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【追悼】初公開、野村克也元監督が語る「リーダーへの4つの教え」

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プロ野球の南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)で戦後初の三冠王や、監督としてもヤクルトスワローズを3度の日本一に導くなど、希代の名選手で名監督でもあった野村克也氏が今月、死去した。さかのぼること17年前、企業経営に通じる組織や人の育て方について野村氏に取材したものの、編集上の理由で事実上のお蔵入りとなった。今、そのインタビューを初公開する。(聞き手/ダイヤモンド編集部 松本裕樹)

Photo by Kazutoshi Sumitomo

監督業とは
すべてが人作り

 僕たちが現役時代のチーム作りと今のチーム作りはまるっきり異なるものです。

 かつてのチームはいわば手作りで、選手個々人の能力を上げていくものでした。しかし、今や巨人に代表されるように、巨額のカネを使って良い選手を連れてくる時代になりました。極端にいえば「カネで優勝が買える時代」になったともいえます。

 なぜこのような変化が起きたのでしょうか。

 僕の50年間の野球生活で見るかぎり、その理由は、かつての根性野球、精神野球の時代が、管理野球、情報野球に変わったことが大きいと思っています。

 かつて南海の鶴岡一人監督は、軍隊での経験からか、「特攻精神」「当たって砕ける玉砕戦法」「営倉に入れるぞ」とか、軍隊用語を使って指導していましたからね。

 いずれにせよ、かつては監督が代わればチームは強くなりました。

 ところが今は、監督を代えたからといって、必ずしも強くなるわけではない。そういう時代になったということです。

 その一方で、「組織はリーダーの力量以上には伸びない」という原則もあります。野球も同様で、監督の能力以上にはチームは強くなりません。

 監督業とは何なのか。

 監督に求められるのは勝つという結果、それがすべてです。この結果至上主義はいつの時代も変わりません。しかし、そのためには結果を得るためのプロセスが重要となります。

 プロセスとは「人作り」「チーム作り」「試合作り」の3つ。これらはそれぞれが別々のようにも見えますが、実は人作りができればチームが作られ、そうすると試合も作れる。つまり、監督業のすべては人作りだと言えるでしょう。

勝てる人に
必要な「気」

 僕が監督時代に常々選手に言ってきたのは、「技量だけでは勝てない」という実感を得ることの大切さです。

 この実感がなければ、本当の闘いは始まりません。

 実感というのはいわば無形の力です。それがあるからこそ、「ではどうすればいいのか」と思考するようになります。

 その結果、思考力・観察力・分析力・判断力・決断力などが磨かれる。そうするとデータや情報の必要性も痛感するようになるでしょう。そして、さらなる行動につながっていきます。

 こうした無形の力の有無が、これからの野球の勝敗を決めていく大きな要素になると思っています。

 では、こうした実感を得られる人と得られない人の根本的な違いは何でしょうか。

 それは「気」です。

「やる気」「その気」「勇気」、そして「負けん気」。

 こうした「気」があれば、それは執念や執着心に変わり、さらには興味や好奇心に変化していく。この「気」がなければ、感性は磨かれないでしょう。現状で満足せず、「もっと良くなりたい」「強くなりたい」という向上心がなければ、感性は磨かれないということです。

 もう一つ大事なのがプロ意識です。それは「プロとして恥ずかしい」という恥の意識です。

 僕は監督として、ヤクルトでも阪神でも同じ方法で指導しました。しかし、ヤクルトは優勝に導いたものの、阪神では失敗した。その理由は両者の「気」と「プロ意識」の差といってもいいでしょう。

 阪神の今岡誠に代表されるように、僕が監督時代には活躍できなかった選手が、僕が辞めたら首位打者になる。それほどの能力を持っていながら出そうという気がない。やる気がないんです。

 監督が代わればやる気を出すなんていうのはプロ意識のない証拠。プロは監督を見て試合をするんじゃない。お客さんを見てやるんです。入場料をもらっているお客さんに対してそのプレーは何だと言わねばなりません。

 先ほど、ヤクルトと阪神の違いは「気」と言いましたが、それに加えて、「もうかりまっか」の利害が判断基準の大阪と、義理人情の江戸っ子気質の東京という違いもあったのだと思います。ヤクルトでは僕のやり方が成功しましたが、阪神では多くの選手たちが「なんじゃそりゃ、そんなの野球と関係ない」と考えた。

 当時の阪神は甘え体質で、選手を叱ると傷ついてしまう。一方、ヤクルトは「それでもプロか」と叱ると、反発心をもって向かってきました。

 だから僕が阪神の監督を辞める時、後任をある人に託したいと思いました。いるだけで空気が引き締まり、いつ鉄拳が飛んでくるかわからないような恐怖感と緊張感を醸し出す人物でした。しかし、その人は健康状態が優れず、ドクターストップで断念しました。

 その後、星野仙一さんが中日の監督を辞めたので、僕はフロントに対し、星野さんに監督就任をお願いするよう進言したんです。阪神が強くなるには怖い監督じゃないと駄目だと言ってね。

人間学のない人に
リーダーの資格なし

 リーダーにとって人間学を学ぶことは大切なことです。人間学のない人はリーダーの資格がないと言っていいでしょう。人間学のない野球監督が結果至上主義に突っ走れば、根性野球になってしまう。

 例えば人の見極め方です。

 キャッチャー、ピッチャー、外野手、内野手の適材適所について、僕は選手たちの何げないしぐさを見ているんです。

 キャッチャーに向いていないのはどういう人物か。

 壁に飾ってある額が曲がっていても気にならない奴、ゴミが落ちていても拾わない奴ですよ。

 だから僕は選手が歩いてくるときにわざとボールを置いておくんです。拾うかどうかね。ボールなんかが置いてあったら転んで捻挫しかねません。キャッチャーに向いている人であれば、すぐに気付いて拾いますよ。他にもいろいろなところに気配り、目配りできる人でないとキャッチャーは務まりません。

 それとは逆に、ピッチャーは細かいことに気を遣う人は駄目です。

「俺の球は打てねえだろう」という人が望ましいので、自己顕示欲が旺盛で、あまり小さいことにこだわらない人が向いています。

 外野手は「この辺を守っていればいいのかな」と、あまり考えることなく、のんびりした人が向いている。だから監督には向いていないでしょうね。実際、外野手出身の監督で優勝したチームはあまりないでしょ。

 監督で一番多いのは内野手の出身者です。まあポジションが4つありますからね。でも、一番勝率が良い監督はキャッチャー出身者です。監督の分身として試合全体を見ているので、現役時代から監督に一番近いところにいる。だから監督になっても慌てないんです。

人生の価値を決めるのは
他人からの評価

 先ほど、監督業は人作りだと言いましたが、人を育てる上でも、人間学は大切です。

 仕事にはその人の人間性や考えが出る。つまり、人間性と仕事は連動しています。

 したがって、人間的成長なくして仕事の成長はないし、技術的な進歩もありません。だから、監督は選手に対して野球だけを教えても駄目なのです。

 人間学とは言いましたが、難しいことではありません。たとえば「礼に始まり礼に終わる」といった当たり前のことを当たり前に行わせるのです。

 僕は礼儀にはうるさいです。

 選手たちの挨拶は学生時代から「うーす」ですけど、僕は許しません。社会人であれば上司への挨拶は「おはようございます」です。

 そもそも「挨拶」の「挨」は開く、「拶」は迫るという意味があります。心を開いて相手に迫るということですね。「うーす」で心開く人がいるか、と叱りますよ。

 他の監督は知らないけど、僕はずっとこのやり方です。特に野球は団体競技だから、秩序やルールの感覚は大事です。茶髪やヒゲは禁止です。

「見てみ、少年犯罪で捕まっている多くが茶髪だぞ。オマエらの精神構造はそれと同じなのか。そんなことに費やす神経があったら野球に費やせ」とね。個性というのは周囲の人たちが評価して初めて個性です。「個性と流行を勘違いするな」ということですよ。

 まあ、ヤクルトでも阪神でも僕が監督を辞めたとたんに、何人もの選手が茶髪にしましたけど…。

 しかし、こんな当たり前のことすらできない選手が多い。それでは人間的な成長は望めません。だから監督の役割の一つは、こうした当たり前のことを選手に気付かせることです。

 そのためにどうするかというと、選手にいったん、野球と連動している別のことを考えさせるんです。

「人生は自分が主役で生きているでしょ」「じゃあ、なぜ人は生まれてくると思う?」「おまえは何しに生まれてきたと思う?」と考えさせる。

 選手の多くはそんなことは1回も真剣に考えたことがない。だから僕は1年に2回考えさせるんですよ。

 こうした問いに対し、僕自身はこんな風に考えています。

 人は生きるため、存在するために生まれてくる。そして人は人生を通して自らの価値と存在感を高めていかねばならない。

 しかし、人の価値というのは自分では正しく測れません。他人からの評価こそが正しいのです。したがって、人生の価値というのは他人からの評価に始まり終わると思っているんです。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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