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バド桃田選手の眼窩底骨折は、なぜあっさり見逃されてしまったか

2020年02月14日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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桃田賢斗選手は右目眼窩底骨折が判明し、緊急手術を受けたが、眼の違和感はバドミントン選手にとって致命的な問題になりかねない Photo:Zhong Zhi/gettyimages

 桃田賢斗選手の右目眼窩底骨折が明らかになった。全治3カ月の診断、「シャトルが二重に見える」と聞き、「東京オリンピックに間に合うのか?」という不安が日本中に広がっている。

 交通事故に遭ったマレーシアからの帰国後に行われた精密検査の結果は、「特に異常は認められなかった」と報じられていた。日本代表合宿に参加した直後だっただけに、なぜ精密検査でわからなかったのか、疑問の声が上がるのも無理はない。

五輪金メダル候補の選手が
なぜ「骨折」を見逃されたのか

 報道を整理すると、桃田選手が練習に復帰したところ、「高い打球を見上げたとき、シャトルが二重に見え、違和感があった」という。旧知の専門家に確認すると、「日常生活程度の眼球の動き、つまり目の前の食卓の範囲を見るくらいの動きでは特に痛みや違和感はなかったが、コートに出て、大きく上下に目を動かしたとき症状が出た。それくらいの軽度の眼窩底骨折ではなかったのか」と推測してくれた。

 それにしても、精密検査で骨折を見逃すことがあるのか?

 フジテレビ『バイキング』に一緒に出演した麻生泰医師によれば、「現代の日本の医療機関が使っているCTスキャンで見逃すことはまず考えられない」と言う。あくまで推測だが、「軽度の骨折は分かっていたが、手術をする必要はないと判断していたのではないか」と麻生医師は語っていた。一般の生活者なら自然治癒で対応できる、ところがバドミントンのような激しい競技で早期復帰を図るにはやはり手術が必要と分かったのだろう。

 単純な見逃し、医療ミスではなかったと思いたいが、患者がバドミントンの世界チャンピオンであり、半年後に金メダルを争う大切な選手だという認識は当然あるはずだから、一般の生活者と同じ判断基準を用いたとすればそれもおかしな話になる。

 桃田選手がマレーシアで交通事故に遭った際に乗っていたのが安価なワゴン車だったこともそうだが、日本中が固唾を飲む思いで応援している金メダル候補たちが、こうも杜撰な環境、無神経な医療支援しか受けられずにいるとは絶望的な気持ちになる。

 この一件を見る限り、日本のスポーツ医療の現場のレベルは恐ろしく低く、配慮もない。

視覚のプロフェッショナルを
桃田選手のブレーンに迎えるべき

 モノが二重に見えるのは、眼窩底骨折した右目が起こしている異常ではない。人は左右の目でそれぞれ外の光景を捉えている。本当は、両目の幅の分だけずれた二つの像が脳に送られている。脳はこれを瞬時にひとつに重ね合わせ、いつも私たちが見ている自然な視覚に調整している。

 ところが、左右の目の機能に大きな差があると、瞬時の調整がうまくいかず、二重に見える。例えば、手のひらで片目ずつサッサッと隠し、見える映像が少し左右にズレる程度なら大丈夫だが、高さが大きく上下するような差異がある人もモノが二重に見える場合がある。

 桃田選手の場合、左目の動きは正常だが、右目の動きに支障があって左右のバランスが崩れているのではないかと見られる。

 ある医師によれば、手術によって改善はされるが、二重に見える状況が改善されるのに1、2年かかる人もいるという。先ほどの麻生医師も、「この症状の改善は通常、半年くらいの期間でみる必要がある」というから、東京オリンピックでの活躍を前提に考えれば、決して楽観視できる状態ではない。

 私は、オリックス時代のイチロー選手をはじめ多くのスポーツ選手の目を検査し、それぞれに適したメガネの処方やモノの見方の助言をしているビジョン・トレーナーの田村知則さんと『眼が人を変える』という本を出版した経験がある。

 田村さんが処方するメガネは、単に片目の度数を合わせるのでなく、両眼でモノを見るときの各自の癖を詳しく調べ、必要があればプリズムを施して「気持ちよく両眼で見えるメガネ」を提供してくれる。

 そういう処方をすれば、桃田選手の助けにもなるのではないか。確認すると、どうもそれほど簡単ではないようだ。もちろん、実際に検査しなければ断定できないと断った上で、田村さんが教えてくれた。

「二重になるズレが上下左右一定なら容易いですが、例えば上の動きと下の動きではズレが逆になる場合もあります。もしそうであれば、(処方は)簡単にはいきません」

 また、二重に見えるようになったことで、いままでは自然体で行っていた「見る」という行為に、余計な神経や意識を使う。それによる体への負担、首や肩の凝りなどの疲労も影響を与える心配があるという。さらに心配な情報がある。

「見えにくい場所ができる心配がありますね」(田村さん)

 例えばだが、上方や右手前など、いままで自然に見えていた場所が見にくい、対応が遅れる、死角のようなスペースができる可能性がある。しかも自分ではなかなか自覚できない場合、大きな弱点になってしまう。もしライバルにそれを見破られれば、付け入られる恐れもある。

 あくまで可能性の話だが、それを未然に回避し、対応するためにも、桃田選手には視覚のプロフェッショナルをブレーンに迎える選択も重要ではないだろうか。

 一連の事故と医療対応の遅れを見て感じるのは、残念ながら、桃田選手を支える周辺チームのプロとしての意識とレベルの欠如だ。東京五輪で金メダル30個獲得を目標に掲げ威勢はいいが、日本スポーツ界の体制はそれに相応しいレベルなのか? 意識改革とレベルアップの必要性が問われている。

(作家・スポーツライター 小林信也)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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