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2年間引きこもりだった妻を変えた、夫の「伝え方」とは

2020年02月17日 06時00分更新

文● 森田汐生(ダイヤモンド・オンライン

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2年間引きこもりだった妻が旅行に行けるほどにまで元気になった理由は(写真はイメージです) Photo:PIXTA

多くの人の悩みでよくみられるのが「人間関係」。特に、親や夫婦、友人、仕事仲間といった身近な人たちと良好な関係を長く維持することは簡単ではありません。そこで役立つのが「アサーティブ」というコミュニケーション法。これは、「相手も自分も尊重する」という方法で、身近な関係を長続きさせるためには欠かせないスキルです。そこで今回は、20年以上にわたって「アサーティブ」なコミュニケーション法を提唱してきた森田汐生氏の新刊『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか?』(青春出版社)から、具体的なストーリーを交えつつ、身近な人とうまくいかなくなった時の「アサーティブ」な解決方法を紹介します。

“引きこもり”の妻を励まそうとしたら逆効果に…

 コンサルタントの仕事をしているタケシさん(仮名)は、3年ほど前から妻が家に引きこもるようになったことに悩んでいました。外に出ないというだけでなく、次第に朝、布団からも出なくなってしまったのです。最初、タケシさんは、急に妻の様子が変わったことに戸惑い、悩み、本を読んだり、知り合いの医師に相談したりしましたが、軽いうつか、更年期ぐらいにしか考えていませんでした。

 しかし、そんな状態が2、3カ月、やがて半年が過ぎると、さすがにタケシさんは「何とかしなければ」と思うようになり、まずは著名なドクターのいる病院に妻を連れて行きました。いろいろと検査をしてもらいましたが、診断は「異常なし」。うつでも更年期障害でもないというのです。とりあえずホッとしたタケシさんでしたが、今度は「自分が何とか妻を元気にしてあげよう」と思い、食事に誘ったり、旅行に誘ったりして一生懸命励ましました。

 そんなタケシさんの頑張りに逆行するかのように、妻は一歩も外へ出ようとはしませんでした。それどころか、タケシさんと話をすることも徐々に拒否するようになったのです。当時のタケシさんは「妻が心配だ。早く元気になってほしい」という思いが強く、妻に対しても「自分で治る努力をしてほしい」と感じていました。しかし、その気持ちを妻に話せば話すほど、彼女は心を閉ざすようになったのです。

 いつしか、「今日の気分はどう?」と聞いても、何も返事が返ってこなくなり、ついには会話も途絶えてしまう状態に。タケシさんは妻のことを思ってあれこれ心配をしているはずなのに、なぜ相手に伝わらなかったのでしょうか?

「妻への心配」と見せかけて「自分の焦り」だった!?

 その頃から、妻とのコミュニケーションについて考えてみるために、タケシさんは「アサーティブ」の講座に参加し、自分の優しい気持ちを伝える練習や妻を勇気づける演習ばかりしていました。それでもなかなか状況が変わらないことに困り果てていたタケシさんに、私はこうアドバイスしたのです。

「タケシさん、それは自分の気持ちを伝えるというよりも、自分の不安を解消したくて奥さんを変えようとしているように見えるよ。自分の不安を解消したいことが伝えたい理由だとしたら、奥さんの心にはたぶん、届かないと思うな。あなたの本当の気持ちは『心配』じゃなくて、『不安』で焦っているんじゃないかしら」

 このアドバイスを反芻していくうちに、タケシさんは自分の心の中が少しずつわかってきたといいます。

「自分は焦っていたし不安だった。妻がこのままではダメになる。そうなると、『妻を助けられなかった』という無力な自分に向き合わなければならなくなる…自分はこんなに必死にサポートをしているのに、なぜ妻は変わろうとしないのだろうか。妻だって、もっと自分から治る努力をすべきではないか。妻は変わるべきで、変わろうとしない妻が間違っている。そう、思っていました」

 つまり、妻に変わってほしかったのは、妻を大切にしているからではなくて、自分の気持ちを優先していたから。知らずしらずのうちに、妻に対して上から目線になっていた自分がに気づいたとき、タケシさんは自分が恥ずかしく、妻に対して本当に申し訳なく思ったそうです。

「相手を大切にする」と自分も変われる

 その日から少しずつ、妻にかける言葉が変わったというタケシさん。これまでは、「もっと○○しようよ」「外に一緒に行こう」「ご飯を食べに行かない?」など、どこかで彼女を動かそうという気持ちで言葉を発していましたが、その日妻に伝えたのは、「そうだよね、今は寝てたいんだよね。寝てたいんだったら、寝てていいさ。僕はいつでもそばにいるからね」。

 そう伝えた後、驚いたことにタケシさん自身がとても楽になったそうです。

 これまでは「妻が苦しんでいるから、自分が何とかすべきだ」「妻が変わらないのは自分の努力が足りないせいだ」と思って、自分を責めていました。そして「自分も、実はしんどかった」ということに気づいたのです。「いいよ、そのままで」と思えて、それを言葉に出すことができて、それから、肩にあった重い荷物が一気に消えた気がしたとタケシさんは言います。

 タケシさんの接し方が変わって3カ月ほど経ったころから、奥さんは起き上がって、彼が持ってきたお茶を一緒に飲むようになり、さらに、タケシさんが作った朝食を食べるようにもなりました。そして、「2年経った先月は、夫婦で一緒に旅行に行きました」と、晴れ晴れした顔でタケシさんは教えてくれました。

「アサーティブ」の目的は相手も自分も幸せになること

 タケシさんのこのストーリーから学んだことは、「『誠実になる』とは、自分が気持ちよくなるために相手を変えることではない」ということです。自分が本当に大切にしていることを、自分の中にストンと落とす自分が満足すればよいのではなく、相手が幸せになることが自分の幸せにつながるのだと“わかる”こと。生身の人間という相手を、自分の「そうあるべき」フィルターを通さずに見ること。そして、そのままの相手をOKとして、心に迎え入れること。相手を大切にするというのは、そういうことなのでしょう。

 しかし、大切にしたい相手の気持ちを、そのまま受け止めるというのは、しんどい作業かもしれません。それは、「相手にこうあってほしい」という自分のコントロールの欲望をいったん捨てて、自分の鎧を脱いで無防備になることだからです。

 自分の見えている世界が「正しい」ものではなくて、相手には相手の見えている世界があり、ストーリーがある。それを変えることはできない。だからただ、相手を対等な人間として「受け止める」。自分が大変だったということと同じように、相手も大変だった。その真実を、“透明な目で”見る。そのまま見る。タケシさんが妻との関係を取り戻すことができたのは、そんな彼のありようの変化が大きかったのかもしれません。

 アサーティブが大切にしている心の姿勢に、4つの柱があります。「自分に正直で相手にも誠実であること」「相手に伝える時は率直であること」「自分も相手も尊重して対等であろうとすること」「自分の行動によって起こる結果に責任を持つこと」の4つです。

 相手を変えようとするのではなく、私たち自身が誠実で率直であり、対等な目線で、誰をも責めないスタンスで立つこと。相手からの信頼を勝ち得ることができるのは、私たちのそうした心のありようの結果なのかもしれません。

 今回のタケシさんのストーリーのように、「伝え方」を工夫することで、相手への伝わり方は変わります。アサーティブなテクニックを使うことで、自分の言いたいことは確かに「伝わる」ようになります。しかし、「伝わる」ようになることが、アサーティブの目的ではありません。コミュニケーションを変えていくことで、相手とより豊かな関係を築くこと。そうすることで、自分自身が幸せに生きられること。それが、「アサーティブに伝える」ことの根本にあるのです。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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