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国内初の自治体による自律走行バスの運用がスタート!

2020年01月28日 18時30分更新

文● 鈴木ケンイチ 編集●ASCII

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 1月27日、茨城県境町は2020年4月をめどに、自律走行バスの定時・定路線での運行を行なうと発表した。これは、公道における自律走行バスの実用化を意味し、自治体としては国内初の事例となる。自律走行バスの運用をサポートするのは、SBドライブとマクニカだ。

 境町は5年間5億2000万円の予算を用意。マクニカを通じてフランスのNAVYA(ナビヤ)社から3台の自律走行バス「NAVYA ARMA」(ナビヤ アラマ)を購入し、SBドライブの自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher」(ディスパッチャ―)を活用して、自律走行バスを運行する。

 実用化のプロデュースがSBドライブで、車両のメンテナンスはマクニカが担当する。ただし、車両をフランスから送るのに時間がかかるため、当面はSBドライブ社が保有する車両で準備と運行を予定。夏頃をめどに新車と切り替えるという。

わずか2ヵ月間で議会の了承を得て
実用化にこぎつけた

 「われわれの境町には駅はございません。近くの駅は、茨城県内の古河駅ではなく、埼玉県内の東武動物公園駅になります。そんな課題を解決するために、今回のプロジェクトを立ち上げたところです」とは境町の町長である橋本正裕氏。利根川と江戸川の分岐点にある境町は、かつては水運の要所として栄えたけれども、現在の人口は2万4000人ほどで減少傾向にあるという。

 公共交通手段となる鉄道の駅はなく、街中を走るバス路線もひとつだけ。空港などにつながる高速バスのターミナルは街の郊外にあり、そこまでの公共交通手段がないという状態であった。そこで目を付けたのが、自律走行バスだったという。

 驚くのは、境町の町長である橋本氏がSBドライブの自律走行バスを知ったのは、2019年11月26日のネット記事であったという。そこからわずか2ヵ月で、境町議会の了承、境町での試乗会開催、そして記者発表まで来たということ。過去、50を超える実証実験を行なってきたSBドライブだからこそできたスピード感だろう。

 「今回、われわれは街中で3台、定常運行を5年間やるのが目標です。イメージとしては、河岸の駅さかいというパン屋があるのですけれど、そこから街中を通って、病院や郵便局、小学校、そういうところを通って基本ルートを作ります。そしてゆくゆくは、地方の課題である公共交通網がなくなる未来に手を差し伸べることを考えています」と橋本氏。

左より、マクニカ イノベーション戦略事業本部長 佐藤篤志氏、茨城県境町町長 橋本正裕氏、SBドライブ 代表取締役社長兼CEO 佐治友基氏

左より、NAVYA社チーフデベロッパーオフィサー ヘンリー・コロン氏、マクニカ イノベーション戦略事業本部長 佐藤篤志氏、茨城県境町町長 橋本正裕氏、SBドライブ 代表取締役社長兼CEO 佐治友基氏

 最初の想定ルートは街中心部の南にある「河岸の駅さかい」と、北にある「勤労青少年ホーム」を結ぶ約2.5㎞。街の主要拠点を巡るルートだ。そしてニーズにあわせて順次路線を拡大してゆくという。ちなみに運行にかかる年間1億円程度の費用は、独自にスクールバスを運行することを考えれば、「そんなに高いという感覚もない」と橋本氏は言う。

“横に動くエレベーター”を目指す

 「今できること。それは何かというと、“横に動くエレベーター”だと思います。定時・定路線で動く、まるでエレベーターのような乗り物。運行速度ではなく、高頻度で巡回することで、より便利さを実感させてくれるもの。それが“横に動くエレベーター”です。そして、いつしか車内には運転手がいなくなり、エレベーターガールがいなくなり、今のエレベーターのように当たり前に無人で使うことができる。こうした考えを持って実用化したいのですが、それを境町でやっていきたいと思っています」とSBドライブのCEOである佐治友基氏は説明する。

 実際の運用では、1台の車両に対して3人が関わる。遠隔でバスを見守る運用管理者、運転手、そして保安要員の3名だ。車両に乗り込むのは、運転手と保安要員であり、保安要員は乗客への案内やドアの開け閉め、車いすでの乗車のサポートなどを行なう。保安要員は添乗員役でもあり、佐治社長の言うところの“エレベーターガール”に該当するものだ。

 運転手は車庫から運行ルートまでの移動時の運転をするだけでなく、万一のときの運転も担当する。そのため車両の性能は自動運転レベル4に相当するが、実際の運行では運転手が常時監視しているレベル2となる。

 また、運行速度は時速19㎞以下。これは現在の法制度を守るためのものであり、将来的にレベル4を容認する法改正があれば、運転手なしの運行を考えているという。

 使用される車体はフランスのNAVYA社のEVバスの「NAVYA ARMA」。全長4.75m、全幅2.11m、全高2.65mの11人乗り。運転手用の座席があり、ゲーム機のコントローラーで運転もできる。レーザーレーダー(LiDAR)とGPSを使って現在位置と周囲を監視。障害物があるときは自動で停止する。車内に緊急停止のボタンもあるので、運転手や保安要員、乗客がクルマを停めることも可能だ。

 SBドライブとしては、境町に遠隔監視のためのオフィスを設置し、運転手や保安要員などを派遣する。そして、将来的には「パターン化参照モデル」として、全国の他エリアへの展開もにらんでいるという。「ゆくゆくは、交通の課題をITが解決に貢献してゆく時代になればと考えています」と佐治社長。

 課題は、同じルートを走る一般車両との調和や、路上駐車の存在だという。“低速で走る厄介者”と認識されては困るし、路上駐車を避けるために対向車線にはみ出すのは危険になるからだ。つまり、自律走行バス側だけでなく、地元の人々の理解と協力も必要になってくるのだ。さらに、実際に運用を始めれば、予想外の課題も見つかることだろう。しかし、そうした課題をクリアしてゆけば、“うちも自律走行バスを導入したい”という次なる自治体が表れるはず。自律走行バスの普及は、境町での運行の是非が大きな影響を与えることだろう。

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 

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