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STARTUP×知財戦略 第44回

株式会社SHIFT 代表取締役社長 丹下 大氏 インタビュー

ソフトウェア品質保証のプロ集団・SHIFTが活用する特許の別の利点とは

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この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンクhttps://ipbase.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。

 株式会社SHIFTは、ソフトウェアの第三者による検証と品質保証の専門企業として2005年に創立。これまでソフトウェアテストに関する特許など3件を出願している。ソフトウェアのテストは、開発に比べて地味な作業だが、不具合なく快適にサービスなどを稼働させるために欠かせない。また短時間で効果的に検証するには、高い技術を要する。こうした目に見えない技術を可視化するために、SHIFTでは特許を活用しているという。自社技術の保護や資金調達目的だけではない、技術者にとって特許を取る意義とは。株式会社SHIFT代表取締役社長の丹下 大氏に同社の特許に対する考えを伺った。

株式会社SHIFT 代表取締役社長 丹下 大氏
広島県生まれ。2000年 京都大学工学研究科機械物理工学専攻修了。同年、製造業向けコンサルティングファームの株式会社インクス(現:SOLIZE株式会社)に入社。2005年に株式会社SHIFTを設立し、代表取締役社長に就任。
今回のインタビューでは、取締役の小林元也氏も同席。株式会社SHIFTが出願した特許3件は、すべて小林氏が発明出願を行っている

ソフトウェアテストのプロ集団だからこそできる品質保証

 SHIFTは、ソフトウェアを第三者の視点で検証し、不具合のない動作を保証するサービスを展開。現在、金融系、証券の基幹系システムから、ECサイトやメッセージアプリ、ゲームなど身近な製品に至るまで、あらゆるソフトウェアをテストし、品質を支えている。

 ソフトウェアのテストは、開発に比べると地味で時間のかかる作業だ。例えば、ログイン画面でIDとパスワードを入れて次の画面に進む、というだけでも、大文字/小文字などの組み合わせ、使用するウェブブラウザーやOS、端末の機種などあらゆるパターンが考えられる。さらに、ECサイトの場合は、会員/非会員、クレジットカードが有効かどうか、などの組み合わせも発生し、これらのパターンを全網羅すると、6000件ほどのテスト項目が必要だという。

 SHIFTの強みは、通常6000件ほどあるテスト項目から注力すべき項目を選出することで品質を担保しつつも短時間で効率的に検証する技術にある。

 「これまでのテスト実績から蓄積されたデータベースから不具合が起こりやすい部分を重点的にチェックすることで、効率的にテストできるのです」(丹下氏)

 ソフトウェアのテストは、非常に専門性が高い仕事でもある。一般的に、ソフトを開発者するプログラマーは、デバッグ作業にはあまりモチベーションがわかないものだ。また、自分が作ったものは正しく動くだろうというバイアスがかかり、チェックが甘くなりがちである。

 SHIFTの技術者がモチベーション高くテストに取り組めるのは、専門家集団だからこそだ。

 「プログラムを書く仕事が好きな人もいれば、人のつくったものをチェックして綺麗にすることを気持ちいいと感じるタイプの人がいる。僕らはその専門家集団。普通の開発者は退屈な作業でも、好きだからやっていられるのだと思います」

暗黙知の技術を形式化、標準化して、ITで自動化する

 創業者である丹下氏らは、製造業コンサルの株式会社インクス(現:SOLIZE株式会社)の出身だ。インクスは、携帯電話の金型製作の高速化で金型業界に革命を起こしたことで知られる。「従来2ヵ月かかっていた金型の製作工程を2日に短縮すること」を実現した会社だ。同社はこのノウハウを活用しコンサルティング業へと発展した。

 職人の暗黙知である技術を形式化し、それを標準化して、ITに落として自動化する。製造業から、モノの形がないソフトウェアへと対象は変わったが、いまも考え方は同じだという。

 SHIFTは、ソフトウェアテストに関する特許を2011年に出願している。一般的に、ソフトウェア特許はあまり効果がないとも言われている。特許を侵害されても証明が難しく、裁判になれば時間やコストがかかる。それでも積極的に特許を出願する理由を聞くと、丹下氏は別の目的を答えてくれた。

 「とはいえ、特許があることで少なからず抑止力にはなります。もう一つの理由は、『この技術を最初に考えたのは僕らです』というのはプライドとして出すべきだと思うからです。僕らのアイデンティティーは技術。技術がないと利益は生まれないので、その証明として出したかった」(丹下氏)

 SHIFTの特許発明者である小林氏は、「属人的だったテスト業務を技術として確立するために、その作業1つ1つを分解・仕組化することで、特許化できるまでそのロジックを追求し、SHIFTのテスト技術の礎を創りました。今でもSHIFTでは、その礎をベースにテスト設計を行い、テストに関するデータを溜めて資産化しています」と説明する。

 特許申請をするプロセスの中で、新規性の有無も明確にわかる。出願前に類似特許を調べれば、他社の出願状況から自社の志向性や技術力を冷静に測ることもできる。ソフトウェアは見えない技術だからこそ、可視化されることにメリットがある。

技術者にとって自分の発明を世に出すことが最大のインセンティブ

 SHIFT社内でも、積極的に特許を出すように促しているという。

 「僕たちが技術に注力していることを社内外にアピールするには、特許の数が重要。特許を出すプロセスを通じて、新しいものを生み出すことや、会社の存在意義を考えられる。」(丹下氏)

 R&DではKPIの設定が難しい。SHIFTでは、「3ヵ月で売上が立つもの」を指標としているが、開発した技術をお金にする手段が見つからないことも往々にしてある。そこで、すぐに売り上げに繋がらない技術であっても、新たな技術、丹下氏いわく「Wow!」を評価するため、特許の出願を促進しているそうだ。

 「売上にはつながらないが、社内の技術力を宣伝することはできるかもしれない。それだけでも十分価値がある。ハッカソンみたいに、面白い技術からコラボが生まれたり、サービスとしてブラッシュアップしたりする可能性もあります」

 こうした考えに至った理由を聞くと、「モチベーションがないと、優秀な技術者は辞めてしまいます。Googleのような20%ルールは無理だとしても、会社の設備を使って自由に研究できる環境を用意することは、優秀な技術者を育てるために大切です」と丹下氏。

 加えて、もともと製造業出身だったこともあり、技術を示すには特許が必要、という感覚があったそうだ。

 「一般の社員には、インセンティブを付けたほうがいいと思います。僕はインクス時代に2、3個の特許を出願したのですが、自分が言い出しっぺであることを社会的に証明してもらうには、特許はわかりやすい。技術者のアイデンティティーはそこにあるのではないでしょうか。研究者や技術者は収入を得るよりもNature誌に載る、ノーベル賞を取るといった名誉や、学会に発表して自分の研究が世の中で使われることを目標にしている人も少なくない。特許もそのひとつです」

 技術者にとって、自分が発明した特許をパテントで使ってもらえるほどうれしいことはない。世の多くの人に使ってもらえるのは何事にも代えがたいインセンティブだ。

 今のところ、社内で特許を出願した社員には3万円の報奨金を支給しているが、その発明が収益に繋がったら、さらにリターンとして給料に反映することも考えているそうだ。「僕は、技術者の給料を上げたい。特許で収益が上がれば、売り上げの1%を発明者に支給することも検討しています。そうでなければ、やる気が出ないと思いますよ」

DXをエンジンに新しいサービスを量産する

 いま多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しているが、その方向性に丹下氏は懐疑的だ。

 「DXでコストを削減しようという思考ではアウト。いまはユーザーの嗜好が多様化しており、大量にサービスを出さないといけない時代。大企業は予算を区切り、1つのサービスに集中して使おうとしがち。今は数100個のサービスをつくらないと生き残れません。DXはコスト削減のためではなく、新しいサービスを次々と出すためのインフラエンジンとして使うべきです」(丹下氏)

 AWSの登場により、従来は2000人月かかっていた開発が、たった1人のエンジニアでも作れるようになった。18世紀に産業革命で大量生産が可能になったように、情報革命によって大量にサービスを生み出せるエンジンを手に入れたのだ。DXを単に古いシステムからの置き換えや、業務効率の向上のために導入する企業が多いが、それでは事業は発展しない。新しいシステムをエンジンに、より速く、大量のサービスを作ることが重要なのだ。

 実際、手にしたエンジンによって、AIやIoTなど新しい技術やサービスが次々と生まれている。時代の変わり目だからこそ、これらの特許を押さえていくことは生き残るためのカギになる。

 顧客であるソフトウェアメーカーのグローバル展開には、SHIFTのテスト・品質保証が役立っているそうだ。

 「最近はAWSを使ってSaaSでサービス提供しているので、最初にアメリカにローンチして、次にヨーロッパ、最後に日本市場にローンチすると、品質が悪いと言われて、ブラッシュアップされる、という流れがあります。日本でサービス品質を高めることで、結果、アメリカやヨーロッパの市場でも良いサービスを提供でき、評価が上がるという声を聞きます」(小林氏)

 コモディティ化したものほど日本は強い。DXをエンジンとしてうまく使い、大量にサービスを作ることへと意識が変われば、再び世界一になれるかもしれない。

 最後に丹下氏は、スタートアップへメッセージを語ってくれた。

 「技術やアイデアがあっても、特許がなければ、真似されたときに回収できません。何が当たるかわからない。特許として公開しておけば、自分で作ったアプリが当たらなくても、誰かがその技術を使って用途開発してくれるかもしれない。うまくいけば、パテント料を回収できます。
 スタートアップは、先にコア技術の特許を取って公開したほうが絶対にいい。公開してから自分でアプリ開発をしてもいいし、ハッカソンやYouTubeにアップして多くの人から用途開発のアイデアをもらうのもいい。特許を持っていることは、オセロの四隅を押さえているようなもの。戦わずして勝つために、特許をうまく活用してください」

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