも複雑な業務をkintoneに落とし込むことができるかという不安だった。商品や数量、期日などの製造指示商品の情報共有、作業状態や在庫の確認、顧客ごとに異なる金額算出、異なる消費税への対応、そして配送場所別の依頼票の作成などが、kintoneでどれだけ簡単にできるのか。「もし実現したら、どれだけ業務が楽になるだろう。想像しただけでわくわくする一方、本当にできるのかという不安も大きかった」と坂井氏は語る。

 こうしたkintoneへの業務の落とし込みを実現すべく、まず手を付けたのは業務フローの作成だった。コンサルティング会社とタッグを組んで、業務フローを明確にした後、受注から出荷までの工程管理の改善に取り組んだ。ここで利用したのがkintone上でカンバンボードを実現するアーセスの「KABNAN」だった。「これまでの指示書は単に製造してくださいという指示書で、作業効率を考えることはできなかったが、kintone導入後は作業状態の全体像や商品の状態、優先順位、作業効率を考えた製造ができるようになった」(坂井氏)。現場にiPadを設置した次の日から問い合わせがなくなり、製造依頼をかけた商品が前倒しでできてくるという現象が起こったという。

KANBANによる工程管理で見える化が一気に実現

 利用環境の改善にも配慮した。坂井氏は、「字が小さいからといって、スタッフが取り出したのは虫眼鏡でした。そもそも会社に虫眼鏡があるのが不思議ですが(笑)」というエピソードを披露。そんなアナログな社員たちは、スマホやタブレットも持っていないため、ピンチアウトで拡大表示する方法がわからなかった。そこで使う社員がわかりやすいよう、余計な表示をなくすなど、改善を重ねたという。

 次のチャレンジは在庫管理。ここでは複数の在庫を連携して管理する必要があったため、アールスリーインスティテュートのkintoneカスタマイズツール「gusuku Customine」を活用した。これにより、なにをどれだけ作ったのかを作業日報アプリに書き込むことで、3つの在庫の移動が可能になった。以前は紙の伝票でそれぞれを消し込んでいたが、こうした非効率な作業もなくなったという。

現場日報を作れば在庫が自動的に移動する

 最後は仕入業務の改善だ。今までは仕入れた海苔の数量と単価を仕入表に記入し、顧客の配送先ごとに伝票を書いて、運送会社にFAXしていた。手数料を含んだ顧客ごとの金額も電卓で手計算していたため、時間にしてトータル3時間かかっていた。こちらもgusuku Customineを使って自動転記する仕組みにしたため、落札情報をkintoneに入力するだけで自動計算ができるようになった。顧客ごとへの送付状や原料・仕入台帳にも自動転記できるため、ボタン一発ですべての仕入れ業務が完了するという環境が実現したという。

落札情報を入力すると、顧客ごとの計算や台帳記入も自動化

業務にフィットした完璧なシステムを実現した「肌触りのよさ」とは?

 複数のkintoneアプリから構成されるシステムは、いまや坂井海苔店の基幹システムとなった。在庫管理でモノの見える化を行ない、仕入管理で作業の効率化を実現した。これらの情報がつながり、工程管理で一元的に見えるようになった。

 坂井氏はkintone導入のメリットとして、まず作業時間の短縮を挙げた。「kintoneに業務を移行したことで、作業時間が圧倒的に短縮した。効率的な業務が実現したことで、時間に追われることがなくなった」と坂井氏は語る。

 導入後の変化として大きかったのは「みんなで改善していく」という風土ができあがったことだ。坂井氏はアプリができあがるたびに現場の声を聞きに回っているが、最初の頃は「本当に数字があっているのか?」「ここの数字が表示できない」といった疑いの声が現場であふれていた。また、使いづらいまま使い続けていたユーザーもおり、どうせ改善されないだろうというあきらめ感があった。しかし坂井氏は、とにかく使いづらいところはないか、みんなに聞いて改善を続けた。すると、少しずつ感想や意見や注文が出るようになったという。「自分の意見がきちんと反映されると感じてくれるようになったんだと思う」と坂井氏は振り返る。

アプリができるたびに現場の声を聞き続けた

 こうして坂井海苔店はkintoneの導入により、業務がシンプルになり、見えなくなっていた情報が見えるようになった。結果、意識のギャップがなくなり、お互いを助け合う風土ができ、コミュニケーションに改善した。まさにサイボウズが目指すチームワークの姿と言えるだろう。

 坂井氏はkintoneについて「とにかく肌触りがいい」と評価する。「10年前にこんなことできないかなと考えたことが、いま目の前でkintoneで実現したんですけど、本当に肌触りがいいなと感じています。できあがったアプリを何回見ても、自社の業務フローにあっていて完璧だなと思う。どこから見ても完璧なんです」と坂井氏は語る。

 「肌触りがいい」という感覚は、できあがったkintoneシステムの業務への“フィット感”であり、ユーザーに寄り添ってくれる“使い勝手”と言い表せる。プロフェッショナルとともに作られた自社業務に最適化されたシステムは、まさにオーダーシャツのような肌触りを持つのかもしれない。

 最後に坂井氏は、「スタッフはいまのシステムをさも十年前からあったシステムのように当たり前に使っている。私は開発に携わってきたので、できたものに感動があるけど、みんな当たり前のように使っているんです。もっと感動しろよって思うのですが、そのギャップは今でも埋まらない。でも、なんの違和感もなく、自然に使ってくれていることをうれしく思うし、1年間kintoneを使ってきて本当によかったと思う」と語り、セッションを締めた。

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