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日本製鉄の抜本改革、高炉休止の次は神戸製鋼との統合も検討?

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日本製鉄の宮本勝弘副社長(左)と右田彰雄副社長。日鉄上層部では、昨年5月ごろから設備統廃合の本格的な協議がなされていたようだ Photo by Mieko Arai

日本製鉄が、新日本製鐵と住友金属工業の統合以来、維持にこだわってきた生産能力の大幅削減に動く。今回休止の対象となったのは呉製鉄所(広島県)などが中心だが、改革はこれで終わりそうもない。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

「俺は嫌われてもいいんだ」。鉄鋼最大手の日本製鉄(旧新日鐵住金)の橋本英二社長はここ数カ月、覚悟を決めたようにこの発言を繰り返していたという。

 まさにその覚悟を形にして示したということか。2月7日、日鉄は生産能力の大幅削減を発表した。主な施策は、現在は完全子会社で、4月1日に吸収合併する日鉄日新製鋼の呉製鉄所(広島県)の2023年9月末までの閉鎖。そして、和歌山製鉄所の第1高炉の22年9月をめどとした休止だ。

 全工程の一貫休止(呉)や、09年に火入れしたばかりの新しい高炉の休止(和歌山)といった異例の合理化を行うことで、年間約1000億円の収益改善を図る。

 だがそれと引き換えに、新日本製鐵と住友金属工業が統合して新日鐵住金が誕生して以来、「こだわり過ぎだと思うほど維持にこだわってきた粗鋼生産量」(金融筋)は年間約500万トン(連結ベースで10%相当)減少する見込みだ。

 製鉄所は関連・協力会社が多く、地元経済を支える大黒柱のような存在でもある。今回、日鉄は人員カットを行わないというものの、グループの従業員だけで約1600人が配置換えを迫られることになり、社内外の衝撃は大きい。

 それでも、日鉄がこうした生産拠点の抜本改革に踏み切ったのは、鉄鋼業界が今、前代未聞の窮地に陥っているからだ。

 まず、米中貿易摩擦の勃発による景気悪化をカバーしようと、中国政府が積極的なインフラ投資を実行。それに呼応する形で中国現地の鉄鋼メーカーが過去最高レベルまで生産を急増させたため、原材料の“爆買い”によって鉄鉱石等の価格が高騰している。

 一方で、米中貿易摩擦による世界経済の低迷で鋼材需要はぱっとしない。特に自動車などに使われる主力の「薄板」は、海外市況の下落が激しい。特定顧客向けの「ひも付き」契約についても、値上げはそう簡単でないのが実情だ。

 業績への打撃は深刻だ。20年3月期は、在庫評価差を除いた実質営業損益が製鉄事業を展開する単独ベースで3期連続の赤字になる見通しである。

 連結ベースでも、継続的に赤字を計上していた鹿島製鉄所(茨城県)や名古屋製鉄所(愛知県)といった主力拠点が減損損失の計上に追い込まれ、4400億円の最終赤字に転落する見込みだ。赤字幅は過去最大である。

 こうした状況にあっては、将来の市況回復を夢見てはいられない。そもそも、中国製の鋼材が中国国外に流出し、市況がさらに悪化する恐れも拭えないのだ。国内需要の減少懸念もある上、日鉄の製鉄所はどこも老朽化しており、全ての設備を更新する余裕もない。設備統廃合は必然だった。

 休止する設備は「グループ内で相対的に競争力・実力があるかどうか」(右田彰雄・日鉄副社長)で決断したという。そこに、温情のこもった判断はない。

 日新の呉は、17年に新日鐵住金(当時)が日新を子会社化した際、新日鐵住金幹部が「われわれの技術力を投じれば相当強い製鉄所に生まれ変われる」と豪語していた製鉄所だ。だが、西日本豪雨に見舞われた後に火災まで発生し、「壊滅状態となって閉鎖を余儀なくされた」(日鉄関係者)。

 和歌山の第1高炉は、住金出身者の思い入れがすさまじい。新日鐵住金が誕生する前、「もしこの先、新日鐵と統合することになったとしても、住金の高炉が残るようにと下妻博会長以下、当時の住金経営陣が建てた」(旧住金社員)といわれる高炉だからだ。

 しかし、「和歌山は半製品の供給基地だが、国内を中心に市場縮小が免れないため、必要性が低下する。それに、やはり製鉄所は製品になるまで一貫生産してこそ競争力が出るのだが、和歌山には(粗鋼から鋼材を造る)下工程が少ない」(日鉄幹部)と、こちらもシビアな決断が下されている。

休止候補と目された鹿島が統廃合を免れた訳

 もっとも、これで日鉄の設備合理化策が十分であるとはいえない。

 例えば鹿島だ。赤字であることもさることながら、これまでにも建築向けの薄板ラインやエネルギー向けの「UO鋼管」ラインが止められ、近隣の君津製作所(千葉県)等に集約。それだけに、2月7日の発表前には休止候補と予測する向きが多かったほどなのだ。

 今回、鹿島の高炉が統廃合の対象にならなかったのは、年間716万トン(19年3月期実績)という粗鋼生産量があったからだとされる。日鉄では大分製鉄所、君津に次ぐ規模であり、安易に休止を決めれば他所で代替生産し切れず顧客を失うリスクが高かった。

 鹿島は限界利益(売上高から変動費を差し引いた利益)がまだ出ていたため、再投資が必要ない間は稼働させておくのが賢明だと判断されたようだ。

 ただし、当の日鉄自身が「一層競争力ある最適生産体制の構築に向けた検討を継続する」と明言している。市況悪化と需要減少がさらに進めば、もう一段のてこ入れも辞さないということだ。「もはや、日本の鉄鋼業界の存在意義が問われている状況だ」。前出の日鉄幹部がこう語るように、個社ベースではなく、競合を巻き込んだ「業界再編成」まで行われそうな雲行きである。言うまでもなく、日鉄が組み得るパートナーは独立を保ってきた神戸製鋼所だ。

 神戸製鋼と製鉄事業を統合すれば、粗鋼生産量年間691万トン(19年3月期実績)の同社の加古川製鉄所(兵庫県)を核に、鹿島を含むさらなる最適生産体制を構築できる公算が大きい。

 神戸製鋼の製鉄事業最大の強みは、自動車のエンジンなどに使われる「線材」と呼ばれる特殊鋼にあるといわれてきたが、ここに来て神戸製鋼の製鉄所そのものの価値が見直されようとしている。

 環境が厳しい中、日新の子会社化がシェア拡大による企業規模の維持に一役買っているように、神戸製鋼との統合もまた日鉄にとって意義があるといえる。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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