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マイクロサービスにより保険商材を「モジュール化」

高精度を実現した「クレカ付帯保険チェッカー」開発の舞台裏

2020年02月25日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2019年10月に開催された第9回のX-Tech JAWSでは、InsurTechの舞台裏として少額短期保険を手がけるjustInCaseの2人が登壇。前半は新規サービスに柔軟に対応するためのマイクロサービスの活用、そして後半はクレジットカードに付帯する旅行保険を人してもらうための「クレカ付帯保険チェッカー」開発のトピックだった。

マイクロサービスで異なる算出ロジックに柔軟に対応するjustInCase

 トップバッターは「InsurTechの舞台裏 保険APIと完全ペーパーレスを支えるアーキテクチャ」というタイトルで、少額短期保険を手がけるjustInCase(ジャストインケース) でSREを担当する小笠原 寛明さんが登壇した。「安心の民主化」を掲げるjustInCaseは、テクノロジーによって今まで保険に手が届かなかったユーザーに保険を届けるべく、スマホ保険や熱中症保険など少額単位保険を手がける保険会社だ。

justInCaseの小笠原 寛明さん

 justInCaseが取り組むInsurTechは、「新規ビジネスの創造」と「既存ビジネスの改善」という2つの面がある。いわゆる攻めにあたる新規ビジネスの創造は、たとえば「AIによる保険料のプライシング」や「保険のレコメンド」などが挙げられる。こうした新規サービスを柔軟に開発するため、justInCaseはECSをベースにしたマイクロサービス化を推進している。

InsurTechの2つの側面

 マイクロサービス化を推進するのは、justInCaseの扱うサービスが保険ごとに算出ロジックが異なるからだ。たとえば、スマホ保険ではスマホを安全に扱えば扱うほど保険料が安くなり、逆にスマホの扱いが荒いと加速度センサーを検知して、安全スコアが下がることになる。「マイクロサービス化することで、保険商品をモジュールとして開発できるようにしている」と小笠原氏は語る。

 守りにあたる既存ビジネスの改善は「引き受けや査定の自動化」や、「保険加入から請求までをスマホで完結させる」などが挙げられる。こちらはイベント駆動の仕組みになっており、ユーザーの契約のアクティビティでDynamoDBのレコードが追加・更新されるとLambdaが起動し、契約の事前チェック、ユーザーに向けてのメール送信、社内業務のためのSlack連携などが、まとめて実行できるようにしているという。

「クレカ付帯保険チェッカー開発」の舞台裏

 続いて登壇したのはjustInCaseの吉住 宗朔さん。東工大で飛び級した天才でありながら、声が高すぎるという理由で彼女に振られたというユニークな経歴を持つ機械学習エンジニアだ。確かに甲高い声だが、ちょっとやみつきになる聞き取りやすさだ。

justInCase 吉住 宗朔さん

 justInCaseでの課題感は、クレジットカードに付帯している旅行保険が利用されていないというもの。せっかく無料で利用できるのに、ちゃんと認知されていないために、使用されていないのは確かにもったいない。そこでチャレンジしたのは、手元にあるクレジットカードの種類をAIで識別する「クレカ付帯保険チェッカー」の画像認識機能だ。

 クレカ付帯保険チェッカーの動作はシンプルで、アプリを起動し、手持ちのカードを撮影するとクレジットカードを認識してくれるというもの。上司から「各クレカが1枚ずつないけど、がんばって」と言われた吉住さんは、元データから似たような画像を生成することで学習データを増やすことにした。ゆがめたり、うすくしたり、色味を変えたり、さまざまに加工されたデータで学習を行なったが、精度は33%だった。

クレカ付帯保険チェッカーの動作

 そこで、入力した画像と予測された画像を比較することにした。とはいえ、楽天カードをアメリカンエキスプレスと誤認識するのはどう考えてもおかしい。「色は似ているけど、Rakutenと書いてある時点でどう考えても楽天カードだろう」と考えた吉住さんは、楽天のロゴなどにOCR処理を施し、いったんテキスト化することで認識精度を上げることにした。

 さっそく主要なOCRを調べてみたが、OSSのPyOCRは精度が低すぎて却下となり、Amazon Rekognitionも当時は日本語に対応していなかった。結果的にGoogle Cloud Vision APIを採用。画像からOCRをかけてテキストを抽出しつつ、画像も見やすく加工糸、AIで分析するようにしたところ、精度は95%まで上がった。ここで会場から大きな拍手が起こる。

 システム面で特筆すべきは、継続的な学習を行なうため、途中の予測結果やレスポンスタイム、ユーザーが予想した正解画像をDynamoDBに保存したことだ。これにより、検出精度が低かったカードや想定しなかったカードに関しても、カードのデータを増やして学習し直すことが可能になった。こうした継続的な学習により、リリース当初83%だった精度は100%になったとのこと。パチパチ。

オンラインテストでは100%を達成

 画像認識、OCRの導入、そして継続的な学習というステップで精度を上げてきたクレカ付帯保険チェッカー、ぜひ試してほしい。

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