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前回延期となった大津園児死傷事故の判決で禁固4年6カ月、遺族は何を思うのか

2020年02月17日 13時15分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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事故現場で手を合わせる人たち(2019年5月9日撮影) Photo:JIJI

大津市で昨年5月、車2台が衝突した弾みで散歩中の保育園児の列に1台が突っ込み、園児2人が死亡、園児と保育士計14人が重軽傷を負った事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)などの罪に問われた新立文子被告(53)の判決公判が17日、大津地裁で開かれ、大西直樹裁判長は禁錮4年6カ月を言い渡した。公判を巡っては1月16日に判決の言い渡しが予定されていたが、新立被告が起訴内容について争う姿勢に転じたため、大西裁判長が延期を決定する異例の事態となっていた。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

判決当日に起訴内容争う姿勢

 新立被告は昨年7月の初公判で起訴内容を認め、検察側は同12月、禁錮5年6月を求刑し結審していた。

 しかしその後、民放番組の取材に「不運が不運を生んだ事故」と他人事のように答え、さらに「(直進車が)減速、あるいはブレーキがあったらどうだったか」と事故のもう一方のドライバーに責任転嫁するような発言をしていたことが判明。

 遺族らが検察側に「テレビの発言は公判の主張と異なる」として、事実確認をしたいと要請。検察側の申し立てで弁論が再開されていた。

 弁論再開後、新立被告は突然「言いたいことがたくさんある」と口を開いた。

 そして「直進車にも過失がある」「自分が100%悪いということには納得できない」と主張。事故後に起こしたとされるストーカー事件についても、起訴内容を争う姿勢を示した。

 このため、大西裁判長は量刑に影響する可能性があるとして審理の延長を決定していた。

 公判後、遺族の両親は代理人を通じ「いかに反省していないかが分かった」「判決当日になってやり直したいと言い出す被告に振り回され、本当に疲れている」などとするコメントを出していた。

 検察側は1月21日、大津地裁に新立被告の保釈取り消しを申請。翌22日に大津地裁が取り消しを決定し、新立被告は同日、勾留されていた。

 検察側は17日、判決言い渡しに先立って論告をやり直し、改めて禁錮5年6カ月を求刑していた。

 判決によると新立被告は昨年5月8日午前10時15分ごろ、大津市大萱6丁目の滋賀県道交差点で注意を怠ったまま漫然と右折し、対向車線を直進してきた軽乗用車に衝突。

 弾みで軽乗用車が歩道で信号待ちしていた「レイモンド淡海(おうみ)保育園」の園児らの列に突っ込み、いずれも2歳の男児と女児を死亡させ、園児11人と保育士3人に重軽傷を負わせた。

 直進車の女性も同法違反容疑で書類送検されたが、法定速度を下回る速度で青信号を進み、前方不注視もなく「刑事責任を問える過失は認めがたい」(大津地検)などとして不起訴処分となっていた。

保釈中に出会い系通じストーカー

 新立被告は事故から1カ月後の昨年6月下旬ごろ、保釈中に出会い系サイトを通じて知り合った公務員男性(当時49)に対し、LINEなどで脅したとして同9月30日、ストーカー規制法違反で逮捕された。

 こちらの起訴内容は昨年8月27日夜、直接は会ったことがない男性に恋愛感情を抱き、スマートフォンにLINEで10回にわたり「やりとりを全て見せる」「それで終わり」などのメッセージを送り脅迫。

 さらに同9月2日と5日、男性の勤務先に電話し「写真もLINEも全部見せることになるよ」などと脅し、連絡を取り続けるよう要求したとされる。

 この逮捕を受けて大津市交通事故被害弁護団は「今なお癒えない被害者の苦しみを愚弄(ぐろう)するものと捉え、深い遺憾の意を表明する」とコメント。

 全国紙社会部デスクによると、重傷を負った女児の両親が代表取材に応じ「いったい何を考えているのか」「事故は人ごとか。反省していない」などと憤りを隠せなかったという。

 初公判が開かれたのは昨年7月17日。罪状認否では「間違いありません」と全面的に認めた。検察側冒頭陳述によると、知人から借りた車で買い物の帰り、考え事をしていて注意力が散漫になり、対向車に注意せず右折した。

 昨年11月12日には被告人質問が行われ「自分勝手な運転だった」「何を考えていたのか、考え事をしていたのかどうかも覚えていない」などと述べた。

 ストーカー規制法違反についての罪状認否では「間違いありません」と認め、動機については「パニック障害の薬を過剰摂取し気分が高ぶっていた」と説明した。

 被害者参加制度を利用して傍聴していた遺族らは公判後、弁護士を通じ「都合の悪いことは『覚えていない』という態度で反省が感じられない」とコメントしていた。

 昨年12月10日には死亡した男児の父親が意見陳述で「今も朝に『おはよう』、夜に『おやすみ』と語り掛けている」と言葉を詰まらせた。

 手元の資料を見ながら「病院で妻の聞いた事がない泣き声が聞こえた」「全く違う姿になった息子の姿を見て床に崩れ落ちた」。傍聴席からは嗚咽(おえつ)が漏れた。

 そして「ある日突然、大切な子どもを失う気持ちが分かるか」「加害者ではなく、被害者のための判決を望みます」と訴えた。

 同日、検察側は論告で「進路の前方を確認していれば対向車に気付くのは容易だった」「漫然と右折した無謀な運転は重大な非難に値する」と厳しく指弾した。

「キッズゾーン」で安全対策に着手

 現場となったのは琵琶湖の湖畔で見通しが良く、歩道も広い丁字路。縁石はあったが、ガードレールは設置されていなかった。

 ドライブレコーダーなどを解析した大津署の調べなどによると、園児らの列に軽乗用車が突っ込んだのは衝突の約1秒後。逃げる間もなかったのは明白だ。

 京都府亀岡市で2012年4月、集団登校中の小学生らの列に軽乗用車が突っ込み、付き添いの妊婦ら10人が死傷した事故などを受け、文部科学省が全国の通学路を対象に緊急点検を実施。

 交通量が多い場所やガードレールのない歩道など計約7万5000カ所の危険な場所を特定し、9割以上で対策が取られた。

 一方、幼稚園や保育園の経路や今回のような「散歩コース」などは安全確認の対象になっていないのが実態だ。

 滋賀県と大津市はこの事故を受け、県内の幼稚園や保育園の散歩コースを点検。大津市は昨年7月、全国で初めて、保育施設周辺でドライバーに注意を呼び掛ける「キッズゾーン」を設置した。

 厚生労働省も小学校や幼稚園の周辺に設置する「スクールゾーン」に準じる安全対策を検討。他の自治体でも独自に安全対策に着手する動きが出てきた。

 大津での事故を受け、行政による安全対策は進んでいるが、失われた生命は戻ってこない。遺族の無念さはいかばかりだろう。

 この事故の公判では、被害者弁護団を通じて発せられる遺族らのコメントは一貫して「被告が反省しているとは思えない」だった。

 一般論だが、弁護人が被告の罪を軽くするための訴訟戦略として、本心とは裏腹に起訴内容を認めさせ、謝罪させるのは常とう手段だ。

 一方で弁護人のアドバイスを拒否してでも、本音を明かして事実関係を争うのは被告の権利であるし、むしろそのほうが健全だ。

 いずれにしても、心のこもった謝罪と悔恨がなければ遺族が納得できるわけがないし、犠牲者が浮かばれないのは言うまでもない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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