コロナウイルスの影響を受け、24日から開催予定だったモバイル業界最大のイベント「MWC」(MWC Barcelona 2020)が中止となった。主催者のGSMAが最終的にイベント中止を発表したのは2月12日のこと。それまでに6回出した声明文を通じて、安全に万全を期したうえで開催すると、繰り返し宣言した後のことだ。関係者はもちろん、地元経済には大きな打撃となっている。
世界から集まる11万人の来場者のうち約5%が中国から
「2月がこんなに静かなのは初めて」――空港近くのホテルの従業員の言葉だ。9年前に南米からやってきた彼女にとって、2月は毎年忙しい月だったという。それもそのはず、この時期にMWCのために、世界200近くの国から11万人近くが、バルセロナに押し寄せるのだから。
中国・武漢で2019年末に確認されたコロナウイルスが急速に拡大している。中国に近いこともあり、日本でも毎日のように新たな感染者の報道があるが、大陸の反対側のスペインではちょっと遠い話ではある。WHO(世界保健機関)は、記事執筆時点でスペインでのコロナウイルス感染者は2人と報告している。
それでもMWCは中止となった。理由は想像に難くない。中国からイベントに参加する人が多いからだ。
2019年のMWC参加者は10万9000人。このうち5000~6000人が中国からという(実際に参加しているともっと多い印象もあるが)。当然、人の動きはウイルスも運ぶリスクがあるというわけだ。
GSMAが最初に声明文を出したのは1月29日、WHOや中国政府、スペインの健康機関の推奨などに従い、万全を期すとしていた。その後、人の行き来の多いところでの清掃や衛生維持の作業を増やすこと、イベント常駐の医療支援を増強すること、来場者が利用できる除菌手段の提供などを対策に挙げていた。また、バルセロナのホテル、輸送機関、レストラン、ケータリングなどに対しても対策を求めていることを強調していた。
EricssonとNokiaの出展中止発表がトドメ
だがそのようなアピールも虚しく、インテル、Amazon、ソニー、LGらが早々に出展中止を発表した。大きな打撃となったのはEricssonの出展中止の発表だ。Ericssonは2月7日、「従業員、顧客、その他の関係者の健康と安全性への責任が最優先事項」として安全性を保証できないことを理由に出展を中止することにしたと発表した(状況を考えると賢明な判断だろう)。
GSMAはすぐに声明文を出し、「Ericssonの出展中止を残念に思う」「Ericssonのキャンセルは我々のプレゼンスにある程度のインパクトを与えるだろう」としながらも、「計画通りに開催する」としていた。背後にはバルセロナ市の強いプッシュがあった。バルセロナ市側も記者発表会を行い、副市長のJaume Collbani氏が万全な対策をアピールしていた
さらにその後、12日にはNokiaが出展を控えると発表した。そしてGSMAがMWCの中止を発表した。1月29日に最初の声明を出してから2週間後のことで、その間6回、予定通り開催すると発表した末の決断だ。中止の告知は英語と中国語で出されている。
MWC中止の決断は賢明だったと思うが(個人的にはもう少し早く中止と判断してほしかったが)、イベント中止が与える影響は大きい。まずは、端末メーカーや機器メーカー。MWCに合わせてさまざまな発表を予定していたが、その機会を失うことになる。
メディアの露出が得られないし、顧客、パートナー、あるいは各国の関係者に一度にアピールできる重要なチャンスがなくなる。その点では、数年前から、MWCの会期前後ではなくその前に米国で最新機種の発表をするサムスンは今年について言えば正しかった。他メーカーも今後は独自にイベントをする動きが広がるかもしれない。
各社は面積に応じて高額な出展料を払ってブースを確保するが、どうやら支払った料金は戻ってこない様子だ。体力のない中小規模企業には結構な痛手に違いない。

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