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LGWAN対応を実現したkintoneは自治体でどのように役立つのか?

神戸市と市川市がkintone導入の経緯と効果を語る

2020年01月28日 09時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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家に居ながらLINEで住民票申請が可能に! 市川市のデジタル化は市民志向

 後半、砂川氏からマイクを受け取ったのは、千葉県市川市の佐藤 晴彦氏。千葉県市川市がICT利用に積極的に取り組み始めたきっかけは、2018年の新市長就任だった。村越 祐民市長は、「ICTを活用した先進的な取り組みにより市民サービスを劇的に向上させる」ことをミッションのひとつに掲げた。神戸市が職員の業務効率化にICTを活用しているのに対して、市川市の目標はセッションタイトルの通り「『来なくて済む市役所』を実現する」ことだ。

 具体策のひとつとしてまず注目したのは、普及率が75%を超えているスマートフォンの活用だった。スマートフォンから様々な行政手続きができるようになれば、市民は市役所に出向く必要がなくなる。市役所の窓口は平日の17時までしか開いていないため、行政手続きのために仕事を休む市民もいた。この一部でもスマートフォンから申請できるようになれば、自由な時間に好きな場所から手続きができるようになる。

「スマートフォンでの手続きを実現するにあたり、ふたつの選択がありました。ひとつ目は、独自アプリを開発するのか、既に普及しているアプリを活用するのかという点です。独自アプリの開発には時間もお金もかかる上に、わざわざ新しいアプリをダウンロードしてもらうというハードルがあるので、既に普及しているアプリを活用し普段使いの延長で市役所のサービスを利用してもらおうということに決まりました」(佐藤氏)

市川市役所 副主幹 佐藤 晴彦氏

 ふたつ目の選択はもちろん、どのアプリを使うかということ。これについては様々なスマートフォンアプリの普及率を比較し、全年齢層で利用率の高いLINEを入口にすることに決まった。LINEで受けたメッセージ申請を管理するためのデータベースには、クラウドで利用できるkintoneを採用。新市長就任から1年足らず、2019年3月からLINEとkintoneを連携させた申請システムの実証実験が始まったことから、スピード感重視の選択は成功したと言えるだろう。

「行政手続きの中で最も取扱件数の多い、住民票の写し等の申請から、実証実験を開始しました。市民がLINEで入力した内容がkintone保存され、各担当課の職員が受理して処理を行ないます。住民票の写しなどは郵送され、市民のみなさんはご自宅で待っているだけで受け取れます」(佐藤氏)

 なお、この際かかる行政手続きの手数料はLINE Payで支払うのだそうだ。普段から使っているアプリ、普段から買物に使っている決済方法で使えるのは利用者拡大に向けたハードルを下げるうまい手だ。

LINEを窓口として住民票を取り寄せる際の業務の流れ

 実証実験を経て、いまは次のステップに進んでいる。ひとつは対応する手続きの拡大。利用者が多く市民が喜んでくれるもののうち、市役所でなければ手続きできないなどの法的制限がかかっていないものを順次取り込んでいきたいと佐藤氏は言う。もうひとつは、申請窓口の多様化だ。こちらも実際の取り組みが始まっており、駐輪場の申し込みがWebアプリ化された。

「入口はWebなのですが、入力されたデータはkintoneに入力されるので、バックエンドの仕組みはそのまま流用できます」(佐藤氏)

 そのシステム側にkintoneを選択した理由だが、佐藤氏はドラッグ&ドロップで簡単に職員自身がアプリを作成できること、広範囲に渡る行政サービスに活用できること、アプリの追加や拡張が容易なことを挙げている。

「従来のシステム開発では業者選定、要件定義などに時間がかかるだけではなく、修正や機能追加のたびに業者に依頼しなければならないのでニーズの変化に柔軟に対応できません。kintoneは職員が自分でアプリを作ったり修正したりできるので、ニーズの変化にスピーディに対応できます。実はリリース直前に発覚した課題が実際にあったのですが、自分たちですぐに直せたので、予定期日通りにリリースできました」(佐藤氏)

 市川市の取り組みには、もうひとつ大きな特徴がある。それは部署を横断して選抜された職員によるプロジェクトチーム体制で進められたことだ。そこにサイボウズやLINEなど外部のメンバーも入り込み。チームワークを発揮してタイトなスケジュールでの開発を実現できたと佐藤さんは振り返っている。

両担当者とも、一体感を持ったチームワークをパートナーに希望

 最後に、サイボウズ蒲原氏のファシリテートでパネルディスカッションが行なわれた。そこで印象に残ったのは、神戸市の砂川氏、市川市の佐藤氏が揃って「kintoneはツールでしかなく、ツールの導入自体は目的ではない」と語っていたことだ。解決したい課題ありきで、それに柔軟に対応できたのがkintoneだった。どのツールも一長一短あるものなので、とにかく使ってみてそれを体感しながら選ぶべきだとも語られた。砂川氏はそのために、kintoneを30日間使える試用アカウントをとりあえず作成することを勧める。

kintoneを自治体で活用するためのポイントを聞き出すパネルディスカッション

 もうひとつは、パートナーとの関係だ。佐藤氏は「単なる発注者、受注者という関係を超えて、ひとつのチームとして一緒にシステムをつくりあげたことが、ひとつの成功要因」だと述べた。砂川氏もこれに賛意を示し、「DXの本質はシステム内製化だと思っているので、パートナーという立場ではあるが現場にもっと入り込んで、併走しながら提案してほしい」とパートナーに期待を託した。

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